33.俺、ウーちゃんポケットをゲットしました
結論から言おう。全員無事だ!
血の結晶は、今の俺の血と、大和貴俊の名前で再契約できた。よかった。
ウーちゃんが予想したように、この結晶のおかげで魔法が使えるのだとしたら、爆発されちゃ困るからな。
全く離れる気配のないヤーニーをくっつけて、俺とヤーニーとウーちゃんは応接室でお茶をしている。大人たちは事後処理で走り回っているだろう。
「ウーちゃん。どうやってガラスが割れるくらいの爆発がおこったと思う?」と俺が聞くと、ヤーニーが怒られると思ったのかビクッとする。
ヨシヨシ、怒ってないよ。不思議なだけ。
「今回お主の血の結晶を間近で見て確信したのじゃ。あれの力が、王宮を中心に広がっておるとなぁ。大気中に使いやすい魔力が豊富で良い国じゃと思うたが、あれのせいじゃった。そして、最近急激に不安定になっておった。魔力が大気中に飽和するほど発せられたタイミングとヤーニーの癇癪を起こしたタイミングが合わさったのじゃろうて。もう再契約して安定したので心配なかろう」
「そうか、なら良かった。それをワーニーにも伝えておこう。ヤーニーが爆発物扱いされたらどうしようかと思ったんだ」
ナデナデ、よかったね。安心だ。
マナーの家庭教師は、今日はさすがに中止になったけど、次からが問題だ。今回の爆発は特異な事例としても、5歳の子どもがそんなストレスを抱えてまですることかな?
俺は、お披露目会の時に一通り習って、人の名前を覚えたら終了だったよ。あの一時期はストレスマックスだったけど、後はその時々で必要とあらば相談しましょうくらいのノリだ。
もちろん王族は違うって言われると何とも言えなくなるけど。ワーニーだって完璧にできてるとは思えない!(想像です)
後でサテラ様に相談してみよう。
「ウーちゃん、琥珀糖食べ過ぎだよ。僕のがなくなっちゃった」とヤーニーが言い出した。
確かに。お洒落なガラス瓶に入っていた琥珀糖。お茶請けに好きなだけ取り出して食べるように小皿が用意されていた。でも、小皿どころか、瓶が空っぽになっている。
「???」そんなに食べて、大丈夫?
「ワシを食いしん坊扱いするでない。保存食としていただいただけじゃ。少しずつ食べるわい」
琥珀糖を作ったばかりの頃は確かに、ポケットからはみ出しながらも意地汚く詰め込んでいたはず。最近はその姿を見ないから、もう飽きたのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「ウーちゃん、ポケットの中、見せて」と詰め寄る。
「うぅむ。少し、分けてやろうかのぉ」
「琥珀糖を欲しがっている訳じゃないから。ポケットの仕組みを教えて欲しいだけ」
「ポケットかのぉ。ウェルの血のおかげで、ずいぶん力が戻ったのでのぉ。ワシの神域とポケットを繋いだのじゃ」
「すごい!俺もやりたい!」
「神の神域ぞ。人では使えまいよ」
「じゃ!契約の対価、保留になってて踏み倒されそうになってるやつ。あれ、それにして!」
「踏み倒さんわ!まあ対価は決めねばならぬでのぉ。やってみるか」
「ポケットどうしよう。俺、ウーちゃんと違って、すぐ大きくなるよ。今の服に着けちゃうともったいないよな」
「そうじゃのぉ。どうしたものかのぉ」
「結界は?ウェルが昨日、結界は何でも出来るって言ってたよ」
結界万能説!やってみよう。結界で小銭入れサイズの袋を想像して作る。全身タイツができるんだから、これは楽勝。
それを、服のポケットに入れる。準備完了。ウーちゃん後はよろしく。
【ズボッ】と俺のポケットにウーちゃんの小さい手が入り込みもぞもぞしている。
「できたぞ、そこのリンゴでも入れてみよ」
入らない。無理かあ~~~~。期待したのになあ。
「ふぅむ。使用者登録的なことで解決するかのぉ」というと、朝の採血よろしく、指先をプチっとやられて、袋の中で擦り付けるように言われる。
再度挑戦。【スポッ】入った!小さなポケットにリンゴが一個丸ごと入って消えた!
「成功じゃの。次は出してみよ。ワシのポケットと神域で繋がっておるが、今の血でお主を認識したはずじゃて。お主が入れたものしか出せぬはずじゃ」
手を入れて探ってみるが何もない。奈落の底まで落ちちゃった感じですか?
「ポケットを探るのではないぞ。リンゴを取り出すのじゃ。慣れてくれば、いろいろ出来るようになるじゃろうて」
「出来たー!」リンゴを掲げる!
パチパチパチ!ヤーニーも大絶賛してくれる。
「これって、どのくらい入れていいの?ウーちゃんの神域がいっぱいになったら溢れてくる?」
「フッファ!」笑われた?
「気にせずともよい。この世界くらいは入ろうよ」
規模が神様規模でした。しかも腐らないから忘れていても大丈夫なんだって。生き物も入れられるけど、さすがに神の領域なので、事前に相談するように言われた。生き物入れるってどんな状況!?
ヤーニーがウーちゃんをクリクリのオメメで見つめている。
これは最近心当たりがある。シャルロッテだ。可愛さで殺しにくるやつ。
「お主も欲しいのかのぉ?ウェルのは契約の対価であったから無理を通したがのぉ」悩んでいる。もう一押しだ。
「それにお主なら我が子孫ゆえ、自力で出来るやもしれぬぞ?」
なんですと!?子孫特典凄すぎない?
「今のウェルのを見ておったのじゃ。イメージは出来よう」
ヤーニーはやってみている。今のたったあれだけの情報で出来るもんなのか?あ、ちょっとウーちゃんが手を貸した。甘い。子孫に甘い。
「出来た!ウェルと一緒!!!」ヤーニーの俺好き、ブレないな。
黒髪美女好きがブレないウーちゃんの子孫だけある。
これを見たら、100%ワーニーも欲しがるな。可愛さで殺せないワーニーは、はたして手に入れることが出来るのか!?乞うご期待!なんてな。
この、平和的に解決した爆発騒動が、とんでもない事件に繋がるのだが、それが表面に現れるまではしばらくかかる。
今の俺はのんきに、
『明日はダンジョン行けるかな?今の俺は《ウーちゃんポケット》があるので、何でも持っていける!防寒具詰め込んで、非常食詰め込んで、なんか楽しくなってきたな~』と浮かれているのだった。