4.俺、はじめてのお出かけ
20歳で異世界のイカール帝国に転移、一か月ほど過ごして帰って来た、はずだ。
が、目を開けると、普通に転移前のうどん屋の閉店作業中で、レジの前に立っていた。「えぇぇぇぇっ!」
俺、立ったまま夢見てたの?ってプチパニック。
だけど、左袖の血を見て現実だったと確信した。
ワーニーとガイル、無謀な少年たちだが、無敵であってくれと、異世界から祈るしかない。
とてつもない脱力感が襲ってくるが、取り敢えず現実のバイトを終わらせて家に帰ろう。
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転移事件から半年後、無気力な俺。なんだか、生活の全部が現実だと感じられない。
燃え尽き症候群かなぁ。これから就職活動しなきゃいけないのに、こんな状態じゃ絶望的。エントリーシートとか書く気にもなれやしない。
母親から久しぶりに連絡があって就職活動上手くいっているのか、地元に帰ってくるのかとか聞かれた。まだこれから考えるよって答えたが、気分的にはうどん屋のレジの前から動きたくない。二人に会いたい。
そんな燃え尽きちゃってる俺は、どうにかこうにか卒業し、うどん屋に正社員採用してもらった。本当にありがたい。
あまりにうどん屋に執着するので、母親は好きな女の子でもいるんだろうと遠回しにつついてくる。ご期待に沿えず申し訳ない。
そして30歳になったころまでの記憶がある。
その後は・・・
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こんにちは。ごきげんよう。ウェルリーダル0歳です。
前世の父母よ、親不孝な息子でごめんなさい。本当にごめんなさい。
でも俺は来たかった場所に、想像とは違う形だったけど来れたんだ!
あまり悲しまないで欲しい。無理か。本当にごめんなさい。
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今世の母は清楚系美人さんです。
名前はシーナ。暗めのブラウンの髪で、瞳は前世の俺と同じ琥珀色だ。日本人には珍しい色だったんだ。母様とっても親近感がわくよ!
父はガイル!可愛かったガイルくん!一丁前に髭を生やしている。童顔気にしてたのかな?でも男前に育ってるよ!
綺麗な奥さんもらって、金髪に紫の瞳の超可愛い俺という息子もできて、我が世の春に違いない。
が、そのあたりの詳細が分からない。俺に与えられた情報は、ほとんどナニーのリタが話してくれる独り言に近い「ウェルリーダルさま~。今日もいいうんちが出ましたね~」とかばかり。
がんばれリタ。もう少し役に立つ情報をつぶやくんだ!
ワーニーの情報とかつぶやかないかなぁ。ガイルのお仕事のお話でもいいんだよ。
夏が過ぎて涼しくなってきた頃に、俺は盛大にフリフリの付いたベビー服を着させられた。これは!お出かけに違いない!「やった~っ!」
ガタゴト揺れる馬車の中で
「今日は教会で感謝祭よ。お利口にしてましょうね~」と母から言われる。もちろんお利口にできるに決まってる。
「同じような赤ちゃんが勢ぞろいだぞ。ヤーニーと気が合うといいなぁ」とガイル。ヤーニーって誰だ?
「ヤーニー様は春生まれだからもう6カ月ね。ずいぶんしっかりしたんでしょうね。私は妊婦だったし生まれた直後にお会いしたきりよ」
「そうだな。ワーニーの子だから規格外でも驚かないが、サテラ様は、ちょっと他の子より早いかな~という程度よって、おっしゃてたよ」
「姉様の言うことは適当だから当てにならないわ。早く会いたいわ~」
おお、いきなり大量の情報ゲット。整理しよう。
ワーニーとワーニー嫁のサテラ様。嫁!ワーニーに嫁!お前もリア充かよ!
あ、脱線しちゃう。
もう一度。
ワーニーとワーニー嫁のサテラ様。子どもはヤーニー。
サテラ様は母様の姉。ということはヤーニーは、俺のいとこだな。どんな子だろう?ワーニーに似てるかなぁ。あいつ見た目は良かったからなぁ。
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気がつくとどこかの部屋にいた。寝ちゃってたな。教会の控室的なところかな?と見当をつける。
隣を見ると、ミラクル可愛い天使がいた。黒髪につぶらな黒い瞳、小麦色の肌にプルプルのほっぺ。
はじめましてって手を上げようとしたら、タイミング悪くのぞき込んできた天使の顔面にヒットした。そして泣かれた。ゴメン。
気づいた大人たちがそれぞれに抱っこしてくれる。
「ウェル、ヤーニー様よ。こんにちはしてね」と母様。
勢いよく手をふったよ。
「ヤーニー、いとこのウェルリーダルよ。ご挨拶してね」と気の強そうな美人さん。おそらくサテラ様。母様に少しだけ似ている。
ヤーニーはこちらを見てニコリと笑ってくれた。可愛すぎるぜ。
コンコンコンとノックの音。
「感謝祭が終了したので命名式を開始します。本堂へお進みください。陛下と宰相閣下はそのまま会場でお待ちになるそうです」
この流れからいって陛下とはワーニーだな。本当に王様になったんだなぁ。
となるとガイルは宰相か。それ以外にないぴったりなポジションだな。逆だったら笑っちゃうとこよ。
廊下にでるとゾロゾロと今年生まれた赤ちゃん連れが歩いている。サテラ様に気づくと人々は礼を取ろうとするけれど、
【シィー】ってジェスチャーをしながら追い立てるように進んでいく。赤ちゃんは待ちくたびれたのか眠っている子が多いのでこのまま進みたいようす。ギャン泣きされるより親は楽だろう。
会場は横二列で座るようだ。20組くらいかな。ワーニーとガイルは一列目で待っていた。
ワーニーほとんど変わってない!
そんなワーニーは目を見開いて俺をガン見していた。それどころか、指さしてワナワナしている。これは明らかに何か気づいたな。
俺の異世界転生オーラ的なものがあふれちゃってるの?自分ではわかんないけど。
みんなは何か様子が変だとは思っただろうが、命名式が進んでいく。
最後に豪華なハタキみたいなもの?で名前を呼ばれながら頭を【ファサッ】てされたら終了。帰ってオーケー。
偉い人から終わっていくのかと思ったけど俺とヤーニーは後回しにされた。どうやら陛下と宰相は命名式の立会人でもあるようだ。お仕事も兼ねてたのね。お疲れ様です。
そして俺の番。
「ウェルリーダル・ブラス」【ファサッ】んっ!?ブラス?ブライトンじゃなかったっけ?
「ヤーニー・ヤマト」【ファサッ】んんんっ!?ヤマト?
思わずワーニーを見た。そしてバッチリ目が合った。苦笑いしている。
赤ちゃんの俺の表情筋がどれほど仕事をしたかは分からないが渾身の、おいこら説明しろよ!の顔ができたはずだ。
そして無事命名式は終了。
「命名式も済んだし俺が特別なとこへ連れて行ってやろう!」と勢いよくワーニーが言ったかと思ったら、俺とヤーニーを小脇に抱えて、【シュン】と転移。
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おい、ワーニー、こちとら首が座ったばっかりの赤ちゃんなんだぞ!小脇に抱えるとかないから。両手で大事に抱っこが基本なの。わかる!?
見覚えのあるツリーハウスのベットに寝かされながら俺はブチぎれていた。
ヤーニーはニコニコして座っている。癒し。座れるのいいなぁ。俺も早く座れるようになりたい。
って違う。ワーニーに説教だ!