番外編・「レティシアの懐中時計」/製作記
・簡単な注意書き
※この番外編の扱いは活動報告・あとがきに準じます。作中のアイテムを製作していますが、作中のキャラクターは出てきません。
※写真を使用しているため、縦書きPDFなど、イラストに対応していない読み方を想定していません。
※その場合、なんか話の流れからしてここにそういう写真があるんだな、ぐらいの感覚でお読み下さい。
※製作記系番外編では、好き放題しています。ご了承下さい。
「妹大好き悪役令嬢は断頭台を目指す」では、初の製作記系番外編ということで、はじめまして、水木あおいです。
この番外編は、作中に登場する小物類などを自作して、その完成品の写真を見てもらいつつ、製作過程を同じく写真付きで、設計から完成までお送りする……という流れになっています。
DIY、クラフト、プチプラなど、そういう言葉が好きな人には、より楽しめる構成になっている……と思います。多分。
こちらでは初ですが、前作「病毒の王」のサブタイトルに「/製作記」と入っている回は、今回と同様の構成の製作記系番外編です。
また、その派生である独立した連載「自作小説をなるべく低予算で古書(魔導書)っぽく、ハードカバー&革装丁……風の布装丁で自主製本するエッセイ 【病毒の王】/製作記(写真あり)」でも同様となります。
というわけで、今回作ったのは「レティシアの懐中時計」。
1話に登場したきりのアイテムですが、姉妹でお揃いかつ出会いの切っ掛けでもあるので、重要度はまあまあ高め。
製作過程で色々あったので、作者本人が作っておいてなんですが、これが公式デザインかどうかは怪しい。
それはさておき、野外ロケをしてきたので、写真を何枚かどうぞ。
・写真集
蓋を閉めた状態。
ヴァンデルヴァーツ家の紋章のヤモリさんが可愛く出来た。
サイズはこんな感じ。
手の中にすっぽり入ります。
設計上は5.5cm。懐中時計としては少し大きめ?
女性用ということもあり、もう少し小さくしたかった気持ちもある。
しかし、大きいと写真映えもするので悩ましい。
ちなみにイラストでも時計のような小物のサイズは悩ましい問題。
構図にもよりますが、単純に大きくすると目立つ……が、リアルさは減る……。
「不思議の国のアリス」の白ウサギ(擬人化を含む)が、時々でかい懐中時計を持っていたりするのを見たことありませんか? ああいうやつです。
蓋を開くとこう。
私は、歯車がとても好きです。
なので、その魅力が伝わると嬉しい。
……この歯車は噛み合わないし動かないので、真の歯車好きからお叱りを受けてしまうかもしれませんが、機構だけでなく、デザインとしても好きなので……。
ちなみに針は22:03ぐらいで止まっていますが、これは、いつもの更新時間だったりします。
少し傾けると、風防に景色が映り込む。
とある山の上の公園なので、木々と空が綺麗です。
実は風防は着脱式で、外すと内部機構がよく見えます。
これ、時計ではないんですけど。
ヤモリさんをクローズアップ。
錆が浮いた金属のような重量感!
これ、金属ではないんですけど。
木が作る影と木漏れ日の中で。
心が落ち着く。
なんかもうずっと眺めていたい。
ちなみに、後ろの木切れは撮影用に拾って洗っておいた流木です。
懐中時計は自立しないので……。
板床の上に。
壁に遮られて生まれる濃い影によって、くっきり陰と日向が分かれる素敵な撮影スポット。
なお手前にあるのは、高い所から落とすとくるくるする種です。
せっかくなので。(?)
