19.俺、お兄ちゃんになりました
5歳になりました!
パチパチパチ。おめでと~俺。
魔法を使えるようになってからの怒涛の日々も懐かしく感じる今日この頃。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
こちらは5歳のお披露目の準備に嫌気がさしています。
洋服の採寸やデザイン決め、試着は時間がかかるし、挨拶の作法の練習、挨拶の順番、それに合わせた会話の準備。
それって必要?5歳児に政治向きの話まで叩き込まないで欲しい。
ま、でも、今の俺には最強の癒しがいる。
ヤーニーじゃないよ!
シャルロッテ、もうすぐ2歳のかわいい妹!
そう、俺に最愛の妹ができたんだ。
琥珀色の瞳に暗めのブラウンの髪、母様とまったくのお揃いでめちゃくちゃかわいい。
舌足らずで一生懸命に話すシャルに、ガイルは日々ノックアウトされている。
そして、魔力ありで、量は少なめ。
この『量は少なめ』ってのが今のご時世では微妙なところだ。
というのも、あれから研究所のアンジェラとオルトニーは大奮闘して、一年ほど前に、
『魔術も魔法も同じもので、かつ質ではなくイメージで発動するもの』と結論を発表した。そして同時に発表されたものをまとめると、
魔力あり=体内魔力で魔術を発動。体内魔力の量(レベル1~5)に魔術の最大規模(レベル1~5)が比例する
魔力なし=大気中魔力(体外魔力)で魔法を発動。命名式ではめられるピアスが必須。最大規模はレベル3までと上限がある
こんな感じ。お分かりいただけるだろうか、魔力ありで魔力が少ないものが圧倒的に不利になっている。
レベル1,2なら魔力ありで生まれたくなかったとまで言われることに。
今後の研究所の課題はこの人たちの為に、魔力封印ができるかどうかかな
?
ちなみに命名式ではめられるピアスは勿論俺の髪が使われたものだ。内緒だけど。
悪用されないように、亡くなるとか、体から切り離されると無効になることは周知徹底された。
赤ちゃん以外で、欲しい人は教会にて申し込み制だ。勿論殺到していて順番待ちの状態が続いている。
教会は苦情の嵐だそうだ。落ち着くまでは頑張ってもらおう。
ウーちゃんに靄になって神像に入ってもらって
「がんばるのじゃぞぉぉぉ」とか言って労ってもらうか?なんてな
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魔術=魔法の理論確立の立役者は庭師のトムじい。
質が違うからと憧れの『土魔術』を諦めて、使い手の人を羨みながら見ているだけだったのが、
魔法実験に参加すると『全種の魔法が使えるよ』と言われ、魔力を封印してもらって、初めての土魔法を使った。感動した。
もう魔力はいらない、俺は土魔法で生きていく!と宣言した。が封印したままに出来るわけもない。解除の魔術から逃げ回ること一カ月。
封印は劣化して知らぬ間に、自然に解除されていたが、土魔法は使えていた。
魔力を見ることが出来るオルトニーさんに、
「トムニーさん、今、体内魔力を使ってますから、それ土魔術ですよ。自力で使えてますよ!」と指摘されたのだった。
イメージは大事、それに、俺には無理だという思い込みがダメってこと。
誰もが皆、全種の魔術、魔法を使える可能性はあるんだ。
それにしても、逃げ回っているトムじいはちょっと可愛かったな。
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それを踏まえてシャルロッテの話だ。魔力量は少なめ、レベル2。
少し前までの魔力なしの絶望に比べると贅沢な話だろうが、可愛い妹の将来の憂いを取り除いてやりたいのが兄心だ。研究所になにか協力できるといいんだけどな。
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ここ2年、午前中はほとんどヤーニーと探検家を自称して鍾乳洞を隅から隅まで探検していた。
ヤーニーには俺の髪入りのネックレスをプレゼントしたから魔法が使える。
好き放題魔術を使って、魔力封印されちゃったわけだが、イメージ力が段違いなので、ほんとに封印されているの?ってくらい使いこなしている。
とはいえ、幼児の二人での探検は許可されず、俺には少し早いが前倒しで専属執事リチャードが付けられた。
オールマイティーってこの人の事だと思う。なんでも出来る頼りになる兄貴ポジションだ。
ヤーニーには、王子付きの護衛騎士フランツが大抵ついてきている。
それに、忘れちゃいけない、ウーちゃん!
王宮ではというか対外的には『陛下がぬいぐるみに魔術を施したら知能を持った』と説明されたらしい。なんでもありだ。
毎日、朝日と共にヤーニーのベッドから俺のベッドに瞬間移動してきて、勝手にチクッとやって、血を採取し、その後は夜寝る前にヤーニーの所へ戻る以外は基本自由行動だ。
俺の血のおかげで絶好調なんだそうで神出鬼没で飛び回っているが、探検は面白いらしく、いつも付いてくる。
ヤーニー、俺、フランツ、リチャード、ウーちゃんの5人のメンバーでの探検はとてもスリリングで楽しい。
鍾乳洞はワーニーが張った結界の外は危険だし、光の道をそれると暗い。
そこを自分たちで少しずつ結界を広げたり、光の道を伸ばしたりと、まるで開拓者のように進めていった。
そして一年ほど進めていると俺はふと気づいたんだ。
「この鍾乳洞ってダンジョンなんじゃないの?」と。
「ダンジョンってなに?」とヤーニー。
「物語に出てくる場所で、魔物や魔獣が湧いてくるんだ。ボスを倒すと宝箱とか出てくるんだ」というと、リチャードが、尋ねる。
「なんでその場所だと思ったんですか?魔物はともかく魔獣はここでなくても、どこでも見かけるでしょう?」
「それがさぁ。俺たち結界を張ってるから分かりにくいけど、死骸を見てないと思わない?」
「魔獣の死骸ですか。確かに普通なら死骸か、体の一部、骨などを見かけるはずですね。フランツは気づきましたか?」
「いえ、私も気づきませんでした。そもそも結界の側にあまり魔獣が寄ってきませんし」
「ウェル~。ダンジョンって死骸がないの?」とヤーニー。
「物語にもよるけど、ドロップアイテムっていう特殊な何かを残して、後はダンジョンに吸収されるとかがお約束かなぁ」
「なんとも不思議な場所ですね。取り敢えず結界から出て戦ってみましょう!」とフランツ。脳筋とかいてフランツと読みます。
「ウーちゃん、神様でしょう?ここにダンジョン作った覚えある?」とヤーニーが聞く。
「そうじゃのぉ。最初にダンジョンを作った神が時の人になってモテにモテておってのぅ。羨ましくていくつか真似して作ったとは思うが、場所や詳しいことは覚えておらんのぉ」
「昔からモテに執着が凄いね」というと、じろりと睨まれた。
「モテは重要じゃろうよ。あぁ!思い出した、オリジナリティーを出そうと思って、成長するダンジョンにしたんじゃった」
「では、ウーちゃん様は、ここがダンジョンかどうか分からない。そして、分かったとしても現状は、勝手に成長しているから関与していない。ということで合っていますか?」詰めるリチャード。優秀です。
「そういうことじゃ。探検らしくなってきて良かったろう」とニシシと笑った。
「まずは私が」とフランツ。
「僕も行く!試したい風魔法あるの」とヤーニー。
探検家じゃなくて冒険家になっていきそうな気配。
ギルドでも立ち上げるかな。なんて。