~ プロローグ ~ 日の本の国の一番悲しい日
<イラスト作者>
續まどか(Madoka Tsuzuki)先生
madoka-tsuzuki.com
https://twitter.com/MadokaTsuzuki07
~ プロローグ1 ~ 日の本の国の一番悲しい日 ~
大東亜戦争下では、橘流陰陽道古神道の我々は、戦争を早く終わらせることが出来るように水面下で活動をし、外交面での戦争終結の糸口を探していた。
1941年12月18日未明、連合艦隊の山本五十六司令長官よる真珠湾攻撃により、大東亜戦争が勃発した。宣戦布告の無いままの奇襲に対し、米国は即座に日本に宣戦を布告する事となり、双方の連絡は途絶えてしまった。
しかし、1942年2月25日未明、正体不明の飛行物体がロサンゼルスを襲撃する。
大日本帝国軍機の空襲であると誤認してアメリカ陸軍の対空砲での大規模な迎撃が行われたが、実際には飛行機は確認されてない。
1939年にイギリスで、ウラン235を爆発させることで既知の爆弾とは比べ物にならない位の大きな破壊力を持った爆弾の開発が可能とわかった。
そんなものを開発などするから、我々も予想できない地球外の文明の飛行物体が襲来したりするのだ。地球外の文明が警笛を鳴らすためにやって来たものだった。
ロサンゼルスバトルの8か月後、1942年10月、ルーズベルトはアメリカ国防研究委員会 (NDRC) 議長のヴァネヴァー・ブッシュと副大統領ヘンリー・A・ウォレスとのミーティングで、核兵器開発プロジェクトを承認した。
日本軍がこのロサンゼルスバトルに関わっていない事が確認されるのは戦後となる。
1945年3月9日。我々、橘流陰陽道古神道の総氏以上の者たちは、八王子城址の地下に集まり会合を行っていた。東京が一望できるほど景色が良いことで有名な場所だ。
古神道の中で、神力の特に強い巫女や祈祷師達は、その当時は60人いた。戦火が強まる中、東京に留まることを選択された陛下の側でそれぞれの務めを行っていた。
何か大きな出来事がある場合には、陛下の元で巫女や祈祷師達が集まり、大規模な祈祷を行い、人のものではない大きなものの力を借りて、今迄の大きな大戦も、人間には出来ない攻撃で勝ち目のない戦いを勝ち続けてきた。
普段は、それぞれ勤めを行うのは昼間だった。
夜になり、何やら周りが騒いている。
「何があった?」私たちは急いで建物の外に出た。
本土への空爆が始まってから人々は、夜は窓から家の灯りが漏れないようにしていたため、夜空は星の明かりが目立ち、遠くに見える夜空は暗闇のはずだ。
しかし、今日は違った。
東京の夜空が、、、、真っ赤だ、、、。
「なんだ、、、燃えているのか?!」
その赤い空に見えるのは、星の数ほどの光だ。
「あれは、、、!」
あれは恐らく飛行機だろう。その飛行機から、垂れ流されるようにはらはらと何かが落ちていき、着弾したであろう地上からは爆発が起こっている。
あれは爆弾か?
「まて、祈祷師や巫女は大丈夫なのか?」
私は祈祷師の暮らしている牛込に連絡を入れた。しかし、繋がらない。陛下のおられる皇居内の御文庫も、近くの主要機関も、電話が繋がらない。
とてつもなく嫌な予感がしたのて、私は黒崎を呼んだ。
「黒崎。牛込の巫女や祈祷師達の様子を見て来てくれないか。」
「総宮、承知いたしました。」
そう言うと、黒崎は両手を顔の前で交差させた。黒崎の体の周りを黒いもやが包み、さっと黒い猫の姿になり、猫が空に飛び上がっていくと、水の中を黒い墨が広がっていくような黒い影となって、空に飛び立った。
1時間程過ぎた頃、黒崎が戻って来る。黒い影が黒猫の姿になり、もとの黒崎の姿となった。
黒崎は私の前で片膝をつき、苦しい表情で言う。
「牛込の祈祷師達18名は、全滅です。」
私は嫌な予感が的中して血の気が引いた。
「巫女たちはどうした?」
「2人、御文庫の中で陛下と一緒に祈祷を始めています。が、2人はまだ見習いです。上階巫女35名とそれ以下の階級の巫女5名は皆、駄目だったようです・・・。」
上階巫女は祈祷をする上で、強い神力をもたらす非常に重要な役割を持つ。その上階巫女が皆、死んでしまったというのか、、、。
私は体の力が抜け、その場に膝をついた。
あまりにも被害が大きく、失った存在の大きさに、言葉が出てこない。
「何ということだ、、、。獣神の力を借りることが出来ない。祈祷師もいない。、、、ここから、我々で獣神に働きかけるしかないな。」
「総宮、今回の大空襲、かなり早い時期に牛込に焼夷弾が使われています。そして、東京から逃げられないように、円を描くように品川、銀座、日暮里、それを終えると江戸川まで無差別に焼夷弾を使用しています。完全に殺戮目的ですね。」
「巫女や祈祷師達が住んでいる牛込を最初に狙ったという事か。」
私は怒りが込み上げて来た。何故、牛込に祈祷師と上階巫女がいることが、米国に筒抜けなんだ、、、?!