蓋を開けると、風防の内に納められた内部機構がお目見えするのが何度やってもたまらないし、角度を変えて撮影していくだけで時間が溶ける。
風防に映り込んだ景色と、歯車と針が溶け合うのがそれに拍車を掛ける。
……あ、種がない。
そう言えば、撮影が終わったら落として遊ぼうと思っていたのに、綺麗さっぱり忘れていたことに今気が付いた……。
太陽に雲が掛かると光が一気に弱まって撮影の手が止まるのですが、その微妙な光の具合が、逆に、風防に映り込んだ雲と空を引き立てているような気もする。
そっと葉っぱの上に置かせてもらう。
あー、樹木と空のコントラストの向こうに歯車が見えるの好き……。
だんだん脳が溶けてきた。もう少し頑張れ私の脳。
少し高い、展望台的な所に登って、山をバックに。
少しずつ変化していく光に合わせて細かく場所を変えて撮影するのは、正直とても疲れるのですが、時々素敵な写真が撮れているので、その甲斐はある。
なお、この展望台的な所も、よく登ったり下ったりします。
階段……階段が急……。
なぜ一回で済ませられないのかは謎。
きっと、心のスケジュール管理係が仕事をサボるせい。
そんな役職は、元々いないという説もある。
もう一度風防を外して内部機構を見る。
針と文字盤に金具に歯車が、多層構造を作っているのを見ているだけで、何かが回復する。
SAN値が増えている可能性もある。
……ちなみに何枚か風防を外した写真があるのは、なぜか「内部が曇った」からだったりします。
外して拭かないと、撮影続行できなかった。
なお設計上、無事に外せるかどうかは完全に運次第。
無事に外せなかったら?
……今回のロケで撮った写真が、100枚ぐらい少なくなっていたと思います。
後、蓋を開けた写真がすごく減る。
何枚撮っても楽しいな。
おかしいな。バグかな。
………………。
…………。
……。
写真を何枚か。(14枚)
「お時間ちょっといいですか~?」みたいな口上を、好きか嫌いかで言えば憎んでいるのに、いざ自分がその立場になった時、似たようなことをしているのを見ると、人間とは弱い生き物なのだと思いますね。
・製作記
「自分が何をしたいのか?」とは、創作において大事な質問です。
精神的な要素も強いですが、例えばDIYで、高い所に置いた物を楽に取るために、踏み台を作りたいなら、弱い素材は使うと大事故になりかねないのでアウト。
固定方法も同様に、強固でなくてはいけません。
でも軽い物を載せる飾り台なら、紙の箱でも問題ない。そういうものです。
……私の場合?
――頭に浮かんだものを作ってみたい。
思いついた技術を試してみたい。
自分が使える技法の引き出しを増やしたい。
使ったことのある素材を増やしたい。
――もうなんか、理屈とかどうでもいいから、何かを作りたい!
……創作の動機が「生活を楽にしたい」とかではなく、「これが欲しい」ですらないあたり、マッドサイエンティストみありますね。
念のために書いておくと、これはこういったクラフトの話で、小説本編は、また別の話です。
多分。
それはそれとして、今回の予算は200円です。
にひゃくえん。
私は物作りが好きですが、比重で言えば一に小説、二にイラスト、三にクラフトで。
予算で言えば、多分イラストが一番多くて。(ペンタブなど周辺機材)
それらのしわよせは、全部このクラフトの予算を直撃するという構図になっています。
予算がもっとあったら苦労していないかもしれないし、予算があったらもっと苦労しているのかもしれない。
低予算は低予算で楽しいんですけど。
――理念として、私は低予算の物が好きです。
予算を増やすことでのアップグレードは、予算を減らすダウングレードより発展性があり。
何よりも、低予算なら確実に、「私もそれをやってみようかな」と思うハードルが下がる。
だから、もしこれを読んだあなたが、低予算でもここまで出来るんだと思って、何かを作りたくなったりしたら、とても嬉しいですね。
それでは、ここからは一緒に、設計段階から丁寧に地獄を見ていきましょう。
……反面教師にしてくれても嬉しいですよ。
・基礎設計
なんとなくラフを描きつつ、設計を詰めて行きます。
方眼になんとなく配置していく……。
文字盤、歯車、針などをデザインし、いい感じになるように……。
なあ、その細かさで大丈夫か?
……と言ってくれる人は、残念ながらいない。
※1cm方眼と1mm方眼を重ねていて、つまり文字盤のサイズは4cm弱。
もう少しパーツを足して、A4のコピー用紙に印刷します。
歯車などは合体したものを設計図として、分離させたものを実際のパーツとして使います。
針は参考用。
歯車や文字盤が複数あるのは予備。
後に、この予備に助けられます。
仕様変更や、単純に切り抜き損ねたり……ですね。予備は大事。
これが蓋なのかな? というパーツは、廃棄された設計の名残です。
……人には出来る事と、出来ない事が……ある。
・時計の針
とっても簡単!
