29.俺、ドラゴン知ってます
「ウーちゃん、今、ハッ!てしたのは何で?」直球で聞いてみた。
「いやのぉ。あれは5000年ほど前、たっぷりした黒髪の魅力的な女神がおってなぁ」
またそれか。ウーちゃんってブレない男だな。
「その世界は、狩って食べる獲物がいるにはいるがベラボウに強おてのぉ。心優しい女神は合コンで悩んでおった」
合コンってそんな昔からしてたんだ。いや、今はスルーしよう。
「それでのぉ、ワシの世界は、狩りしやすい生物が沢山おったでな。一方的に差し上げるではバランスが崩れるでの、交換しましょうとなったんじゃ」
「ベラボウに強い生物がこの世界に来ているんですね?5000年前からいるというのに聞いたことがないのはなんででしょう?」とオラスル。
「さすがのワシも危険じゃと思うてのぉ。ひとまず北の地に結界付きで閉じ込めたんじゃ」
「それってどこ?」
「人がいないということは『最果ての島』でしょうか?」
「名前は知らぬが一番北の島じゃ」
「なら、万年氷の最果ての島だろう。それで、このマットに描かれているのが、ベラボウに強い生物なのか?」とワーニー。
「そうじゃ。ドラゴンと言うておったかのぉ」
「やっぱりドラゴンだった!」
「知ってたの?」とヤーニー。
「物語に出てくるんだ。最強の生物といえばって感じのド定番。ファイヤードラゴン、アイスドラゴン、レッドやブラック、古竜や地竜、西洋に東洋。物語によって色んな名前が付くんだけど、ウーちゃんが交換したのはどんなタイプ?」
「怒ると氷の息を吐いてくるやつじゃった」
「となると、アイスドラゴンかな。万年氷の島ってアイスドラゴンが未だに怒ってて凍らせ続けてるってことはないの?」
「それはないのぉ。もう一つ世界を作ってそちらへ移動させたでのぉ」
ウーちゃんが神様っぽいよ。ドラゴン用の世界を作ったんだ。
「あの時は女神が、自分の世界の人々はとても感謝している。と追加で沢山の種類を送ってくれてのぉ。新世界を作るより他に方法がなかったんじゃ」
沢山の種類??新世界ドラゴン見学ツアーとかないかな。絶対凄いことになってるよね。
「ダンジョンに現れたマットに、ドラゴンが描かれているのは何故なんですか?」とアンジェラが尋ねる。そうだよな。この世界にはいなくなってるんじゃないの?
「ダンジョンは、架空の生物ではなく、この世界の生物で構成されるはずじゃ。一瞬でもここに居ったで、おかしくはなかろう」
「成長するダンジョンが、モチーフとして、強い生物の存在を感じ取って採用した。それがドラゴンだったということでしょうか?」
「ワシは作った記憶がないでのぉ。そうなるじゃろうて。ダンジョンボスもドラゴンが採用されとるかもしれぬのぉ。ふぉふぉふぉ」
「「・・・」」
【パチン】とガイルが手をたたいて、
「それでは、使い方を検証してみましょう」と話を進める。
「魔力的な何かは感じ取れませんか?」
「俺は分からんな、ヤーニーはどうだ?」
「僕も何にも感じない」
「ウーちゃん様はどうですか?」
「そうじゃのぉ」といいながら、マットの上まで飛んでいき、手を触れた。
すると、右のマットにいたのに、左のマットに移動していた。
「ワープだ!」と俺は叫んだ。4次元のポケット的なやつから出てくる不思議道具にありそうなやつだ!
「右にのったら左に出てきた。つまりワープ。強制的に瞬間移動させる道具ってところかな。俺、のってみたい。いい?」とワーニーに聞くと、大人が実験してからだと言われた。俺も中身は大人なのに!
「まずは確認だ、ワープというやつだとして、まずは回数制限があるのかどうかだが、さっきと何か変わった感じがするか?」
皆でのぞき込む。「わからぬのぉ」「変化してなさそうですね」
その後も、距離、人数、いろいろ試していた。
俺もやりたい!
「ねぇヤーニー、これってさ、最後の人が回収できるのかな?」
「最後の人?」
「だって、のったらワープだよ。例えば、一つを安全な場所に置いておくだろ?もう一つは危険な場所に持っていって危なくなったらワープで帰ってくることにする。そうやって危険から逃げるために帰ってきたら、マット一つは、ずっと危険な場所に放置されることになっちゃう。回収できなきゃ」
「僕が回収しに行ってあげるよ!」と言ってくれるが、
「ダンジョンの地下二階は瞬間移動できなかったろ?」
「そうかぁ」しょんぼりする、ヤーニー。
元気づけるためにも二人で楽しくシュミレーションだ。
似たような大きさのマットで、寝転がって巻き取りながらとか、端っこを掴んだままジャンプとか、上から被るとか、ケラケラ笑いながらやった。
いよいよ俺たちにも許可がでた。
体の半分程がマット上にあって更に触れるとワープする。マット以上の大きな持ち物も体の一部と認識されるので、ゴール地点のマットの置き場所は考えないといけない。と言うところまで検証したとのこと。
では、早速、端っこ掴んでから、マットの中心へ!
やったね!一発成功。ちゃんとマットを持って反対のマットへ移動できた。
皆から凄く褒められた。ま、常設して使うんなら関係ないんだけどな。
今日は疲れた。お休みなさい。
大人たちは、この後、地下二階まで行って、マットが使えるか試すんだって。よく考えたら、研究所の職場って、超ブラックだな。お休みをあげて。
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翌日、昨日と同じメンバーが集まった。
ワープマットは、地下二階でも使えたようで、設置場所を考えている。
ちょうどいいメンバーが揃っていると思って、
「研究所って、すごく沢山仕事を抱えてるけど、人数増やさないの?」って聞いてみた。何でもかんでも研究所に丸投げしてるからな。
オラスルが苦笑いしながら答えた。
「実は、ここの二人は開発局研究室のトップ2なんです。なので応援をよこしても足手まといになると・・・ブラス侯爵家の使用人の方々はとても優秀なので、その方々のお手伝いに慣れてしまうと、研究員がどうも、至らなく感じるようで・・・」
なるほど。うちのスタッフは超優秀だって言ってたもんなぁ。優秀でかつ魔力も多い。
魔力版の試作試用を頼まれて全員でやってみたけど、一番低い人でレベル3だって言ってた。教会が魔力版で集めた最新データでは、魔力量はほとんどの人が2か3なんだそうだ。まれに1、4、さらにまれに、5。らしい。
ブラス家ではほとんど4。まれに3,5って感じ。異次元だ。
「そういうことなので、我々は、快適に研究出来てますよ。ありがとうございます」
「そうです。そうです。応援よこすから、ここのお手伝いを断れって言われたら切れちゃいそうですよ」とオルトニーとアンジェラが、ニッコリと、ちょっと怖めの笑顔で言った。
余計なことは、しないほうが良さそうだ。