18.俺、小難しいことから卒業します
はぁ。長い。でもまだある。
次はヤーニーの瞬間移動問題だ。頭痛い。ちょっとティーブレイクしよう。
お茶と共に早々にドールチェアが用意された。居間に飾ってあった座面幅12センチくらいの人形用を急遽代用。
ウーちゃんにシンデレラフィット。気に入ったようだ。
ワーニーがお茶を飲んで一息つくと切り出した。
「ヤーニー、お前には俺を上回る魔力も才能もある。だからこそ、今は魔術を封印したままにして、制御訓練を中止する」
「まじゅつ、だめ?」とヤーニー。
「そうだ。好きな時に、好きなところへ行き、誰にも見つからない様に強固な認識阻害をかけ、見つかっても入れない様に結界を張る。これを親として許す訳にはいかない」
こうして聞くとかなり無茶苦茶な魔術だ。才能があるってすごいな。
だが今回ばかりは俺も被害者の一人だからな。こんなことが頻繁にあっては何も出来ない。仕方のない処置だろう。
ヤーニーは固まっている。理解できただろうか?
「まじゅつ、つかえない?」
「そうだよ。今まではツリーハウスや、ウェルの家では使っても良かっただろう?それが出来なくなるということだ」
「ビューンも、しゅんってするのも、ナイナイも、カチカチもぜんぶ?」
「全部だ」とワーニー。
「やだだもん」といってヤーニーはこぶしを固めた。
ミシィミシッ、カタカタカタ、
部屋がきしむような音を出す。テーブルの上の紅茶がカタカタと音をたてる。
封印を自分で破ろうとしているようだ。
「ヤーニーやめなさい」とサテラ様がヤーニーを抱きしめながら言う。
それでも止まらない。
「危険です。魔力が見たこともない濃い色でヤーニー様の中に渦巻いています」とオルトニーが叫ぶ。
「ヤーニー!やめなさい!」と叫びながら、ワーニーが手のひらを向ける。
バリーーーーーーンと大音響がして皆、耳をふさぐ。
辺りが静まりかえった。
「なんとなんと、ワシの子孫たちは規格外に育っておるのぉ。ワーニーは見事な封印じゃて。ヤーニーも素晴らしい魔力じゃ。
ワシも靄のままで、ウェルの血がなければ少々手こずったやもしれんのぉ」とウーちゃん。
助けてくれたようだ。
ヤーニーは泣き出した。サテラ様は抱っこして、話しかけている。
「ヤーニー、みんなに迷惑をかける魔術を使ったから、魔術はちょっとお休みなの。
もっとお勉強して、もっと大きくなったらその時、みんなに喜んでもらえる魔術を使いましょう。
だから今は魔術にさよならね。
どうしてもさよならしたくないっていうなら、魔術で迷惑をかけるかもしれないから、ウェルとさよならね。
どっちがいい?」
やさしい声で脅迫してました。
「うぇうとさよならいやだ~~~~~~!!!」と号泣。
「じゃあ、魔術としばらくさよならしましょうね」とサテラ様。
うんうんと素早くうなずくヤーニー。
一件落着のようです。
「ウーちゃん様、ありがとうございました」とガイルがお礼を言っている。
ウーちゃん様って、ウケる。でも突っ込むと長くなりそうだから黙っておこう。
「魔法の話してもいい?」と俺が聞く。
「もちろんよ」と母様。
「それじゃ。ツリーハウスでね。俺、氷結らしきものが使えたんだ。見てくれる?」
皆はとても驚いているが、研究室の二人は魂が抜けそうだ。
ワーニーに水のボールを浮かせてもらう。そして、
「固まれ!」成功だ!
「どう?これが氷結であってる?」と聞くと、アンジェラさんが、
「どうして出来るんですか?」と迫って来た。
「固まれって思っただけだよ。みんなもやってみて」
それから、魔力なしは全員成功。魔力ありも封印して使ってみると成功。
「すごい!すごいです。ウェル様」とオルトニー。
「氷結とか、凍れ、といわれてもイメージが湧きませんが、固まれでしたらとても具体的です。それが成功の鍵でしょうか?」とアンジェラ。
「そうかもしれない。実際に、物を浮かせるのに、ヤーニーは『引っ張られるのをナイナイ』したら浮くって言うんだけど、俺には引っ張られる感じが分からないからか浮かせられないんだ」
「この間俺、魔術や魔法の、等級だとか区分、分類のことを偉そうに語っちゃったけど、実際はイメージできるかどうかなのかもしれないって思い始めてる。
基本から上級にステップアップするのだって、何度も訓練してイメージが固まるから上級が使えるようになるのかもしれない。
極論、質だって、自分の質のものがイメージし易いってだけなのだとしたら、魔術はずいぶん様変わりするよ。
そして、魔法は大気中の魔力を使うから質が関係なくて、イメージ重視なんじゃないかな。
今、実験に参加してくれているのは皆大人だから、自分の魔術なり、他人の魔術なりを何度も見てイメージ出来てる。だから比較的すぐに使えるんじゃないかな?」
一気に語ってしまった。ウーちゃんに、的はずれだぞって笑われたりしないかチラッと見てみた。
「人族は体内の魔力しか使えなんだかのぉ。ワシは魔力をどこぞなりと使いやすいところから適当に使っておるで、中が魔術で、外が魔法だのと気にしたことはないのぉ。
ワーニーやヤーニーも体内でも体外でも使えるところから使っておるでないか?」
「いや、俺は魔法は使えんが?」とワーニー。
「確か、体内の魔力が勝手に使われて魔術になっちゃうって言ってたね」と俺。
「そうかのぉ。無意識なら出来て、意識すると出来ぬとは面白いものじゃのぉ。くっくっくっ」とウーちゃんは笑っている。
「神様の血筋かぁ、格好いいな」羨ましい。
「異世界の何らかの影響で、人族も大気中の魔力が使えるようになるとは、実に面白いのぅ。天界に帰って異世界合コンするときにいい話のネタになるじゃろうて、励むがよかろう」
神様、とんでもない角度からの応援ですね。遠い目。
「まぁ。色々あるとは思うけど、俺は実験には参加しないことにした」と言うと
「なぜですか?」アンジェラが目を見開いた。
「俺は、魔法に関しては威力が大きくて規格外だからね。一般利用に向けての実験には不向きだ。
それに、これから区分種類の研究をするのかとか、イメージの鮮明化を図るのかとかいう舵取りや検証はプロフェッショナルな人たちがやるべきだと思う。
勿論協力して欲しいってことがあればいつでも来るから。呼び出してね」
よし、言うべきことは全て言えたかな?
俺はこれからはヤーニーと二人で2歳児らしく、楽しいこと、やりたいことだけやるんだ!
小難しいことは今日でおしまい!
あ、ヤーニーに魔法は使わせていいのかな?俺の髪あげてもいい?