45.俺、連れと買い物、初体験
キリアルの教えてくれた古道具屋に到着した。国王陛下と王子がお忍びでくるというので店主は泡をふきそうだ。急遽だったから掃除も行き届かないだろうし焦るよねぇ。俺は貴族の坊ちゃんの気ままなお買い物くらいのノリで来るつもりだったのに全く。
「これこれ。店主。この弓、まじないの道具って言ってましたよね」とキリアルが聞いてくれる。
「さ、さ、左様でございます。実際は楽器でして、矢をつがえるのでなく、弦を引いて音をだして、悪しきものを浄化する道具でございます」
「悪しきもの?」
「怨念とか、悪意とか目に見えぬので分かりませんが、それを祓えると信じられている国がございまして、その国からの輸入品でございます」
「それを貰おう」とワーニーが即決した。値札とか気にならないか?
「他の物もちょっとだけ見てもいい?」とヤーニーがお願いする。
許可が出たので、俺たちは早速変な木彫りの像や、大きな鐘、くねくね曲がった笛、不規則に回る物体など不思議な商品を見て楽しんだ。今世初の友達とのショッピング。俺でさえ、ちょっとテンションが上がってる。ヤーニーは俺の手を握って次はこっち、それからあっちもと大興奮して歩き回っている。
リチャードとフランツは激痛が怖くて普段以上に無口だ。これは入学前までには解決策を考えないと大事な伝達にも支障をきたすかもしれないぞ。いや、そもそも、大人も、子どもと同じで話せなくなる契約で良かったのでは?でもそれだと悪いことを考えている人を懲らしめられないのか?リアル、痛い目みせてやるぜ!だもんな~。あ!『悪意』と『うっかり』を分けてペナルティを課せばいいのでは!ワーニーに提案してみよう。
ヤーニーは今日の記念にと、小さな、まじないの鈴を人数分おねだりしてくれた。誕生石みたいに色に意味があるらしいが、
ヤーニーは黒。『魔除け』髪と瞳に合わせたみたい。
グレッグは水色。『癒し』の効果重視。お疲れかな。
キリアルは緑。『健康』髪の色そのまんまの綺麗な緑だ。
デイブはオレンジ。『向上心』好きな色をチョイス。
そして俺は紫。『平和』瞳の色だし、効果も素敵だろ!
さらになぜかエマも選んでいた。神様にまじない必要か?突っ込みたいけど他人がいるから出来ないし、皆して顔を見合わせた。同じことを思っているようだ。
選んだのはピンク。『愛』だ!さらに図々しくシャルにもお揃いで、ともう一つ持ってきた。まあ、エマからすれば、甥っ子みたいな存在のワーニーが買うんだから身内の厚かましさなのかな。というか留守番のウーちゃんはいいのか?
皆でワーニーにお礼をいって解散した。男子会はまた来週。
ワーニーは翌日、「ダンジョンに行くぞ!」と迎えにきた。
ヤーニーは後で合流だって。家庭教師が来ているんだろう。ワーニー、頑張っている息子を置いてくるんじゃないよ。可哀相だろ!
昨日から拗ねているウーちゃんも引っ張って来て出発だ。
まじないの鈴が自分だけないことが気に入らなかったウーちゃんは、今日のダンジョンが終わったら買い物に連れていくということで納得してもらった。
ウーちゃん、精神年齢がぬいぐるみ年齢(推定五年もの)に引きずられてきているんじゃないだろうか。
地下一階でワーニーが昨日買った弓を取り出す。弓を引くと【ビィーン】と音がする。これが『まじない楽器』か、ハープみないな物だろうな。効果は悪しきものがいないと分からないんじゃ実験にならない気がするが、魔獣でもいけるのか?
「ウーちゃん何か感じる?」
「うむぅ。そうじゃのぉ。この音、この感じ。鳴弦の儀じゃ。どこで見たんじゃったか?弦をはじいて音を出して悪いものが近づけないようにする儀式があったはずじゃ!」
「それは昨日から分かってたよ。効果がありそうなのかって聞いてるの!」
「お主、ワシの扱いが日に日にひどうなりよる!」
「ごめんごめん。今のは嫌な言い方だった。お詫びに何か一つ願い事言っていいよ。って神様にいう事じゃないけど」
「ふむ。よかろうて。願い事一つじゃの、踏み倒される前に使わせてもらおうかのぉ」ウサギのぬいぐるみの悪い笑み。怖い。悪しきものなんじゃ。
和弓を出して鳴らしてみる。祓えなかった。
「お主、そういうところじゃぞ・・・」
ワーニーはイノシシ魔獣に向かって弓を鳴らしている。俺もやってみよう。
【びぃーーーん】何にも起こらない。
「俺の弓はダメだが、お前のは結界強化と浄化が付いているぞ」とワーニーが教えてくれた。
そうなの?そっち系?いいよいいよ。俺にピッタリ。攻撃系じゃなくて支援系なんだな!
「どれくらいの強化なんだろう?」
「薄い結界で的を作ってみろ」ワーニーがそれに小さな火球を打ち込む。三発目で壊れる。
「同じものを作って、強化をイメージしながら鳴弦してみろ」そしてそれは、なんと十五発目まで耐えた。単純計算で五倍の強度。結構すごくない?
ダンジョンコアさん、しょぼいかもなんて思ってすみませんでした。すっごく良い物でした!!
【ブルブルブル】イヤーカフが振動。ヤーニーだ。勉強がんばってるかな?休憩中かな?
「ウェル~。終わったよ。今どこ?」
「早っ!地下一階の北側のイノシシの所だよ」と言ったら【シュン】とヤーニーがやって来た。マジでいいなぁ。瞬間移動。
「お疲れ様、今、弓を鳴弦すると結界強化と浄化がつくのが分かったところだよ」
「凄いね!やって見せて!」早速披露した。拍手喝采された。俺が凄いところは全くないけどね。
「クリーンの浄化はすぐ分かるけど、御祓いの浄化や魂の浄化とかは、効果があるかどうか分からないね。皆はどうしてるの?」と聞くと、
「神官は悪意が凝ったものを祓う仕事があるからな。見習のころからそれについて行って徐々に習得して、効果があるないを実地で学ぶんだろう。子どもを連れて行くのは無理だな」とワーニーに牽制された。
「ウェル様、それでしたら王都の北の端にある小さな教会に行くのはいかがでしょうか?禍々しくないので浄化がいいのかは分かりませんが、危険はなさそうですよ」とリチャードに言われる。
「魂の浄化は禍々しくなくとも、心残りなども浄化できるし良さそうじゃのぉ」
「有名な所なの?」
「ああ、あそこか。勝手に鐘が鳴るんだったな。害はないとのことだったので放置しているが、場所は分かる。行ってみるか?」とワーニーが聞いてくる。「「行きた~い!」」とヤーニーと声が揃う。
【ブルブルブル】またしても着信。フランツだ。
「ヤーニー様が通信鏡に出てくれません。今どこですか?」
「あ~、すぐに迎えに行ってもらうよ」
ヤーニーに目線を送る。護衛は置いてきちゃダメだよ。【シュン】【シュン】フランツ、いらっしゃい。お疲れ様です。
「父様は護衛を連れていないのに」とぼやいている。
「俺は5歳児じゃないからな」
ごもっともで。