設計図の通りに、0.5mm厚の黒い厚紙を切り抜くだけです。
……「だけ」なんですけど。
口で言うのは簡単なんですけど。
自分を信頼しているのか。
それとも、自分の力量も分かっていないのか。
私にこんな精度で切り抜くのできるわけないだろ、クソ設計もいい加減にしろ……と、やるだけはやってみて、死んだ目になるまでが設計です。
(違うかもしれない)
諦めて再設計。
もう少し大型にして、デザインも変更することで妥協します。
※上が原寸大での印刷。下が切り出したパーツ。
だいぶ大きくなりましたね……。
でも、頑張ったと思うんですよ。
だって、これでも1cmとかそういう……。
シャーペンでアタリを描いて、デザインナイフで頑張って切り抜きました。
コツがあるとすれば……良く切れる刃物を使うことでしょうか。
私は頑張って研いでいます。
替え刃タイプのはずだけど、替えた記憶がない。
・歯車
とっても簡単!
設計図の通りに、0.5mm厚の黒い厚紙を切り抜くだけです。
……「だけ」なんですけど。(デジャブ)
今回は設計通り頑張った……。
コピー用紙を貼り付けて切り抜いたものがこちらになります。
一部、切り残しているのは隠れる部分。
作業の効率化と、強度を確保するのと、二つの意味があります。
ちなみに大きい歯車で14mm、小さい歯車で12mmです。
正気とは思えない。
……歯車の形をしたチャーム(アクセサリー用の金属パーツ)を使おうかとも思ったのですが。
私は持っていなくて。
ひいきの手芸店や百円ショップにもなくて……。
通販は、形状やサイズが気に入らず、あるいは値段が折り合わず。(安いものはすごく大量とか)
買うのは諦めて頑張ったんですが。
歯車の完成後に立ち寄った百円ショップに、すごく素敵な歯車チャームが入荷していました。
わあ。
わあ……。
厚みの問題とか……あるから……。(震え声)
完成後に待ち受ける悲劇(喜劇?)も知らずに塗装している様。
黒のアクリル絵の具を、クッキングペーパーに出して、小さく切ったメラミンスポンジにつけてポンポンするだけ。
とてもお気に入りの塗装方法で、写真のように、黒→金で塗っていくことで、ぐっと金属っぽくなる。
アンティークゴールドや使い込まれた真鍮のような金色。好き。
ゴールドではなくシルバーが欲しい場合は、黒の後に銀でもOKで、穴の開いた文字盤? 部分は黒の後に銀を塗っています。
ちなみに針は、同じくメラミンスポンジで、黒のアクリル絵の具だけ。
なお、この製作記における予算の計上方法として、塗料は予算外です。
すごく大量に使う場合は計算することもあるのですが……。
メラミンスポンジによる塗装方法がお気に入りなのは、ベタ塗りより風情が出るのに、使う量がすごく少ないというのも大きい。
筆を使わないと、筆を洗わなくてもいいのも楽ですね。
・風防
ステップ1、百均の温度・湿度計を購入します。
ステップ2、湿度計から風防を剥ぎ取る。
終わり!
とっても簡単。
……落とし穴はないですよ。
ちなみにこの風防に合わせて設計しています。
予算の二分の一、100円計算。(税抜き)
・歯車を合体させる
裏面から見るとこう。
当初の設計を尊重しつつ、現物合わせで臨機応変に合わせる……。
角度や位置など、実際に合わせてみるとこっちの方がかっこいい気がする……と、変更したのが、何カ所かあります。
接着は、スティックのりを使います。
強度に少し不安はあるのですが、とても使いやすいので信頼している接着剤。それがスティックのり。
ピンセットでつまんで蛍光灯にかざしてみる。
よし、きゅんと来た。
スタンドアローンの創作環境では、自分で自分のモチベーションを高められるものをつくるのがコツです。
と言いつつ、この間、色々あって……。
実は、塗装から組み立てまで1年以上、間が空いていたり……。
ちゃんと、完成済みのパーツを保管していたので無事に完成しました。
この後は、針を接着します。
そしてこの1年で、ベースに使う予定だった、湿度計の針をなくしました。
なので、針の基部をでっち上げる必要があるのですが。
時々針が動くかもしれない湿度計にする予定だったのですが。
でも、探しても探しても見つからない……。
……可動部を増やすと事故が増えるからな。よし、諦めよう。
「レティシアの懐中時計」は公式に針が止まっているし、動かなくてもいいよね。と、自分に言い聞かせる。
スタンドアローンの創作環境では、臨機応変の名の下に、柔軟な設計変更を受け入れるのもコツです。
文字盤を切り抜いて、針も接着したところ。
丸く切った厚紙を挟んで、少しだけ高さを出しています。
ここでも活躍するスティックのり。
・外装
金属っぽいこの懐中時計の外装の素材ですが。
