貴方は当分の間、ここに来ることはない。と言われる。
沢山のお話を聞いて、沢山のお話をした。私は夕食を食べる前には疲れてしまっていて、夕食の頃にはうとうととしていた。
お婆ちゃんが、「利津子ちゃん、お夕飯は何が食べたい?」と言うので、「ハンバーグ。」と答えると、お婆ちゃんの娘の、志都子叔母ちゃんが、手作りのハンバーグを作ってくれた。
他の人たちは帰ろうとしなかったが、お婆ちゃんが、「皆、大分疲れたやろ。ご飯はぶぶ漬けでもよろしいやろか。」と聞くと、「お願いしますわ。」と皆が言った。
私は、「あれ・早く帰っての意味じゃないのかな?」と思ったけれど、どうやら迷信らしい。
「なんか、関東の方では、京都の人間がぶぶ漬けを勧めると、早く帰れと言っているとか言うて、京都の人は言い回しが怖いとか、言うてはるんて。」
「なんや。おもてなしの言葉を、どうすれば帰れになるんや。」
「言う事成す事、にぎやかでいいわなぁ。東京は。」
「おお、これはやかましいの意味やで。」
「少しは言ってやりまへんとな。甘やかすさかい。」
「どにもこうにも、東京が好かんわけよ。」
「上京言うたら京都へ行く事やわなぁ。」
「東京に行くことを上京言いませんえ。誰が言わせたんや。」
私はなんだか漫才を聞いているようで、おかしくておかしくて、口を押えて笑ってしまった。関西の人って、面白いなぁ。とつくづく思った。
子供は誰も来ていなかったけど、そんな風に賑やかに楽しく時間は過ぎていった。
次の日、お昼過ぎには私は京都駅に向かった。お婆ちゃんも志都子叔母ちゃんも、とてもお名残惜しそうに、
「利津子ちゃん、またおいでね。本当に素敵な時間を過ごせたわぁ。」と言って、お土産を持たせてくれた。
京都駅の新幹線口に近づくと、人が行き交う中に、長い帽子を被った着物姿の男の人が立っていた。
光を浴びてとても綺麗な姿は、目立つと思うけれど、周りの人は誰も気が付いていないようだった。他の人が気が付いていないのではなくて、他の誰にも見えていないようだった。
「貴方は当分の間、ここに来ることはない。」
そう言うと、その男の人は涙を流して、こちらを見ていた。
其の人は名前を名乗らなかった。とても恐れ多いことだけれど、あのお方だと思った。ふっと姿が消えると、もうその姿を見ることは出来なかった。
改札口に着いた。お婆ちゃんと叔母さんは、ホームまで来てくれると言って、私の手を繋いで迷子にならないようにしてくれた。
「おばあちゃん、叔母さん、なんだかね、私は当分の間、京都には来れないんだって。」と言うと、「どうしたの?」と叔母さんが言った。
「何だかね、着物を着た男の人が、駅の入口の近くにいてね、そういったの。」と言うと、
「あら。そんな人おった?」とお婆ちゃんと叔母ちゃんで不思議そうにしていた。
「もしかしたら、堀川さんが来てくれはったんかもしれませんなぁ。」とお婆ちゃんが言うと、「皆、利津子ちゃんが好きなんやわなぁ。」と言って私の頭を撫でてくれた。
「お婆ちゃん、叔母さん、ありがとうございました。本当に、お世話になりました。」と言って、頭を下げた。
私の席がある車両の前で、お別れをすると、私は席に座って、お婆ちゃんと叔母さんの方を見た。新幹線が動き出すと、沢山手を振って、お別れをした。
「黒崎さん、ちょっと気になるSNSの記事があるんですが。」
総氏の一人である柳誠一郎が私に何かコピーを持ってきた。柳は総氏の中では、若手で、インターネットやパソコンについての知識がかなり高いく、インターネット上の情報収集に特化した調査を専門としていた。
内容を読んでみると、確かに面白いことが書いてある。しかも、不思議なことが見える本人は小学生の女の子と書かれてあった。
「ちょっと調べてみる価値はありそうだな。柳。この女の子が誰なのか、何処に住んでいるのか、早急に調べられるか?」そう言うと、柳はニヤリとして、「朝飯前ですよ。」と答える。
それから数時間後、このSNSは、泉八志都子という女性が書いたものだとわかった。
「泉八志都子って、京都の今出川に家がある、あの泉八家のか?」と念を押して聞くと、柳は「そうです。あの、泉八家です。」と答えた。
「厄介だな。よりにもよって、八咫烏の元締めの娘とは。」
これはいかん。勝手に調べると八咫烏を怒らせるぞ。八咫烏と橘流陰陽道古神道は、過去に幾度となく衝突してきた因縁の間柄だ。私では役不足だ。総宮にお願いしなければ、めんどくさいことになりそうだ。
私は総宮に会いに行き、これらの経緯を話した。
「泉八基子様の所に来た小学生の女の子がいますが、この子が、大変興味深い子でして。」と話すと、総宮は、SNSをプリントアウトしたものにゆっくりと目を通した。
「この子の住所、名前、両親の名前、戸籍、全部知りたい。基子様に聞いた方が速そうだな。」そう言うと、総宮は、電話をかけ始めた。




