27.俺、研究所の人事を考えたい
魔術では体内魔力を使いすぎるので、非常事態に備えるべきダンジョンで、これ以上は危険だと、練習は終了。
羨むメンバーを尻目に『魔法使い』の俺とフランツは、スムーズに移動する練習に励んだ。
『魔法使い』格好いいよね!欲を言えば俺が広めたかったな。
ワーニーとヤーニーは魔法使いじゃなくて魔術も両方使える神の末裔だから、別枠かな。
ワーニーは最初の頃は、意識すると魔術を、無意識だと両方を、無自覚に切り替えて使っていたけど、今はほぼ魔法を使っているそうだ。
俺と同じでレベル3の上限がない、規格外の魔法が使える。
じゃあ、魔術は使っていないのかと聞くと、体内で魔力を練るという作業をする時は使うんだって。練るってなんだ。天才かっ!天才だった。
ヤーニーは2歳の頃、俺誘拐事件を起こして魔力を封じられた時、魔法が意識的には使えなかったので、俺の髪の入ったネックレスを付けていた。すぐにコツを掴んでネックレスは要らなくなっていると思う。しかし、未だに返却されていない。将来、忘れた頃に髪入りのネックレスが物置とかから出てきたらオカルトだよぉ。返すように言ってみよう。
「なあ、ヤーニー、俺の髪入りのネックレスって、もうなくても魔法使えるんだろう?」
ヤーニーがビクッとした。どうした?
「うん、使える。だから大事に僕の宝物入れに入れてる。大切にしてるよ」と早口で言い切った。どうやら、返せと言われたくないようだ。
俺の可愛いヤーニーは、ストーカーの気質がある残念君に育ちつつあるのか。オタクは全然許容範囲なので、そこ止まりでいて欲しい。
髪については悪用はしないだろうし、放置でいいか。
悪用と言えば、俺は髪を悪用されないように、抜けた髪は全て研究所の保管箱に自動で転送、収納されるようになっている。抜け毛のない快適生活だ。朝起きて枕に!シャンプーしたら排水溝に大量の!なんてこととは縁がない。
髪を提供するのに伸ばしているから、抜け毛があったら凄い量になっているはず。ワーニーありがとう。
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フランツは更に、この浮遊が、戦いにも使えないかと模索している。空中戦をやるつもりか?
人間辞めた強さと言われている剣豪フランツ、ますます人間から遠のくね。
アンジェラとオルトニーは、この方法の名前を、箱型結界にするか結界浮遊にするかで議論している。
箱型って名前に入れちゃうと箱しか連想しなくなるかな?他の形もよさそうだよ。
俺は試しにお椀型の結界を作ってみた。イメージは一寸法師!出来た。それじゃあ乗ってみよう。あれ、縁に届かない。やり直し。
次は遊園地のティーカップのイメージ。入り口もあるし、座るところもある。
ウーちゃんも乗せてあげよう。
ジリリリリ~出発しまーす!おぉぉ、浮いた。いい感じだ。
「見て~。箱型以外でもできたよ~」と上から声をかけた。
命名の議論は、ひとまず『結界浮遊』で落ち着いたようです。
アンジェラは、上にいる俺を見上げながら
「スカートの女性を乗せるなら結界に色を付けれないと厳しいですね」と言っている。
結界は透明の虹色。シャボン玉の色だ。すごく綺麗。当然浮くと下から見えちゃうな。
色を付けてみよう。出来ない。なんでだ。形はすぐ変えられたのに?イメージ不足かなぁ。
色々と試行錯誤をしていると、相当羨ましいのか、アンジェラとオルトニーは以前からの懸案である、『体内魔力を自由に封印、解放する方法』を、早く進めねばと気合を入れている。
これが出来れば、レベル4以上の魔力ありのシェフやオルトニーはとても有利だ。
今回の例だと、移動の時には『魔力を封印』して魔力消費のないレベル3までの『魔法』を使う。
戦う時には『魔力を解放』して体内魔力でレベル4の威力を出せる『魔術』を使う。と使い分けられる。いいとこ取りだ。あ、でも同時展開は出来ないかな?
