第54話 アンソニー王子
ウィンザー城内のセント・ジョージ礼拝堂では、イングランド最高勲章の叙任式「ガーターセレモニー」が執り行われました。ガーターセレモニーとは、1348年にエドワード3世が創設し、各国の君主に叙される“ガーター勲章”の叙任式です。受勲者は“ガーター騎士団”の一員となり、セレモニーは中世の騎士スタイルで行われます。
今年はアンソニー王子がバグパイプの奉納演奏を行うため、本来ならば騎士のスタイルで行進が行われますが、アンソニー王子だけが騎士の衣装を身に着けていませんでした。
ガーター騎士団の正装は、ネイビーブルーのベルベットのマントと大きな白い羽飾りのついた帽子で、マントを翻しながら歩くオリバー国王は、すらりとした長身のスタイルの良さと紳士としての上品な身のこなしから、非常に優雅で品のある美しい国王です。
エレノア王妃はマントの下に純白のロングドレスをまとっています。右肩には真紅のベルベットフードを掛け、その上から重々しい黄金の頸飾を下げた姿は、まるで物語の世界から抜け出てきたようです。
一般の観客も招待されており、王族の行進を見つめていました。
国王、王妃、アンソニー王子、その他の王族が次々と並んで更新していきます。アンソニー王子が手を振ると、ひときわ大きな歓声が聞こえてきます。
金髪の緩やかな長い髪。色白で青空のような明るいブルーの瞳。言葉を発しないままじっと見つめる様子は、言葉よりも先に何かを語りかけているような、見ている人の心を奪う魅力と美しさでした。
“ガーター勲章”の叙任式が終わり、王宮の中のプライベートな部屋に着くと、アンソニー王子の母であるエレノア王妃がアンソニー王子をじっと見つめ、嬉しそうに言葉を発しました。
「アンソニー、キルトの民族衣装も、そろそろ卒業ですよ。」
「お母さま、日本のコスプレみたいで私はこの格好が好きなんです。まだまだこれからも着たいなぁ。」
「アンソニー。日本びいきもいいのだけれど、決して私以外の誰にも、日本びいきだと知られてはいけませんよ。」
そういうとエレノア王妃はアンソニー王子の両ほほを自分の掌で優しく包み、
「お父様には特に。知られてはいけませんよ。」
「お母さま、わかりました。もう何度も言われています。『耳にタコができてしまう』よ。」
楽しそうにエレノア王妃とアンソニー王子が話していると、部屋の入口に執事が立ちました。執事はゆっくりと頭を下げ、
「アンソニー王子、こちらをお持ちしました。王子の探されていた、日本の大昔の物語と挿絵です。」
執事はそう言うと、竹取物語と書かれた古い古紙の本と、美しい十二単の長い黒髪の女性が描かれた用紙を王子に渡しました。
「ありがとう!楽しみにしていたんだ!」
そう言うと、アンソニー王子は椅子に座るのも忘れ、立ったまま日本の古い本を読み始めます。そしてすぐ困った顔をして、
「読めないや。でもこれからこの古い本を読めるように、日本語を勉強するんだ。そして早く日本に行きたい。次のスぺイツアルの試合は日本だったよね。今年は日本が開催国だから、十二単を着た人が舞を舞うはずなんだ。僕早くそれを見たい。この絵のように、きっと別世界を体現してくれるんだろうな。」
エレノア王妃は言います。
「今年の舞を舞う女の子は、ちょっと特殊な能力があるようなのよ。アンソニーと1歳違いだったかしら。」
「僕、早くその子に会いたいよ。」
エレノア王妃は少し困った顔をしました。大英帝国の王位継承者が、日本の文化に憧れるということは公言してはならないからです。
「お母様、日本では大昔に月から舞い降りた姫がいるという物語があって、それはただの作り話ではなく、本当にあった出来事ではないかと言われているんでしょう?これは、昔の日本に降り立った宇宙人のはなしではないの?我が国イギリスでは、そういった話はなかったのですか?」
エレノア王妃はさらりと答えました。
「我が国にも降り立ったのよ。でも、その時代の者達はそれを八つ裂きにしたの。残念なはなしだわ。」
アンソニー王子はピタりと固まりました。
「え。そうなんですか?」
「そうらしいわ。あの時代に空から来た者を助けていたら、魔法とは別の大きな力を得る事が出来たかもしれないわね。」
「我が国の魔法と、日本の神道の力と、大して変わらないのではないですか?」
「少し違うのよ。決定的に違う部分があるわ。いずれ、あなたも知る事になるわ。お父様と同じ儀式に出るようになれば。でもいずれね。今たまだ、ステファンに代わりに儀式に出てもらっているから、あなたがそれを知るのはまだ先の話だわ。」
アンソニー王子は首を傾げ、
「お母様、どうしてお父様達の儀式に、私の影武者を立てるのですか?私で良いではないですか。」
エレノア王妃は強い目つきでアンソニー王子を見ると、
「いいえ。とんでもないわ!私が良いと言うまでは、絶対にあなたは儀式に出てはいけません。絶対に!あなたは太陽の様に光り輝く人でなければいけません。一点の曇りもない、光り輝く太陽のようでなければ。」
アンソニー王子の側に執事がゆっくりと近づいて来て、
「アンソニー様、王妃の計らいは、ステファンという大きな代償を伴い、国王陛下を欺いてまでも遂行されて来ました。どうか、何も詮索せずにお過ごし下さい。」
アンソニーは頷くと、エレノア王妃の頬にキスをし、ゆっくりとお辞儀をして後ろに振り返り、部屋を出て行きました。
「ステファンを呼んでちょうだい。」
エレノア王妃がそう言うと、執事は召使いに合図をしました。
暫くすると、今度はグレーのスーツを着た、アンソニー王子にそっくりな少年が入り口に立ちました。
顔も髪も瞳の色も、アンソニー王子そのものですが、その瞳はアンソニー王子とは全く別の、光の無い瞳でした。
私達召使いの間では、アンソニー王子は太陽の王子、ステファンは暗闇の王子と呼ばれていました。
再び連載開始です。
今日は忙しかったので、明日また続きをUPします。
次のお話しは、「暗闇の王子」 です。




