11.俺、長い一日を過ごしています
俺の頭髪の危機の大問題、、じゃない、大気中の魔力利用に関する俺の役割という問題、、、ふぁ~ぁ~。
眠い、俺の体はお昼寝を要求している。2歳児だから当然だ。
難しいことは今日はもう無理かも~フラフラ~とガイルに近づき手をのばす、自然に抱っこしてもらえる。この腕の中は俺の絶対安心領域だ。居心地がいいように少しもぞもぞして、おやすみなさい。zzz
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「寝てしまいましたね」
「そうだな、今日は初めて魔力を使ったり、お前にカミングアウトしたりと心身ともに疲れただろう」
「こうして寝顔を見ていると普通に、と言ったら変かもしれませんが、普通に我が子なんです・・・」
「そのうち慣れる。俺なんかこの間、ウサギの件で無茶苦茶怒られたぞ。このあどけない見た目で、年下にするように説教するんだ。笑いをこらえるのが大変だった」
「それは愛らしいかもしれませんね。私は怒られるようなことはしないと思いますが」
「ハハッ、分からないぞ。こいつの地雷は不思議なところに埋まってるからな。ウサギとか」
「そこはウサギじゃなくて、ヤーニー様でしょう」といって笑う。
腕の中でスヤスヤ眠る可愛い息子、幸せになってもらいたい。しかもこの国の、死なせてしまったと嘆いていた建国の恩人だ。なりふり構わず出来ることをしよう。
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目が覚めたら自分のベッドの中だった。思わず頭に手をやって頭髪を確認した。ワーニーだったら実験に使うとかいって、寝ている間に丸刈りにしかねない。そういうとこ、信頼ゼロだ。
実際後から聞くと、寝ている間に切る切らないのすったもんだがあったようだ。ガイルが断固反対してくれたんだって。ありがとう!
居間に移動していると、ジョージと会った。
「最近図書室に籠りっきりだと聞いていますよ。そのお年で本が読めるのだけでも奇跡でございます。加えて魔道コンロなるものの開発までなさるのでしょう。それなら尚更適度な休憩は必要でございます。いつでも美味しいお茶をご用意しますから、きちんとお休みくださいね」と言われる。
そうだなぁ。なんだか大ごとになりそうだし、この体では出来ることも限られる。
ワーニーが身の回りの世話をしてくれる人にも打ち明けろと言っていたが、味方を増やす意味でも何人かには知っておいてもらったほうがいいのだろう。
誰に言うのか要相談だ。
居間に入ると、ガイルとワーニーが気まずそうに座っていて、母様が仁王立ちしている。何かあったな。俺史上一番長い一日になりそうだ。
「ウェル、あなたは、ヤマト様なのですか?」と母様。
『ハッ!』と二人を見ると目を逸らされた。
どうして~~~~~~~~!!!!!母様には内緒にしたかったのに!
「二人が今ここで、ヤマト様はどうやって死んだのかとか、この国に生まれなおして来てくれたんだから幸せにしてやりたいだとか言うのを聞いてしまいました。この話を聞いて思い浮かぶのはウェルあなただけです」
言い切られるとどうしようもないが、どうしたもんか・・・土下座するか、それとも泣き落としか。このストレスフルのカミングアウト、せめて一日一回限定にして欲しい。あぁ、リアルに泣きそう。
「ごめんなさい。黙っていて。僕は前世の記憶を持ってこの世界に転生してきました。ガイルくんやワーニーとは前世の転移中に知り合いました。元の世界に戻った後に、死んじゃったみたいで、気づくと母様に抱っこされていました。信じてもらえないかも知れないけど、僕は大和だけど、ウェルなんです。この家の子でいたいんです」
とっても短くまとめて、言いたいことを一気に話した。
どうか、嫌いにならないで!俺は、ウェルは、間違いなく2歳児なんだ。あなたの息子なんだよ。
嫌われたくないよ。涙がハラハラと出てきて止まらない。
大好きなんだ!暖かい腕の中や、優しい声、お休みのキスも!
俺はこの母様にずっと愛していてもらいたいんだ!
「うぅ~~~~~ひっく」嗚咽が漏れる。
母様は俺を優しく抱っこしてくれた。
「怖がらなくても大丈夫。ずっと、ずっと、大好きよ。私のウェル」と言っておでこにキスをくれた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」もうダメだ。俺は盛大に泣いた。母様はそんな俺の背中をずっと優しくポンポンッてしてくれていた。
少したって落ち着くと改めて話し合い。
今日一日の流れをワーニーとガイルが話して聞かせて、この世界では俺の転生なんかより余程重要な『魔力なしの魔術利用の実験、研究』に話は進んだ。
「お前、もう一回泣け。涙を採取しそこねた」とワーニーが言った時はガイルがぶん殴ってくれた。
「とりあえず信じられないわ。あなた着火を見せてくださらない?」と母様。
そこでガイルは先程の俺の髪をポケットに入れたままにしていたので、そのまま着火を試みた。
【ぽわっ】付いた。
手に持ってなくてもいいようだ。そして一回限りの使い捨てでもないようだ。これは俺の頭髪への朗報だ。
そして母様がガイルから髪を受け取りやってみる。一回失敗したが、二回目で成功。
「なんてことかしら!夢にまでみた魔術を私が!姉様が簡単に出来ることが何故自分には出来ないのかと泣いて過ごしたものだったわ。それがこんなにあっさりと!」
感動している?つらい過去を思い出してる?
「『魔力なしの魔術利用の実験、研究』を本格的に進めたいが、お前らはウェルと血が繋がっている。だから出来ただけかもしれない」
「『魔力なしの魔術利用の~』って長くない?専用の名前つけようよ」と俺。
「そうだな。それはいい。お前がエネルギー源ぽいのでウェル術とか、ヤマト術でいいだろう」いや、ないわ。
「それだと、ウェルが矢面に立って危険だわ。魔術に準ずる方法ということで、魔準法というのはどうかしら?」
お?なんか馴染みのある単語に似てきたぞ。
「母様それいいね!もっと短くして魔法でいこうよ!」
「おお、それは短くていいね」とガイル。決定です。
この家は王様に忖度しない家のようです。
「じゃ、『魔法』の研究だ!他人で信用できる人、かつ魔力なしって誰?」
「「「・・・」」」あれ?もしかしていないの?
「私は政敵の中でしのぎを削って仕事をしています。周りは敵だらけと思うようにしています」とガイル。世知辛い。いつもお疲れ様です。
「俺は暇さえあれば魔術の研究室に籠るような生活だ。まわりはみんな魔力ありだ」とワーニー。王様だろ。もう少し社交をしろ!
頼みの綱の母様は
「女の社交なんて足の踏みあい引っ張り合い、褒めて浮かせて突き放すという修羅ですのよ」怖いっ!人間不信になりそう。
「この家の使用人なら、みな厳選していますから安心です。ですが、みな魔力ありです」とガイル。
良かった。俺の周りはいい人ばかりのようだ。
「仕方ない。魔力ありの力を封印して、魔法を使わせてみよう」ちょっと怖い言い方だけど、天才ワーニーだから大丈夫なんだろう。
「でも、もう明日にしようよ。俺、お腹すいた」と言うと、
テーブルに置いてあったクッキーを口に突っ込まれて放置された。大人たちはまだまだ話し合う気力と体力が残っているらしい。