102.俺、インパクトを大切にしました
まずは、スタートの合図と同時に、土魔道で中央に壁を設ける。完全に自陣のエリアを隔離するんだ。その後は侵入者分断用の通路、罠用の部屋を作る。迷わすように巧妙に、高低や方位を調整して練習したんだ。
罠は、初手にエグイ奴を配置、後半は時間に余裕があれば設置、無ければこけおどし程度でも可とした。
その後は時間の限り、強度を保つ。迎撃は誘い入れてからの後半のみ。
そして何より、旗取りをする攻めの人員は少数をバラバラと時間を置いて出撃させる。これによって、相手に守りの人員を削らせないようにする。
そう!俺の作戦はあくまで10分後に生き残った数で競う、生き残り戦なんだ。
全クラスがやったら勝負がつかないから、来年からは禁止されそうな一年限りのオモシロ作戦だ。
そんな、滅茶苦茶な作戦だということも説明して、それでも、クラスメイトは面白がって賛成してくれた。
それにしても、見た目はシュールだ。闘技場に、ただの直方体の巨大な土の箱が出現しているようにしか見えない。観客は全く楽しめないだろう。シャルごめんね。
そしてタイムアップ、俺達の勝利だ。土の箱に入った者は全員、罠によって全身結界が壊されて退場になった。
一人また一人と攻撃に行ったメンバーを減らされた1組は怖かっただろうな。
何が起きたか分からずに、どよめく会場。
頭を抱える校長先生とワーニー。そして、呼び出された俺。だよね~。
校長室にはワーニーとウーちゃん、リチャードまでいる。
「お前、何やった?」
「えっと、土魔道で、ダンジョンもどきを作っただけだよ。箱しか見えないから、ちょっと分からなかったよねぇ。ウーちゃん、次からは、箱が組みあがったら、すかさず追跡鏡を付けてくれないかなぁ。観客用に通信鏡も。ダメかなぁ。不評すぎるみたいだしさ」
「じゃろうのぉ。箱の中から生徒の絶叫が聞こえてきておったのは、教師の心臓に悪かったろうのぉ」
「ウェル様、予め分かっていたことでしょう。なぜ対処なさらなかったんですか?」とリチャード。
「いや、そこは、インパクトって大事でしょ!」
「学校行事にこれ程のインパクトは・・勘弁してください」と校長が萎れている。ごめんなさい。
次の対戦クラスの生徒も、ダンジョン慣れしていない為、罠にビビッて、もはや箱に入る前に白旗をあげる勢いだった。
先生達の協議の末、2組は不戦勝で優勝。その代わり、最後に、6年生の騎士コース選抜メンバーと対戦することになった。
ちょっとした化け物扱いをされて、シュンとなっていたクラスメイトも、このオファーに色めき立った。6年生の騎士コースとなれば相当強いらしい。
自分たちの作戦が、それと同等と認められたことに舞い上がっている。
「最終戦まで時間があるから、敵情視察だ~!」とクラス委員長がこぶしを突き上げ、6年生の試合はメモ帳片手に観戦することになった。
元気になってくれて良かった、良かった。
負けた1組の生徒も、兄弟の伝手を使ったりして、情報収集を手伝ってくれた。自分が負けた相手には、勝ち上がって欲しいというのは勝負事の常だな。
そして、試合前、ワーニーに、他にはヤバいことは何も隠していないな、と確認された。うん、多分、大丈夫だと思うよ。
スタートの合図の後、前の試合と同じように土魔道で箱が出来上がっていく。その前にと、猛攻されるのは想定済み。旗取りの人材を全て防御にまわして、箱の完成まで時間稼ぎをする。
時間稼ぎだから、ひたすら邪魔をするだけでいい。下手にガチンコでやって、こちらの人員を減らすのはもったいないからだ。
ウーちゃんの通信鏡が何カ所か設置されて、出来立てホヤホヤの箱の中が映し出される。敵陣には見せないようにね。
上から下から、横から、容赦なく襲ってくる槍や弓矢。さらに、お化け屋敷よろしく、ちょっとした水や風を、視界を悪くした状態で掛けてやると、面白いくらいパニックになる。そのまま、落とし穴で自滅。これはちょっと恥ずかしいかも。心理戦だから許してね。
通信鏡によって、えげつない戦法を目の当たりにした観客は引いている。やっぱりシャルには、お留守番を進めたほうが良かったかなぁ。俺、嫌われちゃうかも。
流石に、騎士コースの6年生だ。箱に入る前に白旗、なんてことは無い代わりに、平凡に守りにつくより、未知の物に突っ込んで行きたいと、守備そっちのけで、やってくる。脳筋か!?
「相手の旗って、結構無防備だよね。あれ取りに行っちゃっていいの?」
「でも、楽しそうに突っ込んでくるのに、旗取って終了ですって言ったら怨まれそうだよ」なんて会話が、足止め任務が終わって旗取りに回るメンバーから出ている。
「いいよ。行っちゃおう!」とゴーサインを出す。
そして、多少打ち合ったが、すんなり奪取に成功。特別編成の対抗戦は4年2組の勝利で終わった。
箱の天上が開いて、試合の終了を告げられた騎士コースのメンバーは、呆然としている。
そして、自陣の旗が取られたと知って苦笑いしていた。守備も大事だよ。
「ウェル、お前、あのパニックになるやつはどうなっているんだ?何もヤバいヤツは隠していないと言っていたはずだが?」とワーニーに聞かれた。
お化け屋敷の話をして、
「心理戦、いや頭脳戦だな」と言ってやると、苦虫を噛み潰したような顔をして、
「お前に喧嘩は売らないことにする」と言われた。王様に喧嘩売られたら普通の国民は泣いちゃうよ。俺は泣かないけど。
そして、来年からはこの方式は禁止と言われてしまった・・
リチャードは、やたらと嬉しそうで、
「この仕組みは、そのまま使えますよ。槍や弓矢は取り除いて、お化け屋敷のエッセンスだけ強めにだすんです。夏休みの温泉広場に設置したら、いい名物になりますよ!」
なるほど、アトラクションとしても優秀かもしれない。
それを聞いた校長は、それなら、このままここに、危険だけ取り除いて残しておいてくださいと頼まれた。どうやら、オープンスクールに使うつもりのようだ。
クラスメイトも、他のクラスの友達を中に案内できると喜んだ。
こうして、夏休みの期間限定の楽しいアトラクションが、高等学校とブラス温泉街に爆誕したのだった。




