30.俺、魔道コンロを完成させました
ワープマットは結局、一つは我が家の中庭、もう一つは明日ダンジョンに入って一番奥か、もしくは素材の美味しいエリア付近に結界を張って置いて来ようと決まった。シェフは自分の提案が通るかもしれない雰囲気にホクホク顔で厨房へ帰っていった。
それにしても美味しいエリアって笑えるな。お肉屋さんが繁盛しすぎても安心だ。馬肉とか羊肉とか人気出るよ~。
俺は昨日気になった、『結界浮遊』を使える人が増えると事故が起こるんじゃないかってのを伝えた。すると、オラスルが、
「今の所、心配はないと思います」と言い切った。なんで?
「昨日聞いたところによると、魔術ではかなりの魔力を消費するので現実的ではないとのことでした。魔力量レベル4のシェフやオルトニーがそういうのですから、確かでしょう」なるほど。非常時にしか使わない感じかなぁ。
「そして、魔法ですが、残念ながら、マックスのレベル3を使いこなせる者は極々稀です。勿論これから、イメージの訓練をして使える者が出ることは大いに期待されますが・・・元は魔力なしの者ですから、レベル1や2を使えるだけで大満足で、訓練する者が少ないことも原因にあります」
「そうですね。私や、シーナは使えるなら3まで使いたいと思ったし、周りに規格外がいるので、イメージは簡単でした。そうでなければ、訓練してまでは、やらなかったかもしれません。日常生活では、2は贅沢なくらいですし」とガイル。そうだったんだ。
「フランツは使いこなしているし、グレッグは初ダンジョンからえげつなかったから、そんなものだと思ってた」
「人間辞めたといわれる剣豪フランツと、バイナン団長がエリート教育しているグレッグを普通だとおもっちゃだめですよ」とアンジェラ。
確かに、それはそうか。
「私は人間辞めた記憶ないですけどね」とフランツが律儀に訂正。
「昨日、ウェル様がヤーニー様方を乗せて飛んでいるのを見て、騎士団の朝練でやってみましたが、3人が限度でした。それに一人だと速く走るくらい、3人だと普通に走るくらいのスピードでした。事故を心配なさることはないかと思います」
「教えてくれてありがとう。皆ちゃんと検証したり、データとったりしてるんだな。俺も久しぶりに何かやりたくなった!フランツの空中戦への模索か、魔力封印解放の実験か、あ!魔道コンロを忘れてた。ダンジョン寒いしお腹が空いたよね。温かい飲み物くらいは確保したいなぁ」
「空中戦!それはとても素晴らしいネーミングです。全青少年の心をくすぐるはずです。明日までに完成させましょう!」
フランツの鼻息が荒い。30歳越えのフランツ心をくすぐったのは間違いないな。
「魔道コンロが先だよ。寒いの辛いよ~」と俺。
「では、二人でやりましょう。時短です!」ノリノリだな。
「フランツ!フランツは先に訓練所でやってていいよ。コンロというのは、ウェルと僕がやるから」笑っていない笑顔でヤーニーが言った。
「【ブルッ】それでは、お先に」とフランツは逃げて行った。
ヤーニー、殺気を放つの止めなさい。
大人たちはこの定番になりつつあるやり取りに、呆れながらも微笑ましく見守っていた。そして、俺の周りに『普通の子』がいたほうがいいのか?と話し合っていた。
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それでは早速作ろう。今の俺たちは魔法があるので大気中の魔力を使えば楽勝で火は燃え続けるんだ。あ、さっきも指摘されたな、俺たちは一般的ではないと明記しておこう。普通の人は、着火や火球はかなり大きな火がでるんだけど、継続燃焼となるとアルコールランプくらいになっちゃう。大鍋の水を沸騰させるのは厳しいかな。
今回は一般向けではないので、問題はその仕様だけ。卓上カセットコンロを想像すると分かるけど、鍋を乗せる五徳の部分とか熱くなるけど、テーブルに接する底面は熱くならない。上方向だけの炎を持続かぁ。俺は想像できるけど、他の人は難しいかもなぁ。ま、ダンジョン内だと、床が熱くなろうが焦げようが問題ない気はするけどね。
リチャードが厨房から鍋とマグカップを借りてきてくれた。キャンプっぽくなってきたぞ。
結界をカセットコンロっぽく作ってみる。昨日オープンカーを作り上げた俺は無敵だ。いい出来だ。
いざ、着火!継続燃焼。
鍋に、水魔法で水を入れて、コンロに置く。
隣でヤーニーも同じように俺のを真似て作っている。あ、そこはちゃんと水平にしないと鍋が傾いて危ないよ。とアドバイス。でも、
「鍋がない」とヤーニーががっかりしている。俺のを使って!と言おうとしたら、鍋を結界で作り出していた。
・・・だよね。コンロが出来るんだから、鍋もできるよね・・・
しかも、洗い物がでない。結界を解除すればいいんだから。キャンプっぽいとかはしゃいですみませんでした。装備を減らす意味でも最高のアイデアです。
なんならカップも結界で作ろう。
「ヤーニー凄い。大発明だよ!これだと、持ち物も洗い物も無くなる」
「ほんとだ!すごいね!」と自分でも気づいて喜んでいる。
ヤーニーは上方向を意識した燃焼に、多少手こずっていたけど、そこも程なくクリア。
だが、味気ない。ただのお湯だし。当たり前。
コンソメのキューブをシェフに大急ぎで発注しよう。
ヤーニーとリチャードに、魔術で同じことをした時の魔力消費を確認してもらう。
その間に、俺はシェフの所へ。
「シェフ!大発見を教えてあげるよ。引き換えに耐熱ミトンをください」といいながら厨房へ駆け込んだ。
「ウェル様、何事です?鍋が役に立ちましたか?」
「ヤーニーがね!鍋が足りなくてね。結界で作ったんだよ!普通に使えるんだ!」
「結界で鍋!?なんと、まあ。ちょっとやって見せてください」
コンロを作って、鍋をつくって、水をいれて、火をつける。美しい!流れるような一連の動作!と心の中で、自画自賛。
厨房が静まりかえっている。
「あのですね。ウェル様。それは何です?」
そこからだった!?
「これは、今、完成したて。魔道コンロだよ。見ての通りの調理器具!火をつけたり消したり、とろ火、弱火、中火、強火と自由自在の優れもの。いまならなんと~5000ダル!」
「「買います!」」と声が上がった。皆ノリがいい。
「自分で作ってね」とニッコリしておいた。
シェフにも試しに作ってもらう。こちらも魔術の消費具合を確認してもらって、リチャードと比べてもらおう。
ヤーニーは規格外だし、リチャードはレベル5なので、消費実験には向かない二人だと思い出したのだ。とはいえ、シェフもレベル4なのだが・・・我が家は一般向けの物を作るのは無理かもしれない。
結界鍋のお湯が沸いたところで聞いてみる。実用可能なレベルかな?
「これは、ありです。ただ、中火、強火にすると途端に魔力消費が大きくなります。厨房で使うなら、コトコト煮込む料理に最適かと。ダンジョンでは、魔力温存のため魔法使いにお願いしたいところです」
背後から、すごい!火力のコントロールが出来る!焦がす心配が減る!と大盛り上がりだった。早速皆やっているようだ。いい感じだな。
そして、ここでもまた、俺は知らなかった。
この厨房は全員レベル4だということを。