5.俺、年上だから大丈夫
今からお説教を始めます!
「うぅ~ばぅうつっ~!!!びゃうおぅ~!」
分かったか!今後赤ちゃんの取り扱いには気をつけるように!
どうせ通じないのにやってて空しくならないかって?こういう事はヤルことに意味があるんです。たぶん。
「おぉ!なにやら怒っているな。《ヤマト》姓を名乗ったのが気に障ったか?だがこれは俺の感謝の証だ」
やっぱり通じてなかったか。確かにヤマト姓には驚いたけど。
ま、とりあえずそれはいい。天才魔術師様、言葉は通じるようにできませんか?
「が~ぅお、おぁ~ぅお?」
「ありがとう、許してくれるか。さすがヤマト。相変わらず優しいな」
全然通じないな。そして俺がヤマトなのは確定事項なんだな。どうしてわかったんだろう?おしゃべりしたいよー!
「おぅ~ううぅだぁ~!」
「埒があかんな。喋れるようになった頃に会いに行く。今日は帰るか」といってまた小脇に抱えられた。
『ぎゃーーーー!』だからそれやめろ!!!
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教会にサテラ様、ガイル、母様が残されたまま立っていた。
みんな激オコ。だろうね。めちゃんこ怒られるがいい!
~~~赤ちゃんを乱暴につれていくなんて!おむつの準備とか考えていました?授乳の時間をご存じでして?どこに行くのか伝えてから消えろと何度言えばわかるのか?いつ頃どこに帰るかを伝える必要は感じないものですの?~~~
ふっふっふ。いい感じに怒られているな。
でもよく考えるとこの流れで、ワーニーが、みんなに俺が大和だって伝えちゃうかもしれないぞ。それは困った。
なにより母様には今現在バレては大変困るのだ。可愛い我が子の中身が30のおっさんだとわかって授乳してくれると思う?愛情どっか消えちゃわない?
騙しているようで本当に申し訳ないが・・・ワーニー頼む、勝手にバラさないで!
怒涛のお説教が終わり、心なしかしょんぼりしたワーニーは
「以後気をつけるようにしよう」と言って瞬間移動していった。家族は置いてけぼりなの?自由だな、あいつ。
ま、いい、今のところバラされずにすんだ。
ガイルはお仕事へ、母様と俺は王宮へ向かうことになった。初めての王宮。楽しみだな。
あ、また寝てた。馬車に乗ると寝ちゃうんだな。どうやらここはヤーニーの部屋のようだ。小さなベッドに二人で寝かされている。寝てるヤーニーも天使。まつ毛長っ!小さなぷにぷにの手に水色のウサギのぬいぐるみを抱っこしている。お気に入りなのかな。
「お目覚めですか?お白湯飲みましょうね~」と言って俺を抱っこしたのは知らない女の人、でも制服っぽいのを着ているのでヤーニーのナニーかな?
ヤーニーも起きてきて「ふえぇ~ん」って泣きだしたが、俺が視界に入ったとたん泣き止んだ。
俺のこと好きになっちゃった?照れちゃうなぁ。
入れ替わりでヤーニーもお白湯を飲んで、飲み終わったころに母様達がやって来た。
「二人並んだら可愛いさ倍増ねぇ!」
「姉様!ヤーニー様がウェルの手を握っていますわ!」
「いやぁ~~ん、カワイイ!」
と興奮気味で話をしている。
サテラ様は王妃なんだろうに、自宅にいると、結構キャピキャピ系だ。
母様も家では使用人たちの手前それなりに取り繕っているんだろう、今は姉の前で素が出ているようだ。女性のおしゃべりは情報の宝庫だ。しっかり耳を澄まさねば。
あぁ、でもヤーニーが、ウサギのぬいぐるみを差し出してくる。大事なものなのに、俺に貸してくれるの?
ウサギを『なでなで』
あぁ、とっても満足そうに笑ってる。僕のウサギ、最高でしょ!って言っているみたいだ。
結局、情報収集をする暇もなく、ヤーニーに翻弄されただけで帰宅時間となってしまった。恐るべしヤーニー。
この国は命名式が終わると母親が自由に外出できるようなるらしく、母様はお出掛けしていることが多くなった。もちろん俺はリタとお留守番だ。つまらない。
月に一度くらいは王宮に遊びに行けるが、その時だけが唯一のお楽しみだ。
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そして俺は順調に成長して一歳半。結構上手に話せるようになった。
もちろん周りが驚くほど早くオムツは卒業してやったぜ!まだ上手に拭けないからオマルにするだけであとはお任せだが進歩だ!
