2.俺、もしかして狙われてる
0歳児のいいところは寝てていいこと、起きてて喜ばれること。キャッキャとはしゃぐと感動すらしてもらえる。
緊張感ゼロの0歳児。当たり前か。
でもこの世界、前世の俺が転移した時は緊張感しかなかったがどうなってるんだろう。
赤ん坊の部屋で国の情勢を語る大人なんていないから情報収集はできない。歩けるようになるのっていつぐらいなんだ?とてつもなく長い気がする。ウトウトzzz
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その時、俺はワーニーの顔を見た。なんだかんだ言ったって裏口が騒がしいなんて非常事態になったら頼りになるのはこの天才少年魔術師しかいないのだ。
使用人が大声で「勝手に入られては困ります!」と叫んでいるが、裏口から押し入るような奴に聞く耳はないだろう。
「逃げるか?皇帝の暗殺計画がばれたとかか?」と聞いてみるが、
「この家はワーニーが認識阻害をかけていて二階建てに見えているから三階にはきませんよ」とガイルが教えてくれた。凄い。
感心していると
「あ、ヤバいな。神官がきた」と、ワーニー。なに、神官には効かないの?
「森のツリーハウスに移動する。ガイルは適当にごまかして対応して、その後食料を持って集合だ」といって俺に抱きつくと
【シュン】って音がして視界が一瞬ザッと歪んだと思ったら森の中だった。
瞬間移動ってやつか?驚いた。でもガイルは放置なのか?いや重大な仕事をサラッとぶっこんでた。適当にごまかすって、子どもは、おやつの摘まみ食いをごまかす時くらいしか使っちゃダメなんだよ。
15歳の少年を危険のただ中においてきていいわけ無い。そもそも認識阻害をかけてた理由なんて、なんて言い訳するのさ?
「戻ろう。ガイルくんが大変な目にあってるかもしれない」と言うと
「俺は魔術の天才だが、アイツは俺の尻ぬぐいの天才だ。その能力をもってすれば今回は容易い仕事だ。任せておいた方が余計な気を回すよりいい」と言い切った。
日本の生ぬるい20歳と命の危険を感じて育つ15歳。どっちが逞しいかはこちらに来てニ週間、よくよくわかってる。
でもな、そういうこっちゃない。俺の中には、中学生の背に隠れる大学生っていう格好悪いイメージがチラチラ浮かぶ。
ため息しかでない。はぁ。情けない。転移者の強大な力って何なの。実験結果教えて欲しい。
安全確認しながら少し歩くと大きな木の下で立ち止まる。認識阻害を一瞬ゆるめてくれたようで俺にもうっすら頭上にツリーハウスが見えた。今日からここが住居になるのか。
俺を部屋にあげると、絶対に外に出るなといい置いてワーニーは出掛けて行った。きっとガイルのところだ、やっぱりガイルが心配なんじゃないかとは言わないでおいた。
二人の無事を祈る。俺の力が聖女的なポジションで、祈ったら光るとかないかなとワンチャン期待したがダメだった。光らなくていいから願いは叶えてほしい。使用人さんたちも含めてどうか無事で。
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二人は食料を抱えて帰ってきた。よかった。
お腹も空いたけど、どうやってピンチを乗り越えたのかが聞きたい。そんな空気を読んでかガイルが説明してくれた。
とにかく怯えず悪びれず謙虚に尊敬を持って接すればどうにかなるそうで、今回は、まず、何か言われる前にすかさず、
「表からでなく裏口から人の家を訪ねたのはどうしてか」聞く。相手は後ろめたいことが有るからだとは言わないもの。
「極秘に聞きたいことがあったからだ」と返答。
そこで「表から訪ねてくださってもお答えしましたよ」と笑顔で対応。雰囲気がゆるんだら悲しげな顔で、「両親は《恐怖の粛清》で殺されて、ここには使用人と僕しか住んで居ませんが」と申告。これで衛兵はほぼ引いてくれる。
神官が「認識阻害をなぜ使っているのか」聞いてきても、「不便は無いので放置しているが両親が家にかけた魔術がまだ染み付いているのでは」と返す。魔術の正確なカラクリなんて誰も知らないらしくそういうこともあるのかで済んじゃうらしい。そこで一言
「魔術の痕跡のある家を一件一件回っているのですか?大変ですね」といえば
「星見で示された場所だけだからそんなに大変じゃないよ」と教えてくれる。こんな流れ。スムーズですごい。
ガイルにはほとんど魔力が無いらしく、だからこそ出来たまったりトークらしい。
この世界はある一定の魔力がある人は他人の魔力保持の量がおおよそわかるらしいので、怪しい建物に高魔力保持の人間がいたらさすがに厳しく追及されただろうとのこと。既にバレてしまった認識阻害は残しつつ、ワーニーは逃げる、が正解なのだ。
異世界の疑問はまだまだわいてくるがキリがないので、あとひとつだけ。星見ってなに?
