表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

缶コーヒー

作者: ありま氷炎
掲載日:2022/12/01

「こんばんは」

 今日も彼は来た。

「カスバの缶コーヒーください」

 レジ近くに置いてある保温機の中に、彼の大好きな缶コーヒーがある。

「どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」

 いつものやり取り。でも何か話したい。

「ありがとうございます」 

 結局今日もそれしか言えず、彼は帰ってしまった。

 一カ月前から、毎日来るようになった彼。

 名前も何もわからない。

 ただわかるのは彼がカスバの缶コーヒーが好きなだけ。

「あと二缶かあ」

 自動販売機を設置することを決め、保温機に補充されなくなった缶コーヒーは残り二缶となっていた。


翌日。

「いらっしゃいませ」

 店に入ってきた彼を見て、思わず先に声をかけてしまう。すると彼はまっすぐレジに来た。

「残り二缶……なんですね」

「……はい」

 残念そうな彼に何か言わないと、急かす気持ちとは裏腹に私は短く答えるだけにとどまる。

 緊張しすぎて、彼の顔を見れずに俯いてしまう。

「カスバの缶コーヒーおいしいですからね」

「そうですね」

 彼の言葉に頑張って相槌を打った。優しい瞳とかちあい、なんだか恥ずかくなる。

「えっと、カスバのコーヒーですよね?」

 聞きながら、あと二缶分しか見られない彼の顔なのに、私は恥ずかしくて顔を上げられない。

「はい。一缶ください」

私とは違って、彼は明るくはっきりと答えた。

「熱いので気をつけてくださいね」

 いつものセリフを言いながら私はビニール袋に缶を入れる。

「ありがとうございました」

 悲しいかな。情けない私は今日もそれしか言えず、その背中を見送った。


最後の日がやってきた。何を言っていいかわからなくて、俯いてしまう。最後なのに。

「今日は言ってくれないんですか?」

 缶コーヒーの入った袋を受け取りながら彼は聞いてきた。

「な、何をですか?」

彼にじっと見られて、きっと私の頬は真っ赤だ。

 それなのに彼はじっと私を見つめたまま、再び口を開く。

「『熱いので気を付けてください』って」

 覚えていたんだ。

 一カ月前から毎日言い続けていた言葉、同じ台詞しか言えない私。

「あの、名前を教えてください。俺と付き合ってくれませんか?」

「!」

 え……?

 頭の中が一気にパニックに陥る。

 私は自分が金魚のように口をぱくぱくしているのがわかった。

「返事はゆっくりでいいです。明日また来ます」

 彼は優しく笑ってから背を向ける。

「熱いので気を付けてください」

 私は混乱しながらも必死にいつものセリフを口にする。

 すると彼は振り向き、また明日と言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