34.俺、サプライズが得意なのかもしれません
「ふっふふ~ん」ご機嫌な俺。遠足の準備中。違うな、ダンジョンへ向けての支度中だ。今のバタバタではいつダンジョンに行けるか分からないけど、カバンを手に入れたらまずは、何か入れて、使ってみたい!そんな気持ち。
知ってた?持ち物に制限のない準備って、何も考えなくっていいんだよ。そりゃ鼻歌も歌っちゃうよ。
そういえば昔、高校の修学旅行で三泊四日の夏の北海道旅に、でかいスーツケースをパンパンにしてきた友達がいたな。母親が、あれもこれも持っていけと心配性を爆裂させた結果だそうだが、置いてこずに持ってくるなんて優しいやつだった。
母様、心配性どんとこいだよ!今なら嫌な顔なんてしませんよ~。
とは言っても、まだ5歳児。荷物はほとんどリチャードが持ってくれている。
そうだ。忘れてた!リチャードに言っておかないと!荷物は任せてって!
リチャードは、家令執務室の隣の、上級使用人執務室か、俺の部屋の隣の使用人控室のどちらかで仕事をしている。昔はナニーのリタが使っていた部屋を格好よく改装している。リタはシャルのナニーとして仕事も部屋も変わってしまったんだ。でも、女の子のほうが、髪を可愛く飾ったりして楽しそうだ。
隣の部屋を覗いても空だったので、上級使用人執務室へ行ってみる。
「リチャード!いた!報告があるんだ」
注目される。あ、デジャブ。
これは、職員室に入っていく時のドキドキだ。もしくは隣のクラスの友達をたずねるときの緊張感。全員知っているのに、すごくよそ者の気分なやつ。
ちょっと緊張しながら、報告。
「リチャード、凄い物見せてあげる。きっと驚くよ」ふふふ。前振りまでしてみた。実際に知ってガッカリなんてことのない案件だから、期待値を上げていっても大丈夫だ。
もったいぶってポケットの中から、結界ポーチを取り出した。
【ジャジャーーーン!】・・・・・はい、そうですね、的な沈黙。
そう、見た目はね。透明シャボン玉カラーの小さな袋だからね。
そこから琥珀糖を取り出して、一つあげる。もう一つあげる。もう一つあげる。もう一つあげる。そろそろ驚いてくれるかな?まだかな?琥珀糖無くなるなぁ。ジワジワやりたかったけど、仕方ない。最後にどう見たって入らない、ダンジョン用のリュックをドーーーンと出す。
・・・・・今度の沈黙は目を見開いているやつ。サプライズ成功だ。
「それは?結界の袋ですよね?」
「そうだよ。ウーちゃんが特別に神域と繋げてくれたんだ!血の対価だよ。いい交渉だと思わない?」
「私は、ウェル様との生活の中で、驚いていては身が持たないと学習してきました」
んんん?なんか、思ってたリアクションと違ってきた。
「今回も、驚いては、いけないんだと思います。でも、これは・・・・」
驚いちゃって!サプラーーーイズ!しんみりしないで~~!
「驚きました」はい!驚きました。なんとか、いただきました。
と、いうことで、お披露目が終わったので、ポーチをポケットに入れる。
「『ウーちゃんポケット』と名付けました!」とポケットを指さす。
呼んだか~?とウーちゃんが登場した。神出鬼没。
「『ウーちゃんポケット』を見せてたところ。皆驚いてくれたよ」
「なんともファンシーなネーミングじゃのぉ。大人たちが声に出していうのが恥ずかしかろて。変えてやったらどうじゃ?」
「ウーちゃん様って呼ばれてるウーちゃんに言われたくない」
「・・・そうじゃのぉ。もう慣れてしもうたが、あの時もっと抵抗しておれば・・・」神様をいじけさせてしまったようだ。
「リチャード、皆も、なにかいい名前ある?」
「神域接続袋とかは」「神様倉庫」「神界収納」みんなアイデアを出してくれる。『神』ってつけたいのかな?目立っちゃうよ。う~ん。
よ〇げんポケットから付けたんだけどなあ。四次元じゃなくてウーちゃんの神域に繋がってるからウーちゃんポケット。だめかな~。
「よし、間を取って、『神ポケ』ってどうだろう?知らない人が聞いても、カミポケってなんだろう?ってなるだけだし、知っている俺たちは神ってついててありがたみがあるし」折衷案を出す大人な提案。どうでしょう。
「いいです!カミポケ可愛いし!」いち早く食いついてきたのは母様付きの執事カルマだ。ちょっとキツメの見た目で神経質っぽい人かと思われがちだが、可愛いもの好きだ。日々、シャルに癒されている仲間だ。
「よし、決定!神ポケでいこう!ちなみに、ヤーニーは自作して持っているからね。ワーニーはまだ知らないけど、知ったら欲しがるだろうねって言ってるところ」
「ヤーニー様・・・いや、今日はもう驚かない」とリチャードが小さくつぶやいている。
「陛下は何が何でも欲しがりそうですね」ここは皆意見が一致した。
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翌日、体調を崩したというサテラ様を、母様が見舞うというのでついて行った。昨日目の前で、息子が窓を壊すほどの爆発を引き起こしたんだから、体調も悪くなるか?ヤーニーも落ち込んでなければいいけど。
母様は、サテラ様の実の妹で、宰相の妻。王宮はほとんどどこでもフリーパスだ。気軽に私室に通される。
「姉様。大丈夫なの?立ち眩みが収まらないって聞いたのよ」と言いながらベッド脇の椅子に座る。ヤーニーはベッドに腰かけていたが、俺を見ると、一緒にスツールに座りなおした。
「治癒も効かないし、どうしようかと思ったのよ。でもね、今朝診てもらったの。ヤーニーも兄様になるのよ!」
「まあ!赤ちゃんね!おめでとう!」
「サテラ様、おめでとうございます。ヤーニーも、おめでとう!」
その後は、母様たちは、一人目と二人目の違いがどうだ、春生まれと夏生まれはどうだと、話が尽きない。
俺とヤーニーは、とっとと退散した。
悪い病気でないなら、家庭教師の相談をしてもいいかなと思ったけど、ちょっと時間をおかないとな。二人のトークは長そうだ。
せっかくだから、リサーチしておこう。
「ヤーニーはマナーの家庭教師に今、どんなことを教わっているの?」
「う~んとね。顎は上げて、虫を見る目つきで、私の前を塞ぐつもりかって言うのが難しくって、何度もやり直しがあるの」
あ~、うん、まさかの、そういうやつなのね。
「ヤーニーは家族に、今日どんな勉強をしたとか話をしないの?」
「しないよ。終わったらすぐウェルの所へ行くから。夕飯を食べたら、予習と復習をして、お勉強の家庭教師も、なるべく早く『今日はここまで』って言ってもらえるようにしてるんだ!終わってからじゃないとウェルの所へは行っちゃいけないお約束だから」
なるほど、ヤーニーの行動パターンを分かってやってる確信犯だな。
遠慮している場合じゃない。サテラ様の部屋へ戻ろう。
二人は俺の話を聞いて、ものすごく驚いていた。革命派ではないものの由緒ある中立派の元侯爵家出身で、今は子爵婦人だ。家族にも問題のある人はおらず本人も穏やかな人柄にみえたという。今後の調査を待つことになるだろうが、第一王子の、マナーとはいえ、家庭教師だ。おかしな人物が紛れ込むなんてただことじゃない。
これは、王宮の一斉調査が始まるだろう。ガイルはしばらく泊まりこみかな。ヤーニーの平和のためにも頑張ってほしい。