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32.俺、爆発に巻き込まれます?

「おはよ~」と言って食堂に入って行ったその時、

【ズドンッ】と大気が揺れた。


 我が家の使用人たちは一斉に非常事態を察知して、飛び回った。

 シャルロッテ、母様、父様の安全確保に結界の確認。我が家の結界はワーニーが張っているけど、念のため。

 屋内に異変はない。地下か!?ダンジョンの魔物のお約束、スタンピードか??

 様子を見に行くというジョージに、リチャードと俺で付いて行った。鍾乳洞ダンジョン地下一階は半分くらいは結界が張ってある安全地帯だが、万一の事もある。


 いつも通り。異変はない。さっきのは何だったんだ?

 食堂に戻ると、我が家だけでなく周辺も同じ状況だと報告が上がる。

 

 おかしい。冷静に考えれば、こんな時は、いの一番にヤーニーがやってくるはずだ。それを告げると、ガイルも表情を変えた。

 ウーちゃんはどこだ?

 ウーちゃんは俺のベッドの掛布団の中で、採血後の二度寝を決め込んでいた。

「起きて!ウーちゃん!なんか、ズドンってなったんだ!」


「騒々しいのぉ。大気に怒りが満ちておるが、おおよそお主が原因じゃろうて、早うヤーニーの所へ行ってやれ」

「俺が原因!?何があったんだ?」

「知らぬわ!」と言いながら、瞬間移動してくれた。王宮に到着。


「ウェル~~~~~!!!!!」といってヤーニーが飛びついてくる。

「何があったの?泣かないで」ダメだ。聞こえてない。ギャン泣きだ。

 周りの窓ガラスが割れている。ただ事じゃない。

「サテラ様、ご無事ですか?何があったんですか?」

「・・・それがね、今日はヤーニーのマナーの家庭教師の日なのよ。ウェルと一緒に探検だ冒険だとやりたくって、予習や復習をがんばって、当日は短時間で終わらせてウェルの所へ飛んで行ってたわ。でもマナーだけはねぇ。そういう訳にはいかないもの」

「それで、怒っちゃったんですか?」

「・・・男子会みたいに毎週木曜日とか決まっていればいいのだけれど、ワーニーが絡むと急遽予定が決まるでしょう?予定の変更だって何度も何度は無理なのよ」

 サテラ様の苦労が沁みる。

 ヤーニーは、5歳の誕生日前後で急にスケジュールが埋まって身動きとれなくなった感じは確かにする。傍から見ていても大変そうだ。本人としては、たまりに溜まって、今日爆発したんだろう。


 どうしたものか?甘やかしても良くない。けど、楽しみにしていた冒険に一人だけ置いて行かれるのも辛いだろうと分かる。

 子育てに悩む親の気分だ。親?ワーニーは何してるの?

「ワーニーは何をしてるの?」と聞くと、

「地下にすっ飛んで行ったわ」

「地下?鍾乳洞?」

「そっちではなくて、血の結晶のある地下よ」

 おお、そういえば、それも地下にあるって言ってたな。結界にダメージとかあったら大変なのかな?俺、近づいたら失神するかもって言われたな。


「ウェル、ウーちゃん、来たか!ガイルは?迎えに行ってくる。第二応接室で待っていろ。サテラとヤーニーもだ」

 なんか、緊急事態っぽい。


 数分後、国の主要人物が集められた。朝の支度の途中といった人も、容赦なくワーニーの瞬間移動で連れてこられたようだ。

「これは、非常事態だ。皆、心するように」怖い前置きで話が始まる。

「血の結晶が、異常な魔力放出を始めた。おそらく今日のヤーニーの怒りの制御失敗もこれが原因だろう。結界を重ね掛けしてきたが、そういう次元ではないようだ。王宮からの緊急避難を命じる。各部署の人員全てを引き上げさせろ」

「承りました」と即座にガイル。シャルにも見せてあげたい。こういう時は本当に格好いい。


「ウェル、ウーちゃんは一緒に来てくれ」

「僕も行く!」と離れないヤーニー。

 仕方がないという顔をしたあと、瞬間移動した。

 地下の入り口らしき扉の前だ。

「ウーちゃん何か感じますか?」とワーニー。

「そうじゃのおぉ。結界の中に入ろうかのぉ」全員で入る。失神しませんように。

 子どもの握りこぶしサイズの原石っぽい直方体が、赤く揺らめくように光っている。あれが俺の血か。

「ふうぅむ。なんでこんなことになっておるのかのぉ。お主、血の契約なんぞ、大それたことを人の身でやったわりに抜けが多いのぉ」

「血の契約?そんなのしたの?ウーちゃんと俺のやつみたいな?」

「そうじゃ。このワシでさえ、毎日血を貰う代わりに、何かしてやるぞと対価を提示したのじゃ」

 威張っていうほど、ちゃんとしてないな。何かしてやるって、俺、踏み倒されそうじゃない?


「対価と言われても、『異世界へ安全に渡らせる』と契約に込めたが、強制的に帰されてしまったし、名は、組み込んだだけでなく、ここを見てくれ、刻み込むことすらやった。これ以上どうしろと!?」ワーニーが反論する。

「不安定にもなろうよ。これは真名でなかろう」

「!!!ヤマト。お前、嘘を!!!」

「・・・???俺の名前、あってるよ?」

「では、改めて、前世のお主の名を名乗ってみるがよかろう」

「なんか、緊張するな、何年ぶりだ、あ~、コホン。俺の名前は、『大和貴俊、やまとたかとし』です」


 ワーニーは目を見開いて、「苗字?」とつぶやいた。

 そう、15年前をよく思い出して。自己紹介をぶった切ったのは確かにお前だ。そして俺はフルネームを伝えなければならない契約があるなんて知らされていない。俺は全面的に悪くない。

「今から、フルネームに書き換えられないの?」

「一か八かやってみよう。血をよこせ」

 デジャブです。懐かしいこのセリフ。


 本人である『大和』がいないので本来書き換えは出来ないものらしい。

 今の俺の血で代用できるといいけど。

「心配なかろう。ここに居るとよう分かる。今のお主の血も、この結晶と共鳴しておる。じゃから、お主の髪を持った者が、魔法を使えるのやもしれぬぞ。面白い事が起こるものじゃて」


 結晶の明滅が激しくなる。なんかやばい感じ。

 とっとと書き換えお願いします。注射針とか贅沢言わないから、素早く、治癒お願いします。

 思えば前回も消えかけながらで、時間に追われてたな。

【ザクッ】ギャ!と思った時には治癒されていた。ウーちゃんありがとう。

 ヤーニーは連れてこなきゃよかったかな。俺が切りつけられて血を流すのを見て固まってしまった。トラウマ案件かなぁ。

 ワーニーも、あっち向いてろくらい言って、気をきかせてくれればいいのに。革命世代は血に無頓着でいけない。まあ、そんな風に大きくならざるを得なかった被害者でもあるか。


 ワーニーは血まみれの血の結晶石に向かって、呪文を唱えている。

『再結晶化』『真名での契約の書き換え』とか聞こえる。あぁ。あの時の俺は何を言っているのか分からなかったけど、魔術用語だったんだな。

 本を読み漁った今の俺なら分かる。


 どうか成功しますように。でも万が一に備えて、俺とヤーニーの周りにはガッチリ結界を張っておいた。

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