主に粘土です。
別に変なことはない。ごく普通の素材です。
ただ、私がクラフトに粘土を使うのが、初めてなだけ。
この粘土を開封して最初に使った時、私はこう思いました。
「これは……生涯の相棒を見つけたか……?」
とても素敵だった。
練り心地は軽く、手触りもよく、手にもつかない。造形力も悪くない。
それだけの素材に出会えたかと、胸が高鳴りました。
そして作り終えた時、私はこう思いました。
「しばらく粘土は触りたくない……」
後で語りますが、決して悪い粘土ではないんですよ……。
本当は特性を理解してから設計に組み込むべきなのに、テストする予算をケチったのが悪いだけ……。
ちなみにこの粘土が予算の二分の一で、風防と同じく100円計算。(税抜き)
と言いつつ、この軽いねんどは7割ぐらい残っているのですが、使い道は未定。
この製作記の予算は使用量ではなく、「そのために購入した素材」を計算するので、次にこの粘土を使う何かは、0円からスタートします。
こういう感じに厚紙を切り出して、組んでいきます。
なんの厚紙かは、私にも分からない。
ティッシュやお菓子の箱をストックしてあるので、0円計算。
バネが映っているように、実はこの懐中時計の初期~中期の設計では、可動部分があったり……。(一番上の竜頭に見えるのは、そういうビーズです)
色々あって……今も、押すと少しだけ動きます。
ギミックの設計は正しかった。と思う。
ただ、私がその設計通りに組める素材も、道具も、設備も、技術も、何一つ持っていなかっただけ……。
さらにそのギミックの名残や、仕様変更のせいで、強度がとても不安に。
………………。
…………。
……。
……グルーガンだ! グルーガン持ってこい!
グルーは全てを解決する!!
私が最も信頼する素材の一つ、それがグルーです。
グルーのおかげで、急激な仕様変更でも強度を保つことができました!
グルーエヴァンジェリスト(自称)として、グルーの布教のためにグルーとグルーガンを解説しながら、蓋のヤモリの作り方も見て行きます。
棒状のグルー……グルースティック(写真では見えない)をグルーガン(写真上)に装填し、引き金を引くことで射出・成形する接着剤です。
本体の「銃口」に近い部分が熱くなって、にゅるん、と出てくる。
特殊な使い方として、これをクッキングシートに絞り出すことで形を作れる……ん……です、けど。
自分で言うのもなんですけど、成形の難易度が異常に高い。
小さすぎて手の震えすら影響するし、息を止めると続かない。
最低限のゆっくりとした浅い呼吸で反動を抑えながら、引き金は使わず、後部の装填部分からミリ単位で押し込んでいくのがコツです。
それでも何本も手足をミスっていて、写真でもミスっていて、胴体をくっつける前に引き剥がしてリテイクする。
……完成度は、何回のリテイクを許容できるか、になります。
また、一定量を絞り出すとグルーガンの温度が落ちるので、少し休憩を入れつつ、加熱されるのを待つのも大事。
胴体部分は引き金の絞り出しで。
……絞り出しでは曲げられなかった。(急激な方向転換は難しい)
なので、強引に曲げに行く。
グルーは10~20秒ほどで完全硬化しますが、硬化後も、一定の熱をくわえると溶けます。
今回は、胴体部分にグルーガンの先端を押し当てて溶かして、ほとんど切断しながら曲げ、ほんの少しグルーを絞り出して途切れた部分をふさぐ。
頭にも追加で盛ります。
そして頭や尻尾などをデザインナイフでカットして、ベースが完成。
写真では、粘土も完成しています。
……両手が塞がるので、粘土と格闘している時の写真はありません。
粘土との格闘中は、泣きそうになった以外の記憶もありません。
裏面。
特に蓋がガタガタですが、これは、形を正確に作るのを諦めて大きめに作っていて、端をハサミで切って形を整えました。
漢字としても、成形と言うより整形というのがぴったり。
この粘土ですが、軽くて、乾燥すると割と丈夫で、ハサミでも切りやすくて……いい所もたくさんあります。
ただ、乾燥が死ぬほど早くて、乾燥を遅らせようと、水を混ぜるとぐちゃぐちゃになり、手が汚れないまでに水分を調整して、これで安心して成形できると思ったら、やっぱり、そこからの乾燥が早くて……う゛ああああああ。(精神汚染)
ガタガタの断面をグルーでカバー。適度に絞り出しつつ、クッキングシートに押し当てて平面を取ります。
これもハサミで整えて完成。写真は整える前です。
グルーは硬化後に、ハサミやカッターで切断できる素材です。(布教)
この後、これをホットプレート(非食品用)に敷いたクッキングシートに載せて、熱することで上のヤモリをくっつける。
……予定だったんですけど。
熱を……くわえる……?
