100.俺、ビル兄様の才能を発見しました
俺とヤーニーはグレッグ達の部屋で討伐合宿のミーティングをした。エマは念の為エーちゃん姿で参加だ。万一、部屋を覗かれたら、女の子がいる~!ってなるからね。
今までは、親戚の女の子が遊びに来ましたで通じたけれど、今年からは同じ高等学校の生徒だから、念のために。
そして、ワーニーがやってきた。デイブが固まっている。外で会うならまだしも、自分達の部屋に王様が突然来るって衝撃的だよねぇ。ごめんね。
ワーニー曰く、王宮でも別フィールドが用意されることが話題なんだとか。俺達がどんなふうに戦うのか興味津々で、当日観戦に行きたいと問い合わせがすごいんだって。特に騎士団方面からだろうなぁ。
立派な観覧席もあるんだし、学校行事視察と銘打ったら行けるだろうとワーニーは承知の返事をしたが、俺達に言っていなかったと気付いて今ココに。
なるほど、別にいいけどね。授業だし、どの道、先生達には追跡鏡と通信鏡でばっちり見られる訳だからな。
「でもさ、1泊2日の合宿だよ。観覧する人も泊まり込むつもり?」
「そうだな。考えていなかったな」
「じゃあさ~!録画して編集して、それを流せばいいんじゃな~い。2時間くらいにするといいと思うよ~」と暢気な喋り声、この声はビル兄様だ。声に遅れて姿を現し、やっほ~!と手を振る。キラキラしい神様だ。
流石、アニメのある世界を創っている神様だけあって分かっているな。
ウーちゃんにお願いして、追跡鏡に録画機能を付けてもらう。編集はビル兄様がやってくれることになった。この世界では初の事だからね。皆驚くだろうな。と、話を進めていたが、ワーニー達は、編集がピンと来ていないみたいだ。なので、やってみよう!
「じゃあ、ワーニー、紅茶を淹れてくれる~?ちゃんとした手順でね」とビル兄様が言うので、全員で王宮のサロンに瞬間移動した。
不慣れな手つきで淹れている。茶葉の量が少ないよ、カップは温めようよ、茶葉はもっと蒸らそうよとか、色々突っ込まれながら、人数分をサーブし終わった。時間は15分くらいかな。
「追跡鏡で今の映像を、『録画』って言って、保存してあるんだ。それを要らない部分を切ったり、見どころをスローモーションにしたりして、作り直すことを『編集』っていうんだ。ちょっと待っててね」といってビル兄様が通信鏡に向かって作業を始めた。俺達はティーブレイク。味は微妙、ワーニー精進しろよ。
完成映像は、ワーニーが格好よく、華麗に紅茶をサーブしているものになっていた。紅茶のコマーシャルみたいに素敵な仕上がりだ。ビル兄様の才能はここにあったか!!注がれる紅茶の美味しそうだこと。天才だ。
ウーちゃんは、あのワタワタの手つきのワーニーが、映像を切ったり貼ったりしたらこんな風になるのか!と、大爆笑している。
詐欺だな。やりすぎると詐欺になるから、注意しよう。実際より盛って編集するのは危険だと、最初に分かって良かったよ。
「ビル兄様、僕たちの合宿は、あんまりヤル気をださずに編集してね」とヤーニーが頼んでいる。そうだね、ヒーロー戦隊物みたいにされちゃうと、たまらないからね。
エマは自分もやりたいと、早速編集を教えて貰っている。
そして、出来上がったのは、ワタワタしている所ばかりを拾い上げたもの。
「今度は途端に、爆笑映像になったね」と俺が言うと、
「悪意のある編集だぞ、エマ」とワーニーがお冠だ。
そんな、こんなで始まった、討伐合宿。
上映会は3日後だから、観覧席は先生達だけだ。
クラスメイトたちは、準備をしっかりやったようで、大荷物を抱えて集合している。あんまり重すぎたら逃げられないのでは、と思ったが、それもまた勉強なんだろう。護衛の大人が、1チームに一人ついているし、追跡鏡もあるし、遊軍として、リチャードとフランツも来てくれているから、非常事態の対応もバッチリだ。
俺達は別フィールドに行くので、開会式が終わったら移動だ。
「頑張ってね!」とお互いに声を掛け合って別れる。
スターが作った鬼畜仕様のフィールドはえげつなかった。
敵との戦闘以外では、結界浮遊も瞬間移動も禁止なので、ひたすら歩くのだが、落とし穴や、溶岩、渓谷での飛び石渡りなど、なんでもありだ。
俺は支援に徹して、皆の戦いやすいように、足場の結界を出したり、溶岩を塞き止めたりと大忙しだ。だが、映像映えはしないな。俺、編集で消されちゃうかも、なんて考えてひとりで笑ってしまった。
コイン10の魔獣だが、ヤーニーは単独で撃破できている。グレッグ、キリアル、デイブも3人がかりなら何とか倒せている。優秀だ。
エマは、それ以下の魔獣を担当してくれているが、普通に考えたら、騎士団の紅白戦でもコイン6がマックスだからね。8や9を、雑魚は任せて~といって倒していくエマを見て、今頃通信鏡の前の先生たちは、背筋を凍らせているだろう。事情を知っている校長先生、教頭先生のフォローを期待したいところだ。
夜は、のんびり、結界の中で夕飯を食べて寝る。
俺とヤーニーの張った二重の結界は、壊れないだろうからと熟睡予定だったが、いかつい顔の魔獣が寝ようとすると、ガキン、ドスンと攻撃をしてくる。皆は寝つきがいいようで、さっさと寝てしまった。鬱陶しくなった俺は、あたり一帯に殲滅級の火球をぶち込んでおいた。これでしばらくは近づいて来れないだろう。おやすみなさ~い。
朝は良い目覚めだ。明るい中でみると、なかなかの規模の焼け野原だった。やりすぎちゃったかな?スターの自動修復は合宿が終わるまでやらないのかな。
キリアルがドン引いているが、見なかったことしてね。朝ごはんをどうぞ!
どこからか、
「驚いたら負け」というリチャードの声が聞こえた気がした。