46.俺、オカルトもへっちゃらです?
教会に到着。本当に小さな教会だ。座席数は40くらいかな?
ギリシャの像みたいな格好いい男前が中央に飾ってある。
「あれって、ウーちゃん?」と聞くと、「本物はもっと色男だ」と言われた。本当か?エマに抱っこされてドヤ顔されてもね。
一旦どこかへ消えたワーニーが神官を二人連れて戻って来た。彼らの胸元には小さなバッジが付いている。秘密保持契約した人達だ。
ちなみにこれ、ダリアの花なんだって。俺が『弁護士バッジみたいなの』と言って簡単に説明してオーダーしたら、これになった。色は白、凄くおしゃれ。お偉いさんばかりが付けていてコピー禁止と言われれば話題沸騰。『ダリアの会』という通り名が付いたので、それを採用して本人たちも名乗っているとか。
「今日はダリアの会の会合だ」とか言っているのかな?ウチの使用人は全員持っているけど、王宮に出仕しないので普段は付けていない。あ、かわいいもの好きのカルマは付けてるな。おしゃれアイテムとして・・・城勤めの人たちの憧れのバッジなんだけどね。
「お目通り、かないましたこと恐悦至極に存じます」二人はウーちゃんに向かってひれ伏した。
「神官長とその補佐だ」と遅ればせながらワーニーが紹介した。名乗っていないことに気づいたのか、伏したまま慌てて名乗る。
「神官長を拝命しております、ハルトマン・リベッツと申します」
「神官長補佐を拝命しております、タナスト・ボーンと申します」
「よいよい。二人とも立つがよい。人に見られたらことじゃでのぅ」ぬいぐるみに、教会のツートップがひれ伏していたらビックリされちゃうよ。
「トゥーラス様のお役に立てますよう努めます。なんなりとお申し付けください」
「まず、秘密保持のペナルティで激痛がってなるとあれなんで、ウーちゃん様と呼ぶのを徹底してもらえるといいと思います」と俺は老婆心ながら声をかけた。ハッ!と俺の方を向いて、またひれ伏しそうな二人に、
「俺に挨拶は大丈夫。初顔合わせが人目に付くかもしれない場所だなんて、お互い気まずいね。ワーニーがもう少し考えてくれたらよかったんだよ」と後半はワーニーに向かってクレームを入れておいた。
【パチン】と手をたたいて、
「じゃあ、今日の本題。勝手に鐘がなるって聞いたけど、時間は決まってるの?」
「いえ、以前調査いたしましたが、思い出したように気まぐれに鳴るようです。夜は鳴りません」
【ギィーーーー】と音がする。ビクッとなったけど、若い神官が扉を開けて目を丸くしている。この教会の常駐神官だろう。『お偉いさんが揃っている。揃いすぎている。どうしてだ~~~!!!』という心の叫びが聞こえてきそうだ。
補佐が事情を説明。安心した様子。
「一週間に2、3度鳴るのですが、一番最近では二日ほど前の夕方に鳴ったと思います」と教えてくれた。そして申し訳ないけど、お使いに出てもらった。流石にヤバい事柄だらけのメンバーで実験するので、契約していない人はごめんなさいです。申し訳なさそうに見送っていると。
「お気になさらないでください。神官は秘密の業務が多いものです。仲間内でも言えないことが沢山あります。『隣の教区に子ども達とオレンジを買いに行ってくれ』というのは、情報を制限しているので子どもたちと外へ出ていてくれという定型の隠語だったりしますので」神官凄い、さりげなく一般人を遠ざけることもあるんだな。
二階に上がって鐘を観察する。何の変哲もない小さな鐘が一つ。
取り敢えず、鳴弦してみよう。まずはワーニー。何にも起きない。次は俺。
【びぃーーーん】
【わぁ!】ん?なにか聞こえた!
見上げると、鐘にしがみついている青年を発見。透けてる!?幽霊か!?幽霊って実在するんだ!?
