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12.俺、使用人にカミングアウトする

 大人たちは深夜まで話し合ったようだ。喫緊の課題が山積みで、本来なら俺も参加するべきなんだろうが、すぐにお腹がすくし、お腹いっぱいになったら眠くなるし。2歳児やるのも大変なんだ。


 朝食の後で母様から説明を受ける。昨晩決まったことは


 ・我が家の使用人には全て話す。ただし秘密保持の魔術をかける。それに同意できない者は別荘にでも配置換え。実験にも強力してくれる者にはボーナスを支給。


 ・離れを魔法研究所として提供。魔術研究室のワーニーの弟子たちも出入りする。秘密保持は使用人と同様に。


 ・ウェルの髪などの魔法アイテムは勝手に敷地外に持ち出し禁止。それ用に結界を設定する。


 ・髪を入れるペンダントかブローチを自分たち用に製作。ただ、金属に混ぜこむなどの応用も期待されるので量産はしない。


 と、こんな感じ。

「どう?ウェル?他にも何かあるかしら?」

「う~ん、魔術研究室の人が出入りして目立たないの?ワーニーが瞬間移動で連れてくるのかなぁ?」

「そうねぇ、目立つのは良くないわねぇ。陛下にお願いしましょう。他にはない?」

「髪の毛ってさ、普通に生活してても毎日結構抜けるよね。それがたまたま母様のドレスに付いたとしたら?母様が門の所で結界にぶつかってたらビックリしちゃうんだけど」と言ったら、想像したのか、渋い顔をして、

「・・・それは困るわね。これも陛下と相談ね」と言った。

「リタ達にはいつ言うの?」

「今日の午後には皆に集まって貰うわ」

「午後!はやっ!」

「だって、せっかく魔法が使えるのよ。ロウソクの火を自分で付けたいわ。お水だって人に頼まなくてよくなるのよ!」

「そうだね。そう言われると、バレちゃうからって使えないの嫌だね!」


 午後、使用人の皆はホールに集められていた。俺たちの後からワーニーが入ってくると一瞬どよめいた。

だよね。陛下が余所の家の使用人集めて何をやるんだってなるよね。

 そして秘密保持の説明。

我が家の使用人は全員秘密保持の魔術をかけられることに、即座に同意した。皆の忠誠心がすごい。

 というのも、ガイルはずっと覇王の参謀役。

ワーニーは人外の強さだから、魔力なしのガイルは絶好の標的になる。となれば周りを優秀で信頼のおける少数精鋭で固めるしかないという訳だ。

俺は今まで知らなかったんだが、普通の屋敷には必ずいる下働きが、我が家にはいないんだって。下級使用人と上級使用人だけ。

ということは優秀な人材が下働きの範囲まで仕事をしてくれていることに。これって本当にすごいことなんだって。

*******


 今後の細かい実務的注意事項をガイルから、実験の方法からデータをとるためのアンケートの書き方などをワーニーから、こちらは嬉々として長々と説明をしている。

 不安が無いと言えば嘘になるが、皆が味方だと思うと心強い。なにより色々隠さずに済むのは本当に楽ちんだ。


 その後も、働くシフトの調整などの作業がたくさんあるということで俺たちは使用人を残して居間へ向かった。


「秘密保持の魔術っていつやるの?」とワーニーに聞くと、

「もう済ませた」と返された。はやっ!天才様ですもんね!見たかったのにとクレームを言うと、手をガイルに向けて、

「これで完了だ!」と言う。一瞬なんだね。

あ、ガイルにもかけたの?そこは信じようよ。

「私にもやってください」と母様。いいの?なんだか怖くない?

「これで万一のことがあっても疑われないでしょう?」とニッコリ。そうだね。それなら俺もやってもらおうっと。

「ワーニー俺もやって!!」手のひらを向けられるが、何が変わったのかまるでわかんない。

「これで秘密を話そうとしたらどうなるの?」

「激痛でのたうち回ることになるだろう」激痛か。皆、話さないでね。

「もし、書き残そうとしたら?」

「同じだ」

「口パクや、ジェスチャーは?」

「同じだ、情報を他者にもたらす行為が引っかかるようにしてある」

天才ってまじで半端ないんだな。

「でもさぁ、日記に書いたらどうなの?自分への覚書じゃない?それを予期せず誰かに見られるってパターンでも漏れるんじゃ?」

「ふむ、そうだな追加で入れておこう」と言って手を空に向けた。アップデートが完了したようだ。

 ワーニーが人外って言われるの、わかる気がする。


 ジョージが居間にやってきた。

 俺の前に膝をつくと、

「ガイル様から、ウェルリーダル様には今までと変わることなく接するようにとお話がございました。ですので、今、一度だけ。使用人一同を代表しまして、まかり越しました」

そして頭を下げる。

「この国の建国に御助力くださったことに、最大限の感謝を。そしてこれから、魔力なしの研究に尽力なさる貴方様の一助となれることに喜びと感謝を」


 俺はどうすればいいのか固まった、こんな時は、きっと返答するのに何か定型文があるはず。でも分かんない。

 周りに助けを求める視線をおくるも、うんうんと、頷くばかり。もう!


「ジョージ、僕は本当に大したことはしてないよ。今も昔もね。でも皆が喜んでくれているなら嬉しいよ。これからもよろしくね!」

 ジョージが頭をあげてくれた。少し潤んだ目をしていたが、なんとか耐えて退室していった。


「ジョージは年の離れた魔力なしのお姉さんがいてね。子が三人みな魔力なしだと婚家でずいぶん辛い思いをして、挙句実家に帰されたようなの。どうしようもないことなのに酷いわよね。それもあって、我が家のような魔力なしの家を支える仕事につこうと思ったのですって」


「それなら、今回のことは朗報と言えるのであろうな」とワーニー。その後に苦い顔をしてガイルが続ける。


「そうですね。魔法は多くの魔力なしの希望と言えるでしょう。だがそれ故にウェルは危険にさらされるかも知れない。魔力なしには欲望をもって。魔力ありには自分たちの優位を脅かす存在として」


 え?なんか四面楚歌。全方位敵だらけじゃない?

「脅かすなよ。しっかり話し合いとか、根回しして、平和的に進めていこうな!」と俺。


「いずれにせよ、魔法研究がひと段落しないと動きようがない。明日には魔術研究室から精鋭を連れてくるからウェルは全面的に協力してくれ」


「陛下、ウェルが指摘してくれたのですが、研究室の方々が我が家に出入りするのは目立ちませんでしょうか?それにウェルの髪の毛が偶然衣服についていただけの人間も結界に阻まれるのもどうなのかと」

「ふむ、そうだな。ウェルはさっきから中々良い事を言うな。ガイルと一緒に宰相府で働くか?」

「大きくなったら考えるよ」

「2歳の宰相補佐官とか面白そうだがな」とワーニーが笑っている。

「それか、ヤーニーの側近で王宮にあがるか?」おぉ。それは、魅力的かもしれない。

「それはいいかも。でも、それでも今は早すぎるよ。それよりちゃんと考えて」


「人の出入りは問題ない。シーナにも内緒にしていたが、王宮とこの屋敷は地下通路で繋がっている。非常事態にしか使わない予定だったが、秘密保持を全員にかけたのだから問題ないだろう」なんと~。地下通路。冒険の予感だ!


「抜け毛の件は、確かに問題だな。ウェルのオーラに反応する結界はあきらめよう。よく考えれば、ウェルが外出できないしな」

ひどい、指摘しなかったら見切り発車されるところだったよ。それに抜け毛って言い方!あってるけどなんかヤダ!

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