43.俺、お茶目なダンジョンコアにビビる
前回宝箱を開けたら壁から鉄杭が出てきて串刺しになりそうになったことを踏まえて、今回は、まずは休憩。
左右を分断した壁に出来た、扉の中のトンネル状のスペースを中心に結界でカバー、宝箱の前で腰を下ろす。
ワーニーとリチャードは左側の謎解き部分を興味深そうに見ている。
俺とシェフは昼食の準備をしながら、先程の戦いの話をしていた。
「それにしも、魔獣は一瞬で消えましたね。倒しても倒しても湧いてくるのが異常でした。左エリアの謎を解かないと永遠に終わらないとか、出口は塞ぐとか、なかなかエグイ仕様ですねぇ。作った人の性格が出たんですかねぇ」
「ワシは作っておらん。勝手に成長しておるのじゃ」ウーちゃんも口を挟む。
「俺たちには通信鏡もワープマットもあったからいいけど、なかったら、右エリアの人の体力がなくなると全滅ってことだったのかな?それともいつかは終わりがあって、その時は、謎が解けなくても壁に扉が現れたのかな?」
「試してみたくない実験ですね」とオルトニー。そうだね。ワーニーがいても終わらなかったんだから、もう無理ってことで、このエリアの完全討伐は諦めよう。
「ドロップはどうだったの?」
「それが、なにも出なかったんです。あんなに倒したのに」とシェフ。
疲れただけか、それは厳しい。
「その分、宝箱が凄いかもよ!」と宝箱を指さしながらヤーニーが励ましている。天使。
携帯コンソメをお湯で溶かして、並べ終わったらサンドイッチを出して、いただきます。美味しい。寒いから、温かいものはやっぱり必須だ。今となっては神ポケがあるから熱々のスープ鍋を収納してくればいいんだけどね。せっかく携帯コンソメ作ったからね!携帯コンロの火も温かいし和むからね。
「ごちそうさまでした」お腹いっぱい、それでは宝箱!と思ったけどストップがかかる。
「出口を探してからだ」とワーニー。入った道は塞がっているし、左の二つは謎のギミックで探査済み。残りの右の二つは、さっきまで魔獣が湧いていたので今から調査だ。
そこが行き止まりなら、出口のない状態で怪しい宝箱を開けるしかなくなる。
念のため二枚のマットは、神ポケ共有スペースに回収。
そして調査の結果、どちらも行き止まりだった。
再度、左エリアの道も調査したが仕掛けも含めて見つからなかった。
となると、『宝箱を開けたら道が開ける』の一択だろう。
朝の高めのテンションは鳴りを潜め、疲労の色が見える。閉じ込められるというのは精神を削るんだな。中庭のワープマットもこっちに持ってきているし、お気楽には帰れない。
「開けるぞ」結界を、自分たちに張りなおしてからオープン。
中身は・・・なんだか、予想の斜め上だった。
ごちゃごちゃっと武器が入っている。勇者のとか、バスターのとか、一条の光のもとに輝きながら一振りの剣が現れるとかではなく、多種多様な武器が、ごちゃっと入っている。
全部取り出すと宝箱は消えた。武器というかアイテムも入っている。全部で十個。まさかの一人一つ。しかもダンジョンを作った神様まで貰えるの!?
大剣・フランツ
中剣・ワーニー
小剣・ヤーニー
洋弓・リチャード
和弓・俺
槍・シェフ
グローブ・オルトニー
指輪・アンジェラ
扇子・エマ
王冠・ウーちゃん
どうしてこの仕分けになったかって?それは、メッセージカードが括りつけられていたから。
大剣:フランツへ、たいていの物なら切れるはずだよ。
中剣:ワーニーへ、魔法を乗せるともはや無敵。狭い場所では注意。
小剣:ヤーニーへ、怪我せずに使ってね。自傷不可付与。
洋弓:リチャードへ、ちょっとなら追尾機能で目標を補正しちゃう。
和弓:ウェルへ、前世へのオマージュ。成長に合わせてサイズ可変。
槍:ルーカスへ、武器だけど調理器具。肉を刺して火魔術。これで激ウマグリル料理。
グローブ:オルトニーへ、魔力を練りまくれ。遠距離も殴り合いもイケル。
指輪:アンジェラへ、魔力を貯蔵できるから、コツコツ貯めてでっかく使おう。
扇子:エマさまへ、風魔術を華麗に演出。キラキラエフェクト付き。
王冠:マスターへ、御身の偉大さを演出。見る者に畏怖を与える。
この成長するダンジョンは人工知能のようなものが担っているようだ。乙女の神像のダンジョンコアかな?そしてそれはかなり奇天烈な性格をしているに違いない。皆殺し系の罠のあとのこのお茶目さんぶり、ちょっと怖いよ。このメンバーでいるから楽しめてるけど。
シェフの本名がルーカスって知っているのはビックリだし、フランツの適当な解説もツボだし、ヤーニーへの優しさは神だ。
ウーちゃんへの王冠は笑うしかないけど、エマは大喜びだ。アンジェラはレベル3の自分の補助になると感動して泣いている。いいもの貰ったね。
リチャードは追尾機能が試したくてしかたないし、シェフは肉を出してくれ!と焼いてみたくてしかたない。オルトニーはグローブで魔力を練って、床を砕いて、自分自身で驚いている。ワーニーは、試し切りなら端っこでお願いしますと追いやられた。こうなると俺のは異世界の武器ってだけで凄いわけじゃなくない?追尾機能が良かった。贅沢言っちゃダメだから言わないけれども・・・
すっかり疲れを忘れたメンバー。でも忘れちゃいけない。出口がないということを!
俺は宝箱の跡や、その後ろの壁を念入りに探した。
何もない。マジかー。でも、これだけ色々なものをくれて、脱出不可の死亡確定ダンジョンって訳はない。
試していないギミックがあるはずだ。アンジェラは扉を左右共にチェックしている。
「この扉、自動で開きましたが、手動でも動くようです。閉めてみますか?」「そうだな。問題は、壁の内に入って閉めるか、外に出て閉めるか。外なら、左右どちらの扉にいくべきか」
「内側にいるべきではないでしょうか?内向きだけに取っ手が付いているんです。自動で開けるから外側には必要なかったと考えられないでしょうか」
謎解きエリアのある階層だし、その読みはいいかもしれない。
「内側に待機して、やってみよう」
【【ギぃぃぃぃぃーーーバタン】】
【ガタンッガタンッガッタン!】大きな音と揺れと共に、足元が階段に変化する。最初に入った大きな空間の入り口から階段が形成され、俺たちはその中ほどに居るようだ。左右を隔てていた壁は天井に吸収され、ただっ広い空間には、長く深い階段が縦断しているだけだ。
取り敢えず下りてみよう。
「ウーちゃん!豪華な扉だ!豪華なのはボス部屋って言ってたよね!」
「そうじゃ、そうじゃ、ここじゃろうかのぅ」
「入る?」とヤーニーが聞くと、
「また今度だ。今日はここまでにしよう。ワープマットと通信鏡が使えるか確認だ」とワーニー。
「両方使えます」アンジェラとオルトニーが確認する。
【シュン】ワーニーがいなくなった。ボス階層は瞬間移動できるようだ。
ワーニーが戻ってきて、地下一階の階段上まで移動。俺とシェフは結界浮遊で地下二階の羊エリアにワープマットを設置して結界を張って、戻る。
あとは我が家まで送ってもらって今日は終了かと思いきや、武器の試し切り試し打ちをしたいメンバーは地下一階に残るという。楽しそう。俺も残ろうっと!