118.俺、体中、甘い匂いです
結界で作ったのは、取り敢えず型は単純な球形だ。ホットサンドメーカーとたこ焼き器のミックスみたいな形になった。
昼休み、食堂に行くクラスメイトに、腹八分で帰ってきてねと念を押して、生地を貰いに家へ帰る。シェフのランチをつまみ食いして、お礼を言って、学校に戻ると早速焼き始める。
結界の型を下から火の魔法で炙る。
ヤーニーは違うクラスだから、今日の昼は別行動だと言っても聞かなかったので、絶対に秘密だよと、約束させて、同席した。クラスメイトも諦め顔だ。
そして、焼きあがる頃には、良い匂いが学校中にただよって、俺らのクラスの商品はあっという間に拡散された。
「秘密じゃなくなったね」とヤーニーに言われる。そうだね。温かい甘い匂いって、吸引力のある匂いだもんね。
「焼きたて美味し~!」匂いだけじゃなく味も最高だった。シェフ作だから当たり前だが。
それからは、休み時間の度に、粘土で、あーでもない、こーでもないと、型の原型を試行錯誤した。
可愛いは譲らない女子に押されて、男子がイチオシした剣の原型は却下された。
だが女子も、リボンや宝石の原型などを作っているが、俺としてはピンとこない。
人形焼きのイメージがあるからかな、俺のイメージはウーちゃんだった。
教会の横で販売するのにもピッタリじゃないか?
ま、神様の存在を知っている人は少ないけどね。気分的なものだ。
ウーちゃんだけじゃなく、神様3兄妹のベビーカステラも楽しいな。
3体作って並べると、不格好だがとっても可愛い。それを見た手先の器用な子が、ちょこちょこっと修正をしてくれた。うん、文句なく可愛い。
「いいですよ!これは!ウェル様、ワーニー様に許可が取れたらこれで行きませんか?」
ワーニー??あ、そうか、ウーちゃん達ってワーニーが魔法を込めたら動き出したぬいぐるみって設定だった。
「採用されたら、許可を貰いに行くのは構わないけど、他の案はどうするの?」と聞いた。
「他の可愛さとは比べるべくもないです。こんな可愛いお菓子があったら食べるのがもったいないって思っちゃう可愛さです!」
おお、出た、食べられないってヤツ。俺には分からないが、女子はよく使う表現だ。
満場一致で、ウーちゃん、エーちゃん、ビーちゃんの3パターンの型を作ることになった。許可取り、型の製作は俺の仕事だ。その代わり、生地作りの特訓は女子、当日焼く係は男子がメインということでまとまった。看板づくりや、容器のデザインも必要だ。やることがどんどん増えていく。
まあ、でも、決まってしまえば後は進むだけ。簡単だ。
そして、我がクラスは、先生方に、
「このクラスにくると良い匂いが残っていて、お腹がすくよ」と言われるようになった。
ウーちゃんは神ポケに、試作品を貰っては溜めている。どうやら、自分の型のお菓子だと自慢して、合コンで振る舞うつもりらしい。
神様、試作品をせびらず、本番、出店でお買い上げいただいていいですか?情けない。
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当日は、なんと、商工会本部の側だということが、幸いした。
前年までなら、裏方が集う場所というイメージで敬遠されていた教会周辺だが、今回からは、マップが配られるということで教会敷地内に設置された商工会本部の前に人が押し寄せてきたのだ。
マップを手に入れてから、吟味して店を回ろうとする客が、朝一番からこんなに多いなんて、すごくラッキーだ。
俺達は看板の設営もそこそこに、甘い匂い作戦だと、とにかく大量に焼き始めた。
商品は、出店を多く回って色々な味を楽しみたいという人の為に、3種類が一つずつ入った3個入りパックという少量のものをメイン商品にしている。
お持ち帰りのバラエティーパック15個入りは家族のお土産用に腕に掛けられる袋で提供するスタイルだ。冷めても美味しい!とデカデカと看板に書いたので是非とも購入して欲しい。
幸先のいいスタートを切った俺達4年2組は、とにかく焼きまくった。体中が甘い匂いになったきがする。
一度3個入りを買ってくれた客が、お土産用のものを帰りがけに買ってくれるのが後押しして、売り上げはバッチリだった。
ハルトマン神官長は、俺が売っていると知って、わざわざ買いに来てくれた。ベビーカステラのフォルムを見た瞬間、
「なんと、ありがたい、食べてしまうには恐れ多い・・」と呟くので、
「美味しく食べて、冷めても美味しいけど、焼き立ても格別だよ」と、とっとと食べることを進めておいた。
その後は、教会のバザーで名物として売りたいとオファーがくるという、もはやお馴染みの流れで幕を閉じた。
そんなこんなで、俺達は順調に売り上げて、今年も売り上げ一位を獲得だ。
マスール先生が、喜びのあまり暴走して職員室で嫌われなきゃいいけど。
メッティ先生、逃げて~!




