122.俺、母神様に似てるらしい
合奏コンクールの演奏曲を選ぶのに四苦八苦している俺達4年2組だが、他のクラスはどんどんと決まっていっている。職員室の前のボードに書き出されていくので分かるのだが、早い者勝ちで、曲がかぶったら別の曲を選びなおさなければならない。
「なんか、どのクラスも気合入っているよね。去年の賞品が騎士団紅白戦のスターチケットだったから、今年もそうかもしれないってさ」
「そりゃ、激熱な戦いになるよなぁ」と、学校中で囁かれている。
讃美歌とか、神への祈りの曲とか、清廉な曲を練習している生徒達だが、裏では血みどろのチケット争奪戦の様相を呈しているようだ。世知辛いな。
まあ、神様っていっても、ウーちゃんだから怒ってくるような事はないけどね。
という訳だ。そんな熾烈なコンクールで、俺の下手糞な楽器演奏が歓迎される訳もない。
『春を呼ぶ踊り』という曲に決まったのだが、俺が一番まともに出来る、歌唱パートにエントリーされてしまった。今年も歌の練習か。
救いは一人ではないってこと。今年は男女3人ずつの歌い手がいる。
救いでなかったことは、俺はその男女各3人に入ってないってこと。
なんと、俺は春の女神のパートだ。なんで!?
この世界は創造神トゥーラス(ウーちゃん)、この一柱だけが実在する神様だが、人間が想像した神様っていうのも存在する。その一つが春の女神だ。中性的で神秘的な女神ということで、最近富にグラマラスに成長しているクラスメイトよりも、俺がロングウェーブの鬘をかぶったほうがピッタリだと推薦されてしまった訳だ。
鬘だって?オペラなの?合奏コンクールだよね。
とはいえ、学校中がスターチケットを狙ってギラギラしているので、余程の事をしないと優勝、準優勝は狙えないと皆焦っているようだ。口出し無用な空気がある。
取り敢えずで誰かが家から入手して来た金髪ロングウェーブの鬘をかぶせられ鏡をみると、エマにそっくりな自分がいた。クラスメイトも気づいたようで、
「やっぱり親戚って似てるものなのねぇ」と言っている。
そういう設定なだけで、血の繋がりはないんだけどね。でもまあ、俺とビル兄様は兄弟みたいにそっくりだし、その妹のエマと俺が似ているのも当然か。
はぁ。この際、鬘は我慢しようかな。というのも、女神パートは出番が少ないんだ。
村人役の男女が女神に祈って、歌い踊る。そして最後の最後に『それでは春をもたらしましょう』的な、勿体付けた出番があるだけなんだ。楽勝かも。
学校とスターに掛け合って、対抗戦の時に作ったクラスごとの練習場所を再び開放してもらった。これで俺の女神仮装サプライズ作戦も人目を気にせず、練習できるぞ。
どんどん女生徒の悪ノリによって、本格的になっていく俺の女装を見て、ウーちゃんは、
「エマよりも、自分達の母神様にそっくりじゃのぅ」と、転げまわって笑っているが、
「ウーちゃん。エマにも内緒だよ。一発勝負のサプライズ演出だからね!」と注意しておいた。エマのクラスは強敵なんだ。ネタバレは良くない。
我がクラスのあまりの秘密主義に、なにかトンでもないことをやるらしいと、周囲のハードルが上がっていく。やめて~。勘弁してほし~い。
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悩みに悩んだ出品作品は、今年も斬新だ。
キャンパスに合わせた大きさの、色や模様がバラバラの紙を5枚ほどピッタリと重ねて貼る。俺は色味の暗い順に、ヤーニーは全く同じ紙を、色味の明るい順に貼る。
そして、完全に糊が乾いてしまう前に適当にビリビリに剥がしたり破ったりする。
すると、下に張った紙が見える場所、見えない場所で模様になる。破いた紙の切り口もまた何となくアートっぽい。
同じ紙を使っているので、ヤーニーと統一感はあるが、グラデーションが反対になるし、破り方もランダムなので個性もででいる。
うん。なかなかの出来だ。等高線の地図みたいで格好いい。所要時間五分とは思えない。
デイブが四苦八苦して静物画を描いているのを知っているので、申し訳なささえ感じる。
教室での模擬店は、建国祭でベビーカステラの出店をやったので違う方向のほうがいいのかな?なんて考えていたが、クラスメイトはまた甘いのがいいと、色々アイデアを出し合っていた。
甘いヤツか~。なんだろう?パフェ、パンケーキ、ドーナツ、アイス、和菓子、俺達にも作れるスイーツってどれだ?寒い時期だし、お汁粉ってのもいいけど、色味的に、初見では食べてもらえない気がするなぁ。
うんうんうなっている俺をみて、クラスメイトは期待の目を向けてくる。
やめて、期待しないで。俺はしょっぱいもののほうが好きなんだよ。焼きそばとか焼き鳥とかホットドッグの店の方が推せる。唐揚げとかも大好物。
あ、でも、揚げ物は危険だから学校の出店には向かないかなぁ。
しょっぱいものも熱くプレゼンしてみたが、甘い物がいい!って却下された。
やれるだけの事はやった。後は諦めが肝心だ。
俺は簡単で、楽しそうで、イートインもテイクアウトにも対応できる、ワッフルを提案した。このクラスは、焼くのはベビーカステラで経験したので、お手の物だし、いいんじゃないかな。
教室の店舗には、トッピングとして、チョコや生クリームやバターなんておいておいたら満族度アップ間違いなしだ。
テイクアウトは、出店のお土産作戦が上手く行ったので、それに倣って、5個入りくらいでどうだろう。
室内が満席になったときには、食べ歩きも出来る一枚売りも出来るし、なにげに万能スイーツだ。
即決で俺の案に乗っかったクラスメイトは、当然、試食会をご希望だ。
またまた、シェフにレシピを頼みに行かなきゃだ。ベビーカステラのレシピを教会に売ってかなり懐の温かいシェフは、きっと今回も協力してくれるだろう。