「確かに悪意はなさそだな」とワーニー。
「そうじゃのぉ。そこな者、下りてくるがよいぞ」とウーちゃん。
「ぬいぐるみがしゃべった~~~!!!」とパニックの幽霊青年。君の方も驚きの存在だけどね。お約束な感じのリアクションで好感が持てるから、きっといい青年なんだろう。
「ううぅ!」とタナスト補佐がうずくまった。額に汗が噴き出している。
「大丈夫か!」と神官長が駆け寄る。なに?呪い?悪い幽霊だった??
「ああ、大丈夫だ、秘密保持契約が発動した。恐らく『〇〇の御前だぞ無礼者』とでも言おうとしたのだろう」ワーニーが分析。
なるほど、激痛ってマジだったんだな。もう立ち上がっている。長引く痛みではないようだ。
「これは流石に可哀相だよ。『うっかり』と『悪意』を分けようよ。今は子どもと大人の二種類の契約があるだろ?それを一本化して、その代わり、『うっかり』は口が開かなくなる、『悪意』は激痛という感じで2パターンの枷があるイメージ。どう?これなら怖くて会話ができなくなることもないよ」
「そうだな。今ここで試してみて、良ければダリアの会を招集して一気にかけなおすか」といって手の平を上へ。天才が今、魔法をかけますよ!
「よし、会話してもいいぞ」相変わらず一瞬だ。
「幽霊さん、下りてきてもらっていいですか?」・・・俺の可愛さでは無理か?ヤーニーいけ!
「すみませーん。お話したいです。ここに来てくださーい!」
恐る恐るおりてくる。何が違った?語尾を伸ばせば良かったのか?
「ここで鐘を鳴らしていましたか?」と聞くと、
「あ、あの、すみません。可愛い子とここで鐘を鳴らして結婚式を挙げるのが夢で。でも俺、死んじゃって・・・可愛い子が来たら思わず鐘を鳴らしてしまって・・・」
なんと、そりゃ悪意は無いわな。
「こんなところで不毛に見ておるなんぞ、なんと勿体ないことを、天上に行けば、そこでまた新たな生が始まるというに。順繰り、順繰り、せねばならんぞ。可愛い子に巡り合う生もあろうて」
「そ、そ、そうなんですか!?」驚く幽霊青年。上を見上げる。
「今更、どうやって天上に?死んだとき、引っ張られるのを振り切って以来、そんな感覚はきてないです・・・」めっちゃしょんぼりしてる。
「それなんだが、少々、実験に付き合ってくれないか?」ワーニーが弓の事を説明して、
「それが上手くいかなくても必ず、ここに居るxxxx天上へ行けるようにする」と約束した。
お~~~!今のxxxxは『神様が』って言おうとしたんだな。秘密保持出来てる。いいね!
それでは、幽霊青年さようなら。
【ビィーーン】「やっぱりこの弓はダメか」とワーニーは残念がっている。
次は俺、【びぃーーーん】
「あ、あ、引っ張られます。さようなら~ありがとうございますぅ~」と言いながら空に消えていった。
「もう終わり?あっという間だったね」とヤーニー。劇的展開を期待したようで残念顔だ。
「浄化とはこういうものです。荒れ狂う程の悪意の凝ったものでも、上手く浄化されれば、そこにあったことも夢かと思うほど穏やかに終幕します」と神官長が教えてくれた。
「それにしても魂の浄化があっという間に出来るなど、素晴らしい道具を手に入れられましたね。さすがウェルリーダル様です」と補佐は絶賛してくれた。
「普通は難しいんですか?」
「悪しきものは、浄化と言いつつ滅しているのが近いのです。魂の浄化は天に昇らせる作業なので日時場所などを限定して行う大掛かりなものなのですよ」
なんと!キラキラキラ、ヤーニーからの尊敬の眼差しが痛い。俺、弦はじいただけなんだよぉ。
「今日は色々勉強になりました。ありがとうございました」と頭を下げた。
神官長達も、またいずれゆっくりお話を、と別れの挨拶を交わす。
さて、帰ろうと思ったら、
「まてい!お主、買い物を忘れてはならぬ!」とウーちゃん。
忘れてた!