俺的にはシャルロッテのように、魔力ありでも、レベル1,2の人が、『魔力封印』出来れば、レベル3の魔法が使えるようになるというのが一番のポイント。
研究頑張ってほしいな。ダンジョンに連れてきてる場合じゃなかったか!?
「あぁぁぁ!」とフランツが悲しそうに叫んだ。
「どうしたの!!!」緊急事態かと駆け付けると、
「陛下のように、大きな箱型の結界を作ると浮かせられません」と答えた。
普通の人の『魔法』はレベル3の魔法までなんだから、どこかに限界はあるだろうさ。
今、限界が分かってよかったよ。なんでも実験、研究は必要だな。
帰ったらガイルも交えて研究所のメンバー補充を考えよう。
「お前たち、いいご身分だな」ワーニーが帰って来た。
「ごめん、魔獣任せきりにしちゃったな」と俺が謝る。
「ふん、それより、乗れ」と言って結界を作る。
「帰るの?」
「違う、階段を見つけた」
「すみません、地図の係は私なのに」とアンジェラが謝る。
「いや、構わぬ。この広いスペースの右奥に隠されたようにある階段だ。新たな道に進んだ訳ではない」
そこには、二階層に下りた階段とは明らかに違う、幅の狭い階段があった。
「お前たち、魔力は回復しているか?」
「8割くらいです」「7割ほどです」と各々答える。
体内魔力、自分で減り具合分かるんだ。
満腹ですか?腹八分です。って感じの8割なんだろうか?
「この階段が、ボス戦というやつの階段なら。万全で行ったほうがよいのかと思ってな」
ボス戦という言葉に、空気がピリッとする。緊張する!
「えぇ~っとじゃのぉ。今、思い出したんじゃが。ボスの間の扉はゴテゴテと凝った作りにしたはずじゃて。間違って開けては危険と思うてな」
「ということは、階段を下りてみて、ゴテゴテした扉がなければ普通の階段ということですね?」とリチャードが確認する。
「そうじゃ」とウーちゃん。
「下りるぞ」とワーニー。
明かりを向けると相当長い階段だ。
俺たちは二人組になって、階段幅に合わせた小さな結界を作り、浮遊して下りることにした。
ワーニーとシェフ。ヤーニーとアンジェラ。フランツとリチャード。俺とオルトニーの4組だ。ウーちゃんは万一の為にと俺の所に来てくれた。4つの結界が順に並んで下りていくのを想像すると、ケーブルカーっぽいな。
フランツと俺は少し人を乗せる練習をして、問題ないとなったら早速出発だ。
下りている途中に【カキーン】とか【ドンッ】とか結界が音を立てている。罠だ。怖い!上から弓矢か何かが飛んできてるんだ。結界で移動してよかった!
下まで下りると、小さな扉がある。
「ウーちゃん記憶にある?」
「ないのぉ。」
「罠があったってことは宝箱とかかなぁ?」
「乙女の神像が置いてあるとか?」
「入りますか?」
ワーニーは全員を見渡すと「入るぞ」と扉を開けた。
中は明るかった。地下3階のはずだけど、光が差し込んでいて、
宝箱を照らしている。神々しい。
ウーちゃんを見ると、首を横に振っている。覚えてないらしい。好きそうな演出なのにな。
皆で周囲を確認して、いよいよ宝箱オープンだ。
俺は俺の知っている限りの怖い宝箱情報、例えば、宝箱自体がモンスターとか、矢が飛んでくるとか、毒ガスが噴射されるとか、落とし穴に落ちる話をして警戒をお願いした。
かなり怖がらせてしまったが、ワーニーはサクッと開けた。




