37.俺、天使にゆるされました
ここ数週間、洗脳事件で警戒態勢だったため、久しぶりの木曜の男子会だ。
「はぁ」
俺は、ため息。
ダンジョン地下一階でイノシシ魔獣を倒しながらグレッグが振り返る。
キリアルは魔眼の集中を解いて尋ねてきた、
「大丈夫ですか?なにかありました?」
「え?あ、ゴメン。集中しよう。危ないもんな」
前線でデイブとヤーニーは容赦なく攻撃的な魔道をぶっ放している。
ドロップされた肉をヤーニーが回収して神ポケに入れる。
そして、またため息をつきそうになって我慢する。みんなの邪魔になっちゃうな。危険だ。
何とか、一時間後、おやつの時間だ。
「ウェル、何があったの?」ヤーニーが聞いてくる。
そりゃそうだ、今日の俺はひたすらダメダメだ。
「シャルが・・・にいたま、嫌いって・・・」
「「シャルロッテ様が?」」皆驚く。だって仲良し兄妹だったから・・・
ウーちゃんが説明してくれる。
「あ~、戦っている最中じゃったから、特大収納袋と簡単に説明したがのぉ。ヤーニーが持っている神ポケは、中の結界ポーチが神域に繋がっておって、大量に物が入って時間経過もない特殊なものじゃ。我が子孫じゃから持つことが可能なものじゃ。それをウェルも神への血の対価として、許されて持っておる。じゃが、今朝、シャルロッテがそれをねだってのぅ」
「そのような特殊な物なら、当然、無理だということになったのですね?」
「それで嫌いって言われるのは辛いですね」
「あきらめてくれたんですか?」
皆俺に、同情的だ。救われるよ。
「シャルロッテはまだようやく2歳じゃて、しばらくはウェルを見るたびに癇癪をおこすやもしれぬのぉ」
ズーン。天使に嫌われて過ごすの辛い。はぁ。
「いやでも、2歳だからこそ、すぐに忘れる可能性もありますし」
「俺の妹なんて、この間、黄色のリボンじゃないと嫌だって散々わめいてたけど、母上が、青のリボンにしたらテディーベアーとお揃いになって可愛いわよって言ったら。ご機嫌で青のリボンをしてた。さっきまでのは何だったったんだって感じ」
「なるほど、デイブの妹のように、代用品でごまかすのは有効ですね」
「結界ポーチの偽物、というかおもちゃはないんですか?」
皆でウーちゃんを見る。
「おもちゃとな?それを作って渡して、ウェルとお揃いだと、言っておけば良かったということかのぅ」
「ごまかされないかもしれませんが、おもちゃでもキャンディー数個くらいは入るでしょう?それを出し入れすれば十分満足する可能性もあると思います」
「ありがとう!俺、早速帰ったらやってみるよ!うまくいく気がする」
明るい気持ちになってきた。
「それにしても、その結界ポーチは、結界なのに布みたいなんですね。特殊なものですか?」とグレッグ。興味津々だ。
「ちがうよ。ポーチ自体は、普通に柔らかい結界をイメージしただけ」
皆やってみているが、難しかったようだ。
「私にはウェルの普通が、行方不明です」とキリアル。
「俺にも、ヤーニーの普通が行方不明だから大丈夫」と返すと、
三人は苦笑いしていた。皆、高みはあっちだよ。頑張ろうね。
その後は気持ちも体も軽く、サクッとイノシシ魔獣を倒して今日の訓練は終了した。
「ありがと!!!にいたま、大好きよ!」
いただきました~。天使の笑顔。この世のゆるし。皆の友情に感謝だ。
そして俺は感謝を形にする男だ。ガイルの部屋に押しかけて、男子会によるダンジョンのお肉のバイト代交渉をはじめた。
ガイルは、相場はいくらくらい払うものなんですかね?と逆に聞いてくるくらい前向きだったが、待ったがかかったのは三人の親からだった。
「王子殿下と共に訓練をさせてもらって、払うならまだしも、逆にお金を貰うなんてとんでもない」ということだった。キリアルに至っては神様に直接指導されてるからな。親が恐縮するのも無理ないか。
でも、ブラス商会に貢献しているのは間違いない。俺は皆には内緒で、男子会貯金と称して、男子会が持ち込んだ肉の販売価格一割を商会にストックしてもらうことにした。勿論ガイルに許可を取った。
ちりも積もればだ。学校に通いだしたら皆で買い食いでもしよう。楽しみだな。
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さて、この、神ポケ。シャル以外でもヘソを曲げた人がもう一人。
ワーニー・ヤマト国王陛下。ご立腹です。
爆発、王宮一斉避難、血の結晶再契約、妻の妊娠、息子の家庭教師の洗脳、探知ゲート設置、炙り出し、妻の親族の殺人事件、呪術の牽制、精神干渉禁止の術式構築。
ワーニーの一カ月の出来事を列挙すると大事件の目白押しだ。よくぞここまでと言うほかない。働く王様素敵だよ。
でも、これだけ頑張って、終わってみたら、労いの言葉もなく。息子と甥っ子は楽しそうに神様からもらった奇跡のポケットを自慢している。
あぁ。想像するだけでやるせない。
ヤーニーと二人で、ウーちゃんを捕まえて、
「ワーニーにも神ポケの作り方教えてあげて!」と頼むと、
「あやつなら、数日前に自力でワシの神域に繋げてきよったぞ。許可したので使えておると思うがのぉ」だって。マジか。手に入れてもまだ拗ねてるのか。大人気ないのか、引っ込みがつかないのか。仕方ない、しばらく放置しよう。
「ところでウーちゃん、ウーちゃんは皆の荷物が出し入れできるの?ウーちゃんの神域なんでしょ?」とヤーニーが質問した。
「ワシはできるぞ、お前たちは出来ん。使用に制限があるでのぉ」
「じゃあ、僕の琥珀糖が減っていたら犯人はウーちゃんなんだね?」
「なぬぅ。ワシを泥棒扱いとは穏やかでないのぅ」
「見て!」といって、空の瓶を取り出した。昨日まで満タンに入っていたという。
「ちょっとばかり待つがよい。調べてくるでのぉ」とウーちゃんは消えていった。残された俺たちは、
「なんかまた大ごとっぽくなるのかな?」とげんなりした。ついこの間、警戒が解除されて自由になったばかりなのにな。




