夢に現れた人。その後、歌が、声が、聞こえる。
私たち家族はよく、夜ご飯を食べながら歴史のクイズ番組を見た。
今回は日本三大怨霊というテーマだった。
何のことは無い、面白おかしく、大袈裟に演出して、クイズ番組にしているような内容だった。
私はその番組の中で、
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」という歌が読まれた時に、聞き覚えがあったので「あっ。」と思った。
小学校では、百人一首を覚えさせられていた。
いろいろな歌の意味を先生が説明してくれた時、こんな綺麗な歌を、男の人が詠んだりするんだな・・。と、とても心に残ったのが、崇徳上皇様の歌だった。
何となくクイズ番組を見ていたけれど、怖い顔をしたその人が、空を睨んでいる絵は、その歌の綺麗な切ない印象とはかなりかけ離れたものだったので、私はふと思った。
「本当にこんなに怖かったのかなぁ。この上皇様はどんな人だったんだろう。」
私はとても気になったので、その上皇様の事を解説した本を、数日後、お母さんにお願いして買ってもらった。でも、途中で読むのをやめてしまった。何故か、「怨霊」という言葉がしっくりこなかったからだ。
ある日、私は家でまったりと過ごしながら、その上皇様の本を読んでいた。
「どんな人だったんだろう。気になるなー。」と思っていると、急に眠くなって眠ってしまった。
そうすると、私はすぐに夢を見た。後ろから強い光が射していて、逆光で顔が暗くてよく見えない、男の人が私にこう言った。
「あのお方は、太陽のような言葉を話す方でした。」
その言葉を聞くとすぐに、私はぱっと目が覚めた。
「今の人は誰だろう。」
私はとても不思議な気分になった、兜と言えば五月人形だけど、五月人形の兜には、右と左に大きな飾りがある。
その男の人は、その部分が無い帽子のような兜を頭に被っていた。
そんな不思議なことがあるものだから、私はますます、上皇様の事が気になった。本を詳しく読むと、京都に御霊を移したとあったので、夏休みに丁度、京都に行くことだし、絶対にお参りに行ってこようと強く思った。
それから数日後、家族で車で出かけた日は、帰りはとても綺麗な夕焼けだった。
遠くの山々がオレンジ色の夕日の光と一緒になって、物凄く幻想的な、薄いオレンジ色の水墨画のような景色になった。皆んなでその景色に見とれていると、
「うおおおおおおーーー。」
と、高いような低いような、よく響く声が聞こえてきた。私はびっくりして、
「これ何の声?お父さん、ラジオの音大きいよ!」と言うと、お父さんは呆れた声で、
「何もつけてないし、何も聞こえていないよ。」と言った。
私はびっくりして、「え?だって、男の人の声聞こえるでしょ?」と聞いてみると、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、
「そんな声聞こえないよ。」と口をそろえて言う。私は「えー。」と言いつつも、その声に耳を傾けてみた。
連なった山々の、この夕焼けの眺めは、かつて私がいた場所に似ている。
山の重なり方によって、濃くなり淡くなる美しい柿色の色合いが、あまりにも美しいので私の心を強く動かした。
帰りたいあの場所には帰ることが出来ないが、この景色は私の心を美しく染め、私を優しく慰めてくれる。
天野浮舟が私を乗せ、私をあの夕日の中に連れて行ってほしい。
とても澄んだ張りのある響きの良い声だった。
夕日がだんんだん暗くなってくると、声は聞こえなくなり、何も無かったかのような藍色の空の、見慣れた街並みになった。私は本当に不思議な気持ちでいっぱいになった。
家の前に着くと、お父さんとお母さんとお姉ちゃんが車から降りて来て、三人が同時に私の顔を覗き込むように聞いて来た。
「何?どうしたの?何が聞こえたの?」
私は、聞こえてきた声と歌をそのまま伝えた。
お姉ちゃんは、「えー。何も聞こえなかったし。でも、そんなことってあるんだね。」と、肩を窄めた。
京都で上皇様の御霊が帰られた場所は、白峯神宮だったと思う。私は、「絶対に白峯神宮に行く!」と気合を入れて、夏休みの計画を立てていった。




