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元転移者の俺が今度は転生してきました 改めましてよろしく  作者: グーグー


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114/123

114.俺、遅ればせながらお手伝いです

 9月のシャルの5歳のお披露目会に向けて、我が家はピリピリしている。一番はシェフ。目が血走っている。話を聞くと、

「ウェル様、ウェル様の時と一緒にしちゃあダメなんですよ。女の子のお披露目会ってのは、いかに可愛らしく、新しく、美味しく、食べやすくってのを競う場なんですよ。それがシャルロッテ様の評価にも繋がる大事な所なんです。

 俺の胃が、溶けようが燃えようが、やり切るしかないんです。女のお子様が生まれた時から分かっていたこととはいえ、震える思いですよ」と力説され、悲痛ともいえる真情も吐露された。


 いつもなら励ましてくれるだろうリタも、シャルのナニーで、家庭教師陣のの一人でもあり、さらに、ちょっとした護衛任務までこなしている立場だ。

 こちらも、全方面追い込み作業中で、恐らく修羅場であろう。


「男の俺の時と、そんなに違うものなんだ。俺の時は好物が沢山あって、夢のようなビュッフェだと思った記憶があるよ。あれじゃダメってこと?」

「それはですね、ウェル様の好物を並べると、ウェル様が喜ぶ、そして高位貴族のご子息である、ウェル様の好物、好みの味を知ることが出来て、客が喜ぶって寸法だったんです」

「ウィン・ウィン的なやつだな」


「そうです。ですが、女の子はそうはいきません。

 可愛いが一番。ここはシャルロッテ様やエマ様が最終ジャッジをしてくださる予定ですから、俺は何種類も作って作って作りまくるだけです。


 新しいが二番。どこかで見たようなありきたりの物ばかりではダメなんです。情報を発信する女主人の卵としての才覚のようなものが問われるそうです。


 美味しいが三番。三番と言いながら、決しておろそかにしてはいけない所です。どんなに奇天烈な見た目をオーダーされても、味は大切です。


 そして最後が食べやすさ。「美味しいけど、食べにくいわね」と言われたらアウトです。

 はぁ。胃が痛いです。と、まあ、以上を踏まえて、ウェル様、何かアイデアをください!一つだけでもいいんです!」


「俺?」

「そうです、琥珀糖みたいな斬新で目を引く何かをお願いします!」

「何度も言うけど、料理はさっぱりだから、見た目と味しか伝えられないよ」

「料理技術のアドバイスは全く、期待してないですから大丈夫です。唐揚げなんかは、味と見た目の情報だけでなんとかしてみせたでしょう。あれと一緒ですよ」


 確かに、料理人って凄いんだよなぁ。俺のフンワリしすぎているイメージが形になるんだもんなぁ。

 シャルにピッタリの可愛い食べ物かぁ。う~ん。元うどん屋の俺にはさっぱりだ。可愛いと思ったものと言えば、イベントの時の、蒲鉾くらい。それ用のデザインのものに変えていたことかな。

 ハロウィンの時はカボチャのお化け、クリスマスはツリー、お正月は日の出に鶴のデザインだった。


「そうだなぁ。イベントと思えば、テーマを決めて、料理も込みで会場中をその雰囲気にしてしまえばいいのかもしれないな。例えば、シャルの好きな本の世界を再現するんだ。料理は今決めているものをそれに寄せていくだけでもいいし、メニューを変更してもいいし。どう?」

「取り敢えず、シャルロッテ様に相談してみましょう」


「まあ、兄様、すっごく素敵ですわ!私、大好きな本がありますの!お披露目会の為に仕立てたドレスもその主人公をイメージしていますのよ!」と大興奮だ。お披露目会を前に、マナーも厳しくされているようで、口調が大人びていて、新鮮だ。


 俺達は、家政婦長のマーガレット、庭師のトムじいなど、会場設営にかかせないメンバーを招集して、早速、全体像を話し合っていった。そもそも、シャルのドレスに合わせて、会場を作りこむ予定だったので、ほとんど予定を変えることなく、小物を追加する程度で思った世界観は表現できそうだ。


 何より驚いたのは、女性陣の食いつき具合だ。特に母様と専属執事のカルマは凄かった。目がキラキラを超えて、ギラギラしていて、あのシーンの再現にはあれが必要よ!とか言って大興奮している。俺も読んだことはある本だが、ファンとそれ以外の人間ではここまで熱量が違うものかと、若干引いた。


 俺は一生懸命思い出す。確か、小瓶に入った飴が、キラキラ光る場面が印象的だったはず。

「小瓶に飴を詰めて、お土産に渡したらどう?喜ばれそうじゃない?」と軽く言ったら、

「お土産?」とシャルに聞かれる。

「そう、来てくれてありがとうの感謝を込めたお土産だよ。物語のキーになる小瓶に似せた物を選んで、飴を入れたら、家に帰ってからも思い出して楽しんでもらえるよ」

 いきなり、ムギュ~と頭を抱えられた。母様だ。

「ウェル!あなた天才ね!なんて素敵なのかしら!小瓶に巻くリボン、今から発注しても間に合うかしら!?」


 数十分で、目まぐるしく状況が変わっていって、シェフに怒られちゃうかと思ったら、隅で、本を読んでいた。

「ウェル様、これはいいです。父を亡くした女の子ミミーが、最後に貰った飴の小瓶を大事にしていて泣けてきます。

 最後に、内乱を終結させた隣国の王様が、安全な国に腹心を父代わりにして逃がしたはずの娘が、こんなに苦労していたとはって、迎えにきてくれるのも良かったです。

 いじめられたり、優しくされたり、波乱万丈の人生ですが、明るく逞しく生きていて健気です。下働きで料理の助手をしていたりして、俺は、この子のファンになりました!」・・暑苦しいファンを増やしてしまったようだ。


「わざと野菜を不揃いに切って、お皿にタイトルをつけるのも楽しいかもね。《ミミー初めてのお料理、ちょっと失敗したけど、厨房の皆は食べてくれました》とか?流石に長いか。本を読みなおして、色々アイデアを拾っていこう」


 意外と俺も楽しくって、皆と一緒にワイワイやっていたら、あっという間に夜だった。

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