歩くのは頭が重いからか思ったほどスムーズには歩けていない。でも自由に行動できるのだから贅沢は言うまい。
屋敷の使用人たちはみんな俺にメロメロだ。
「おはよ!」っていうと喜ばれ
「ありあと!」っていうと感動される。勘違い人間にならないように気を付けねば。
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そんなことを考えていると、ワーニーが、ヤーニーを抱えてやってきた。そしてまたもや俺を小脇に抱えて瞬間移動。もう一歳半、体がしっかりしてきたので前回と違って怒るほどではない。
でもちゃんと母様に了解とってるんだよね?
「かあたま、ちってる?」「いいっていってた?」
ワーニーをお説教から救ってやろうと確認した。
「もちろんだ、同じ失敗はしない」よかった、学習したようです。
それでは改めまして、
「ひたちぶり、ワーニー!またここに、きぃたよ!」
ワーニーは泣き出した。男泣きっていうの?でも渋い感じじゃなくて、子どもと大差ない泣き方。王様の威厳ってどこ?
ま、ツリーハウスの中じゃ誰も見ていなしな。いいか。
ひとしきり泣いたあと、俺を抱きしめて、
「よかった、また会えた、本当によかった!でも転生するということは、あの時、やはり死なせてしまったんだな。本当にすまない!」って言われた。
う~ん、違うな。死んだとは思うんだけど。あのだんだん透明になっていった転移の時に死んで、輪廻転生して今生に生まれなおしたんじゃない。
「30たいまで、いきてたよ」
ワーニーが驚いている。「生きてた?年上?」とつぶやいている。
20歳の俺が死んだと思っていたのなら、今27歳になっているワーニーは俺の年を追い越したと思っていただろう。
残念、君は永遠に俺の年下だよ。足し算したらね。
30+1=31歳。おなかの中にいる間はさすがにカウントしないかなぁ?
「おれ、あのとき、ちんでたはずだった?ほぼかえれる、いってたよ」
確かあの時、8割がた元の世界に帰れるって言ってたのに、今の感じだと、絶望的だったのか?そこは聞いてみたい。
「すまない、あの時はそう言うしか・・・どんなに恨まれても仕方ないと思っている。お前は消滅しかかっていると考えていた。そんなことを聞かされて、『だから早く血を採らせろ』なんていう俺に従ったか?」
詳しく話を聞くとどうやら、ワーニーは俺が薄くなり始め、『自分が王になって安全に教会で転移』という方法が使えなくなったと思った時、その他の選択肢を考えたという。
1、血を確保したあと教会の前に置き去りにする。(消える前に返還してもらえる確率10%、しかし、薄くなるだけで消えなかった場合残虐皇帝に引き渡されてしまう)
2、血を確保したあと教会に乗り込んで転移を勝手に使う。(俺の生存確率20%、ただしワーニーは捕まって死刑の確率90%)
3、血を確保したあと、消えても、消えなくても最後まで一緒にいる。(俺の生存確率、消えたら0%、消えなかったら100%)
※事前に消滅の話をすると、パニックをおこすかもしれず、血を確保するとき強引にすすめなければならないかもしれない。それでも、2を選ぶと話しをすること必須。
どれもやばいな、確率低いし。そんな風に思ってたんだ。そしてワーニーの立場では2番は選べなかっただろうから、1と3の二択。そして3番を選択。
あの当時、自分で選んでいいといわれても1でも2でもなく3を選んだよ。
だからワーニー気にすんな!15歳のお前は本当に頑張ったよ!
「ワーニー がんばった ありあと!」格好よく決めたかったが発音が時々ダメになる。
うなだれているワーニーの頭を、ヤーニーの小さな手が撫でている。
甥っ子とはいえ俺だけを連れ出すと皆が不審がるので、おまけで連れ出されただろうヤーニーがいい仕事をしてる。
父親の突然の号泣にとまどっているだろうに。普段ほとんどしゃべらないヤーニーだが、「いいこ、いいこ」って言いながら撫でている。やっぱり天使。