遠くの東京の空は益々、赤くなっていく。動かねば、、、!動け、、、!!
八王子城址に我々は集まり、招獣唱拝詞を唱え始めた。
招獣唱拝詞は、動物たちの霊に祈り、加護を求める祈りだ。
第一次世界大戦も、日露戦争も、招獣唱拝詞により、人の被害を最小限に食い止め、勝つことは不可能と言われた大国に勝利してきた。
しかし、今、一番霊力の強い上階巫女や祈祷師はいない。我々8名の中で祈祷が出来るのは私と黒崎と吉田の3名。
足りない。
天叢雲剣も神獣鏡も無い。
しかし、始めるしかない。
私はバジュラ・ドルジェを両手に持ち、何度も顔の前で交差させ、交差させるたびに発せられる音を出来るだけ遠く離れた東京へ届くように祈った。
「隠神刑部、大黒天、威徳天、三狐神、天迦久神、大山咋神、八幡神、熊野神、伊勢神よ。古より続く、人間と獣たちの命の関わりを思い起こし、東京の地に馳せ参じ給わんことを、畏み畏みもまおす。」
そう祈り、私は地面に額を付ける。その後立ち上がり、同じ祈りを唱え、地面に額を付けた。
その祈りを三度唱え終える頃、周りの山々から何かが大空襲の赤い空に向かっていく。
これらが、東京大空襲の時に目撃された、飛行機に飛び掛かっていったこの世のものとは思えない化け物の正体だ。
我々だけでは、限りがある、、、。
我々だけでは、、、。
あと50年。
あのお方が再び現れる次の千年まで、あと50年だ。それまで、この国を守っていかなければならない。
~ プロローグ2 未来の息子からのメッセージ ~
僕の名前は水織吉輝15歳。
背が高いから大学生に間違われるけど、やっと高校生になるんだ。
母さんは水織利津子。父さんは水織央。父さんも母さんも、とっても優しいんだ。母さんはよく僕を、
「パパにそっくり。私のお父さんにもそっくり。背も高いし、スマートだし、俳優の大沢たかおが二重になったような感じのハンサムに育ってくれたわね。」
と、はしゃぎながら言う。どれくらいのフィルターを掛けて見ているんだと思うくらい、親馬鹿だ。父さんに関して母さんは、
「真田広之という俳優さんをスマートにした感じで、目が大きくてまつげが長くてハンサムでしょう。」とよく言っている。
はいはい。息子としては仲が良くて何よりだよ。
父さんも「そんなことを言ってくれるのはママだけですよ。」といつもニコニコしながら呆れてる。
ま、要するに皆仲がいい家族なんだ。
何処にでもある普通の家族だけど、僕の母さんはちょっと普通じゃないところがある。
母さんはよく僕に、母さんが幼い頃からの不思議な体験を話してくれた。父さんと一緒に話を聞いて、
「ふーん。不思議だね。」
と答えることが何ともないくらいに当たり前で、僕たち家族には特に珍しい事では無かった。
母さんは外出している時や仕事関係の人と話す時は、淑徳美声の丁寧な言葉で会話をし、普通にしっかり者の大人だった。
でも、僕や父さんの前では、とても幼稚というか子供の様だった。見た目は年齢よりかなり若く見え、時々僕が小さかった頃に使っていた幼稚語で喋るし、母さんの背を追い越してからは、まるで僕のほうが年上じゃないかと思える時がある。
僕はそんな母さんや父さんと、穏やかで明るい普通の生活がずっと続くと思っていた。あの日、母さんが八咫烏に連れていかれるまでは・・・。
僕は母さんのこの不思議な物語を、書き残していこうと思う。
それは母の日記の様であり、母の思い出の回想の様であり、僕のつぶやきの様であるけれど、残しておかなければいけないと思ったんだ・・・。
あまりにもスケールが大きくて、人類の歴史や常識をひっくり返してしまうような沢山の出来事を。
これから小説で不思議な出来事を書き残していきます。
とうとう行動してしまいました。
沢山の方に読んでいただけたら嬉しいです。