これにはワーニーが答えてくれた
「教会の水盤に星を写してその年の吉凶を神官が占う儀式のことをいうんだが、このタイミングで家に来たならまず間違いなく転移者の有無を占って、エリアを割り出したんだろうな」
「なにそれ、いきなりの高機能な占い。
そんで俺、狙われてる?でもガイルくんと話した神官さんは悪い人じゃなさそうに感じたけど、帰してくれるかもしれなくない?」
期待をもってたずねても
「皇帝を好きな奴なんていないだろうから多少の目こぼしはあるかもれんな。だが自分の命をかけてもお前を救いたいと思ってもらえる自信があるか?」
ないなぁ。そりゃ、普通にない。日本のちょっとした親切は、命に直結しないからね。ピントこないのは当たり前だよ。冷たい目でこっち見んな。
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翌日からは星見対策の結界を張って森の中で実験三昧。俺はおとなしくいいなりです。
「森の方が実験がはかどるな。最初からここに来れば良かったか」とワーニーはご機嫌だ。
その陰でガイルが使用人さんの代わりに俺たちの食事の確保に奮闘している、が天才様の目には入っていないよう。街中の家とは安全のため連絡すらとっていないのでガイルの負担は大きいだろう。水とか重いよ!
同じ伯爵子息として育ってこの違い、性格か、魔力量とかか。いずれにしても俺は断然ガイル推しだ。
「ワーニーに瞬間移動で買い出しさせたら?」ってたずねたけど、
「もうすでに浄化魔術で風呂も洗濯も必要なく生活させてもらってます。食事の確保くらいは僕の役目でしょう」と言って苦笑した。
ワーニーゴメン。今からはコンビで推させてもらいます。
一週間後、俺の力についてワーニーは結論を出した。
俺自身には使える力が何もないということだ。『おい!転移チート仕事しろ』言葉が通じるだけとかいらねぇよ!いや、それはいるけど。他にもくれよ!
「何もないって、俺はこれからどうすりゃいいの?この世界で生き残れなくない?」
「大丈夫だ。俺自身が王国を建てる。そうすれば教会に出入り自由だ。帰れるぞ」
「毎日毎日処刑場が血に染まるようなこの帝国で、どこに『大丈夫』があるんだ!ていうか、そもそも王国を建てるってどういうことか分かってる?王様になるつもりなのか!?マジでどゆこと?15歳で!?」大きな声で一気にまくし立てた。
ワーニーは大人びた表情で答える
「15歳の少年がただ王様になると息巻いている訳ではない。天才魔術師が圧倒的魔術力という武力でもって覇王となるのだ」
いやいや、なんか、説明がより怖くなった。覇王が魔王に聞こえるよ。
「前に皇帝一人が問題だから暗殺してしまえば国は良くなるって言ってなかったか?」
「そうだな。強力な魔術師を揃えて守られている皇帝を暗殺するために、仲間を募ってこちらも数を揃えるつもりだった。だがそうして仲間を、特に大人の仲間を増やすと派閥争いを始める。そしてどの派閥が『俺という兵器』を従えるのかと争いだす」
天才の苦悩がスケール大き過ぎる問題。
「だから俺が一人で倒して一人で王になる。煩わしいことがこれで限りなくゼロだ」
大人の理屈の通じないこの年齢特有の理論であるようにも感じるが、この世界ではこれもまた通用しそうではある。が、
「一人で倒せないから仲間を募ったんだろ。無理じゃん」とかえすと
「そこはお前の力が必要だ、いやお前がいるから決行できるともいえるか」
何も無いといわれたばかりの俺の力とは何ぞや。首をかしげていると、衝撃的な言葉が、
「お前の血が俺の力を倍増させるだろう。血をよこせ」
あれですか?吸血鬼的な案件になってきてます?
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あの時の俺、ギョッとするよりポカーンとした顔をした気がする。
ワーニーは王様になれたのかなぁ。覇王か?魔王か?
あ、おむつ交換の時間です。恐縮です。ハイハイできるようになったらすぐにトイレ自分でしますから、それまでお願いします。