13.俺、鋼のメンタルが欲しい
俺は、初めて踏み入れる我が家の地下にワクワクしている。地下ってちょっとテンション上がらないか?しかも石造りの重厚な感じで、迷宮への入り口って雰囲気のある階段が出迎えてくれる。いいねぇ。
まあ、実際はただの、地下のワインセラーへ続く階段だが。
そしてその階段を降りきる手前に、いくつかの扉が並んでいる。食料の保管庫として使っているらしい。ガイルがその中の一つを開けた。
ガイルとワーニーだけが開けられるように設定されていたが、これからは秘密保持契約をした人は使えるようになるらしい。俺も使えるぞ!だが、1メートルほど向こうには、全く先の見えない漆黒の闇が広がっている。怖っ!
この中にこの光源の小さなロウソクランタンだけを持って入るのは無理だ。人が乗って操作する系のロボットに、竹槍持って単身突っ込むくらいの無謀さがある。
「今日は、ワーニーが先導して研究室の人間を連れてくるはずだから危険はないと思ったが、遅いな」とガイル。
「地下って危険なの?」と聞くと。説明してくれる。
「この扉は地下の鍾乳洞に繋がっているんだよ。結界は張ってあるらしいから安全だとは思うけど、自然のものだからな」
「こちらからも進んでみますか?」とジョージ。えぇ?平気なの?この暗闇。
俺、今世は暗所恐怖症なのか?いつも夜は暗いし、ロウソクとオイルランプの明かりで暮らし始めてもう2年。
さすがに慣れたが、この空間は恐怖を感じる。先には進みたくないなぁ。と考えていると。
突然明るくなった。地面の一部が発光して光の道を作っている。綺麗だ。
「すごい!ワーニーの魔術かな?光の魔術とかってあるの?」
「いや、初めて見た」とガイル。呆然としている。
しばらく待つとワーニー一行がやってきた。
「ウェル、どうだ?昔、お前は『この世界は暗過ぎる』と文句ばかりだったろう。そこで明かりの魔術を開発していたのだ。今日がお披露目だ。驚いただろう!」
「すごいな!確かにめっちゃ明るいよ。どういう仕組みなの?」俺にも使えるだろうか?と聞いてみたが
「これからこいつらが研究する」と後ろの男女二人を顎で指した。
成程、今のところ天才しか使えない訳ね。
「初めましてウェルリーダルです。よろしくお願いします」ペコリと頭を下げる。女性のほうが『キャーカワイイー』と心の中で叫んだのが聞こえた気がした。それくらい目がハートのリアクションだった。
「こちらこそよろしくお願いいたします。アンジェラです。全種の魔術が使えますが、残念ながら魔力量は平凡です」
全種って女版ワーニーだ!
「よろしくお願いいたします。私はオルトニーと申します。魔術開発局研究室勤務です。水と風の魔術が使えます。神官の修練も致しましたので『色』を見ることができます」
魔力可視化の大魔術ですね。期待してます。
その後は皆で離れの魔法研究所に行き、早速、俺の髪の毛とかその他もろもろを採取された。血だって我慢した。前回やってるしね。
でも、でも、排せつ物は嫌。とてつもなく嫌。でも俺の排せつ物にも価値があるってことになったらそれも厳重に管理するしかなくなる。だからその調査の為には仕方ない。前世では検便だって検尿だってやってきたんだ、直接、生な感じのやつを手渡しするかどうかだけの違いだ!やってやろーじゃねーか!!!
メンタルをガリガリ削られたのでお昼寝します。zzz
数週間後、ワーニーが、サテラ様とヤーニーにも事情を話したいと言ってきた。
どやらサテラ様が、ワーニーのあまりに不審な行動に説明を求めているらしい。そして俺の周りで何やら起こっているのを察知もしているらしい。
俺、最近全然ヤーニーと遊んでないし、ガイルも仕事を速攻で終わらせて帰ってくる。母様も社交そっちのけで研究所に詰めている。これだけ揃えば不審だろうさ。
でも俺たち貴重な魔力なしだからね。実験に欠かせないんだ。
ちなみに、魔力ありの魔力を封印すると皆、『魔法』が使えるようになった。こちらもやっぱり俺の髪は必要だ。
ただその威力は小さい。今までの実験では、封印された魔力なしも生粋の魔力なしも条件は同じようだ。
そして髪の量だが、沢山持っていても威力が上がることはなかった。
とりあえずそれが証明されたので、そろそろガイルと母様は元の生活に戻れそうだ。
魔力ありの使用人たちは楽しんで協力してくれている。というのも、火と水の基礎魔法以外は基本、自分と質の合わない魔術は行使することが出来ない。
だが、魔法だと小さいとはいえ、今まで使えなかった全属性が使えるんだ。
皆やってみたかった自分の質とは違う魔法ではしゃいでいる。
浄化や治癒なんかは大人気だ。目をキラキラさせているからか、はしゃぐ大人も可愛く見える。
トムじいは土魔法に感動している。穴を掘っては眺め、掘っては眺めして喜んでいる。庭師には嬉しい魔法だろう。
オルトニーさんに魔力を自由に封印、解放する補助魔術が作れないのかなんて聞いている。
ワーニーやアンジェラさんがいなくても魔術を封印して、魔法が使えるようにしたいみたい。出来たらすごいね!
閑話休題
サテラ様とヤーニーにも秘密保持の魔術で契約して全て話すと決まった。
ヤーニーには要らないだろうと言ったが、これからだんだん話せるようになるから不用意に漏らさないように契約したほうがいいだろうと反論される。
話すと激痛が走るんだよ?ヤーニーに!
「火は熱いとか、ナイフは切れるとか、すべて身をもって体験するものだ」とワーニー。
いやいや2歳児に何求めてんの?前世持ちの俺とは違うんだよ。会話の中のどれが地雷かなんて分かんないでしょ。普通。
それに、『ウェルのこと話したら激痛が走る』なんて学習されたら、俺嫌われちゃうんじゃない?
必死の説得が通じたのか、ヤーニーには『秘密の事柄については俺の家とツリーハウスでしか話せない』というロックをかけた。これで安心。
数日後、サテラ様とヤーニーから、地下通路で我が家に行ってみたいと連絡があった。久しぶりにヤーニーに会える。
ウキウキしながら地下の扉までお出迎え。
地下は明るいままだ。ワーニーの魔術はホント、どうなってるんだろう、凄いな?
「うぇう~~~~~~~~!」
ヤーニーが俺の姿を見つけると途端に走り出した。あ、これ、こけるやつ。気持ちだけが先に来て、足がもつれてる。
「あぶないよ。こけちゃうから!」っといって俺も走り出す。
ヤーニーとひしと抱き合う。生き別れの兄弟の再会っぽい。
ヤーニーは涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。それでも可愛く見える不思議。
「うぇう、きゅう、いなくなっちゃだめ!」うわぁぁぁぁん。さらに号泣。
「ごめんね。ヤーニー。最後に会った時は、急に連れて帰られてたもんね」
大丈夫、大丈夫と背中をポンポン。
「いなくならないから、大丈夫だよ」
上を見上げると満点の星空、な訳なくって、光源によって陰影がくっきりとした不気味な天井が広がっていた。




