#6始まりの日
まず初めに神が天と地を創造された。
地は茫然としてなにもなく、
闇が大水の面の上にあり、
神の霊がその水の面を動いていた。
神は仰せられた。「光、あれ。」すると光があった。神は光を良しと見られた。
神は光と闇を分けられた。
-旧約聖書創世記より
有名な言葉である。
この言葉は世界一売れた本といわれている
「聖書」の初めに記された言葉だから。
これをキリスト教徒たちは「御言葉」と呼ぶ。
この時、世界の誰も、まして月城財閥の者が
知るはずなどなかったのだ。
この、神が分けられた「光」と「闇」そのどちらもが蒼を支配することになるなんて。
相変わらずの入院生活。そろそろ慣れてきたし、
飽きた。凪や唯織が毎日見舞いに来て共に
遊んだり話したりしてくれてるから
暇はしないのだけれど。日常生活で必要なことは
全て月城病院VIP専属使用人が行ってくれるから
問題はそこまでないのだけれど。
「なぎい、疲れた。ぎゅうしよ?」
「いいですけど...今日だけで何回目ですか?」
「うーん、覚えてない」
「蒼様?凪にハグするのもいいですが、
節度は保ちませんか?」などと要らぬ指摘を
してくるのは唯織である。彼女は最近に対して
厳しい。特に凪といる時には。いつも人のいない時はこうやって凪に甘えるのだ。屋敷にいるといつも
邪魔が入るから、今はハグ日和が毎日続いているようなもんである。「せめて回数くらい数えません?
さすがにここまで使用人が主様にくっついてると
怒られるといいますか....」「凪は今までに食べた
パンの数覚えてないでしょ?それと一緒だよ」
「512」「へ?」「私が今までに食べたパンの
数です。それくらいはさすがに覚えてますよ?」
「いや、普通覚えてないし、覚える必要もないんだけど...?」「別に覚えようと思って覚えた訳では
ありません。感覚で覚えてます。」これだから
一条家は。一条家の中には瞬間記憶能力が
あるような者もいるらしい。記憶力、技術力、
運動能力、精神力、武力等々について全てを
網羅している...しまうと言った方がいいだろうか。
それが一条家なのだ。実に恐ろしい。
使用人の鬼である。流石に現在の主にはできないが、僕の父も使用人である凪の父親に尻が腫れるレベルで叩かれながら教育されたらしい。
一条家の使用人カリキュラムは厳しいらしい。
なにせ、小学校に入るまでに高校カリキュラムを
終わらせた上でさらに使用人としての
教育や武術までも叩き込まれるのだ。
この時点では月城家の人間より一条家の人間の方が
強いといえよう。それほどに一条家は恐ろしい。
だから僕は凪と唯織以外の一条家の人間には
近ずきたくないのだ。...と、話が逸れた。
話を戻そう。「まあ、普通の人は、ね?
あんま覚えていないと言いますか...?」
「蒼様を普通と定義したらそれ以外の人間は
空を舞うチリより価値が低くなりますけど
大丈夫ですか?」などと凪は飄々と言ってのけた。
「そういうことじゃないって...」と困っていると
「なーんて、冗談ですよ。失礼かもしれませんが、
蒼様が可愛すぎたもので、いじめたく
なっちゃったんです。」
なんて言うのだ。「可愛くねぇ!」と、
否定しておこう。「凪、あまり蒼様をからかっては
いけませんよ」と、圧を送っているが、
それすら絵になるのが唯織のにくい所である。
え?唯織が僕の味方した?嘘でしょ..と少し驚く僕であった。その時なにやら凪のスマホに連絡が入る。
「え....」「どうしたの?凪?」
「今から本邸の人間と警察が来ます。」
「え、なんで?」「どうやら犯人を取り押さえたとか何とか。」「やっとか....」驚きより疲れが
追い越してしまったのである。
「今から30分程で到着されるそうです。
気を引き締めてください。」「分かった。
ありがとう。」そうは答えたものの、
内心では冷静だった訳では無い。
なにせ、本邸は僕にとってトラウマに
なっている場所なのだ。その時に自分を教育した
人間が怖くないわけが無い。
そんなことを考えながら、30分が過ぎた。




