44.俺、弓の才能に赤信号です
その日の夕食後、我が家からダンジョンに参加したメンバーは、皆に新しい武器をお披露目した。
まずはシェフ、槍にチキンをぶっさして【ボウッ】とやって、こんがり美味しそうなグリルチキンがあっという間に完成だ。訂正しよう、武器ではなく調理器具のお披露目だった。後で賄いで振る舞われるらしい。俺もこっそり厨房に忍び込もう。「うまそうじゃのぉ」とウーちゃんが横で呟いているので一緒に行こうかな。
次は、リチャードの洋弓。トムじいが高く投げた藁束に見事命中。すごーい!
そして、俺の和弓。これは練習中だからまだ格好だけ。辛うじて前に飛ぶくらいのポンコツっぷりなんだ。
次は、エマ。扇子の動きで、風魔法が発動。キラキラエフェクトの風が花を舞い上げ、エマと共に踊っているようでとても綺麗だ。
「エマねえたま、素敵です!!」シャルの目がハートです。俺もこんなふうに言われたかった。ガックシ。
最後はウーちゃん。耳を両方王冠に入れてかぶっている。『偉大さを演出、畏怖を与える』だっけ?可愛いだけだが?
「どうじゃ、ひれ伏しとうなったかのぉ」と聞いてくる。
「ウーちゃん様はいつも威厳がおありですから、差異が分かりにくうございますね」と母様がフォローしている。
「そういうもんかのぉ」
可愛い神様たちと共に暮らしている、我が家は今日も平和です。
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あれから、和弓をコツコツ練習しているが、全く上達しない。
弓の才能がないのか?トムじいに竹っぽい植物でおもちゃの弓を作ってもらったが、結構中る。どうなってるの?皆、凄く良い物を貰っているから俺だけ外れな訳はないと思いたい。となれば、他に利用法があるのか?
ウーちゃん助けて!
「知らぬ!」
「知らぬ、じゃなくって、大本はウーちゃんの知識で、ダンジョンは成長していく訳でしょう?人工知能だって、ビッグデータは必要なんだから。ということは、ダンジョンコアが弓道の和弓を作るにあたって、何らかの知識が、ウーちゃんに忘れ去られたどこかにあるはずだよ。がんばって思い出して!」
「う~~む、う~~~む。思い出せぬ!」と言って消えた。逃げられたか。
弓道部の友達はいたが、部活の話はあんまりしてないな。放課後廊下を歩いているのを見かけた時に、袴姿格好いいなって言ったのはすごく覚えてるけど。
「『成長に合わせてサイズ可変』というメッセージの、サイズ可変というのは子供用から大人用に徐々に大きくなっていくということですよね?」とリチャードに聞かれる。
「どうだろう?そもそも俺は友達が持って歩いているのを見たことしかないんだよなあ。身長より長くって、電車、あ、箱型結界浮遊みたいなやつね、に乗るときに気を使うって言ってた」
「ということは、今、ウェル様のサイズに合っているはずなのに、ウェル様の身長より短いんですから、その弓道の和弓とは違う物なのでは?」
「弓道の道具じゃないってこと?見た目はそのまんまだと思うけど?メッセージカードにも和弓って書いてあるのに?」
謎が深まる。矢も魔力矢含め数種類試したし行き詰まりだ。
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木曜日の男子会。俺は皆にも意見を聞いてみようと楽しみにしていた。
おはよ~!
「「「・・・・・・・」」」
三人とも固まっている。
先日のお茶会のご招待は、女の子がメインで、男の子はその兄弟のみだった。『仮婚約断りたいから体裁のため開いておこうお茶会』だったからね。
だから男子会の三人はエマと初顔合わせだったんだ。
なんか、毎日色々ありすぎて顔合わせ終わってると思い込んでた。ボケるにゃ早いぜ俺。
「んん?初めましてだっけ。こちらウーちゃんの妹のエマ、女神様だけど、この世界の見学に来てて俺の家に滞在中です」短く簡潔に伝達。
「見学!?」「この世界!?」「女神様!?」
三者三様に驚いている。
「初めまして、エマです。グレッグ、キリアル、デイブね。よろしくお願いします!」ニコニコ笑顔つきの挨拶で純朴な少年を殺しにきました。女神様やめたげて。
「まあ、みな、よろしく頼むのじゃ。よう世界のことを知らんでのぉ。仲間にいれてやってくれると助かるわぃ」
「世間知らずみたいに言わないであげてよ。この間のお茶会大活躍だったんだから!」と俺はフォローした。
「お茶会で何があったんですか?」「大活躍!?」
興味津々だったので、お茶会エピソードを披露した。大女優の活躍ぶりに皆は驚嘆した。
「僕の所のお茶会にも来て欲しいくらいです」とグレッグは尊敬の眼差しだ。頭の痛い仮婚約問題をサクッと片付けたエマは、悩める少年からしたら、正に女神だ。
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いつもの訓練を始める前に、俺はアドバイスを貰おうと恥を忍んで、へなちょこの弓を披露した。子どもだと侮るなかれ、頼りになるメンバーなんだ。
「似たようなのを見たことありますよ」とキリアル。
あっさり解決の糸口か!?まじか。キリアル様!
なんでも、父親の行きつけの古道具屋には『まじないの道具』が置いてあるらしい。楽器のまじない道具は種類が豊富で楽しいんだって。弓型の楽器もあるから、それと同じ用途かもしれないと教えてくれる。
「まじないって、おどろおどろしいヤツなの?」
「命名式の時の頭の上でファサ~って振るやつも置いてましたよ」
怖がらなくても健全なやつもあるんだな。
「リチャード、俺、それ見に行きたい!手配して!」
善は急げだ。訓練が終わって皆が帰るときに、一緒に出発することにした。
方々に連絡確認するお仕事はリチャードにお任せ。
そしてなぜか、ウチの玄関にはワーニーがスタンバイしていた。ガイルの許可は貰って来たんだろうな?怒られても知らないぞ!
突然の国王陛下の登場に皆驚いていたが、
「神様たちと一緒に訓練しても平気だったんだから、国王陛下にも緊張することないよ」って小声で言っておいた。
「そういうことじゃない!」って全力で否定されたが。
ま、子どもたちより、その護衛のほうが、玄関でブルブルしてたけどね。
さて、初めて、俺の事情を知っている人と知らない人の混合でのプライベートお出掛けだ。
子どもはうっかり口に出来ない様に秘密の案件は話せなくなる契約にしてもらっているが、大人は激痛が待っている。
どんなお笑いビリビリ罰ゲームだよ!リチャード、フランツ頑張って!