26.俺、飛べるようになりました
ウーちゃんが『乙女の神像をダンジョンの外へ持ち出すと、ダンジョンが崩壊する』というのを思い出してくれたおかげで、俺たちはそれ以外は何をしても大丈夫だとウキウキだ。お肉屋さん廃業の心配もせず、ダンジョン攻略、そしてボス戦だ!
ヤーニーの目がキラキラしてる。ちょっと鼻息が荒いけど、それでも可愛い。シャルロッテの可愛さは殺しにくるやつだから、ヤーニーが和み系ナンバーワンだな。
「シェフ、現状の説明を頼む」とガイル。
「はい。これを見てください。この黒の部分がウェル様達が作ったマップです。結界を張りながら進んでいた道で安全です。そして、斜線の部分が俺たちが肉を手に入れるため進んだ道です。大まかにどんな魔獣がよく現れるか書き込んであります。そして、ここです」
と一点を指さした。
「ガイル様には先日報告しましたが、下へ続く階段が見つかりました。まだ誰も下りていません。そしてここ以外は全て突き当りまで行って確認しています」
「ウェル、ダンジョンの下には何があるのだ?」とワーニーに聞かれる。
「思いつくのは、ボス戦への誘導かな。あと、複数階層のダンジョンなら地下二階へ続く普通の階段ってことになるけど。通常複数階層あると下に行くほど魔獣が強くなるとか、罠があったり、特殊な条件が必要だったりとかで、攻略が難しくなっていくんだよ」
「乙女の涙とかも、その条件だったりするのか?」
「やっかいだな」「罠って落とし穴とかか?」
「いずれにしても、手強い敵がいると思っておればよかろう」
皆、いろいろ言っていたが、ワーニーが締めくくった。
翌日早速、階段へ。装備を整えてきました。
ワーニーの瞬間移動で鹿エリア周辺まで来れたからあっという間です。
我が家の地下扉からここまで歩くと、実際は2時間くらいかかる広大な鍾乳洞だ。
俺とヤーニーは、ヤーニーが「ウェルは僕が守るから!」って言ってようやく参加が許された。
いやいやいや、俺は、魔法だからマックスはレベル3だけど、規模は規格外だよ。
普通の人が魔法で『火球』を使ってイノシシ一体倒すとすると、俺は同じ『火球』がマンモスくらい倒せるサイズにできる。それが、大気中の魔力を使ってできるから魔力切れの心配もない。結構使える奴じゃない?
だから自信だって持ってたのに。くすん。
気を取り直して・・・メンバーを紹介しよう。
もちろん、言い出しっぺのワーニー。
たっての希望でシェフ、動機は新たな肉。
調査研究のためのアンジェラとオルトニー。
いつもの5人、俺、ヤーニー、リチャード、フランツ。
そして、ウーちゃん。
合計9人だ。
というか、このメンバー、はたから見ればフランツ以外強そうな人がいないなあ。
まあ、いい。大丈夫だろう。下りてみよう。何が待っているのかな?
*******
どうやら、ボスでなく地下の二階層だ。
魔獣が一気に強くなっているし、気温が随分低い。魔獣が逃げない程度の明かりの魔法を使いながら進む。
危なげなくワニや馬や羊の魔獣を倒していくワーニーとシェフ。
俺たちは完全に見学だ。じっとしているとドンドン体が冷えていく。
「ちょっと寒いね」とヤーニーに話しかけると、
「コート取ってきてあげる」と・・・いつもなら、ここで【シュン】って瞬間移動しているはずだが、まだここに居る。
「あれ?移動できない!」何度か試したようだが、無理なようだ。
「階層が跨げないのかもしれないよ。階段を降りたところまで瞬間移動して、階段を上って、それから家に帰ればどうかな?」と提案してみた。
「・・・だめ。ここのどこにも行けない」としょんぼり。
これはまずい。帰りのことは瞬間移動があるからと、皆計算に入れていないはずだ。
「ワーニー!ここは瞬間移動できない。ってヤーニーが言ってる。確認して!」
「なんだと?フランツ、周囲の警戒を頼む」と言って、自分は瞬間移動しようとする。
が、無理だった。
「出来ない。これは厄介だ。帰りも歩くのか?」と嫌な顔をしている。
すると、
「空を飛べばよかろう。歩くよりは楽じゃろうて」とウーちゃん。
「全員抱えては飛べんぞ」とワーニー。
「結界で包んで浮かすとかはどうです?」とシェフ。置いて帰られたら大変なので必死です。
「やってみよう」と箱型の結界を作り出す。その中に全員入る。
垂直に浮く、そして水平に移動。出来た!すごいな。エレベーターに乗ってるみたいだ。
「なんか楽しいね!」と言ったら、ヤーニーが僕もやりたい!って騒ぎだす。
「それなら、戻りはやってみるといい」と許可がでる。
一旦全員で降りて、ヤーニーが箱型結界を作る。そして皆でまた乗る。
なんか、冷静になると可笑しい。
そしてヤーニーも成功。
「ウェル、楽しい?」と聞いてくる。俺の為にしてくれたんだな。
「楽しいよ、ありがとうヤーニー」ええ子や。
こんなにいい子なのに、冷ややか王子様モードの時は、口調も変わって超怖いんだよなぁ。
初等学校に行ったら『氷の王子』とか二つ名がつきそうだ。
無事に、最前線に戻ってきた。
熊がでたり蛇が出たりしたが、どれも瞬殺。
アンジェラが、
「この階層も上と同じ広さなら、調査に時間がかかりますね」と地図を書き込みながら言う。
「陛下やヤーニー様がいないと歩きですから、ここまで来るだけでも大変ですね」とオルトニー。
「アンジェラは浮遊と瞬間移動、まだかかりそう?」と聞いてみた。女版ワーニーと言われるくらい多才な人だからね。
「何度かアドバイスを頂いているんですけど、イメージ出来ないんですよねぇ。でも、さっきの箱型の結界で浮いたとき、ちょっと何か掴めそうでした」
確かに、フワッて感じが分かりやすかったかも。エレベーターみたいって思ったじゃないか!
ヤーニーのアドバイス『下に引っ張られるのを無くすと浮く』っていうのは未だにイメージ出来ないけど、足元の床が持ち上がるイメージならできる。
そのイメージでも良ければ俺にも出来る!はず!
まずは結界、1人のサイズで十分かな。そして、【フワッ】出来た!!!ヨロヨロっとだけど移動もできる。
みんな驚いている。
「アンジェラ!箱が持ち上がるイメージで出来たよ!」と報告。
魔獣そっちのけで、すぐさまみんなやってみている。
ワーニー!魔獣は頼んだ。
そして、なんと、全員出来るようになりました~!パチパチ。
でも、かなり魔力を使うようです。
「こんなに魔力を使うんじゃ、戦闘前には怖くて使えないな」とシェフ。
「そうですね。でも魔法で行使してもらったら無限ですから。このイメージ法を伝えて魔法使いに習得してもらい、雇い入れて同行してもらうのがいいかもしれませんね」とリチャード。
『魔法使い』
俺の耳には馴染みがある単語が爆誕していた。
魔法使いの新たな就職先が広がりそうな気配です。