そしたら、今、そこに盛ったグルーはどうなる……?
溶ける。
うん、溶けますよね。
………………。
…………。
……。
この人は、愚かだなあ……。
自分の弱さを、愚かさを、そして無力さを認められる……それがクラフト……。
(人によるかもしれない)
さて。
ヤモリさんをくっつけなくてはいけないわけです……。
一応、当初の予定通りにもできる……。
色々とひどい事になるのを許容できるなら……。(したくない)
……バーナー。
バーナー(料理用)とガス缶(料理用)持ってこい!
焼け。
焼け! 炎は全てを解決する!!
危険思想をいとも容易く獲得できる。それがクラフト。
(本当に人による)
上空の空気を炙りつつ、ヤモリさんの手足と尻尾、それに頭を軽く一舐めずつしていく。
弱いとくっつかず、強いと溶ける。
くたっ……と尻尾が落ち、頭が添い、両の手足も溶け落ちるようにくっついていく。……せっかく、上手くできた部分……が……。
こんな経験をしたかったわけじゃないと思いつつ、「ほら、喜べよ。お前が欲しかったもんだ。『自分が使える技法の引き出しを増やし』たかったんだろ?」と心の中で声がする。
経験は……選べませんね。
出来た……なんとか出来た……。
ヤモリさんの手が成形時より潰れているのは、この時の作業の難易度が高すぎるから……。
……ホットプレートによる下からの加熱ならどうだったかは、分からない。
ちなみに、蓋にも本体にも、蝶番をセットで仕込んでいます。
なお、この蝶番は自作で、紙製です。
黒い紙(0.1mm厚)で、つまようじをくるんと巻くだけで出来ます。簡単。
そういえば、懐中時計の持ち手? ですが、紙巻きワイヤーとグルーです。適当に絞り出すと割とそれっぽく見える。
・塗装
金属風塗装が出来るようになると、芸風が広がる気がします。
これもメラミンスポンジで塗料をポンポンしていくだけ。
乾燥時間は、30分を目安に様子を見て少し増やしたり。
タイマーかけて、他のことをしながらやりましょう。
そして手順……なんですけど。
私の理想は、以下のようになります。
理想の塗装手順
1、黒アクリルをぽんぽんと。
(下地)
2、銀アクリルをぽんぽんと。
(銀っぽさをプラス)
3、水で薄めた黒アクリルでぽんぽんと。
(少し暗く)
4、水性ニス(ウォールナット)をぽんぽんと。
(補強しつつ錆び感を)
5、ネイルのトップコートを塗る。
(補強しつつツヤ出し)
後は、トップコートがツヤありかツヤ消しかにもよります。
ツヤ感を消したいなら、布でこすったり。
4で止めてもいいし、最後は水性ニス(クリア)でもいいですね。
今回は野外撮影を前提にしているので、塗膜を強めにしたい。
現実の塗装手順
1、銀メタリック7:黒メタリック3をぽんぽんと。
(黒すぎた……? と焦る)
2、銀アクリルをぽんぽんと。
(銀っぽさをプラス)
3、思いつきで、黒の油性マジックで模様を描こうとしてみる。
(ダメだった……と後悔する)
4、銀メタリック7:黒メタリック3をぽんぽんと。
(失敗を塗りつぶして再スタート)
5、銀アクリルをぽんぽんと。
(なんとか予定通りになってきた……と安心する)
6、水で薄めた黒アクリルでぽんぽんと。
(少し暗く)
7、水性ニス(ウォールナット)をぽんぽんと。
(補強しつつ錆び感を)
8、ネイルのトップコートを塗る。
(補強しつつツヤ出し)
9、塗膜が溶けて、できそこないの黒の油性マジックが浮かび上がる。
(は?)
……え、いや。……は?
今、何が起きた。
メタリック塗料だけならまだしも、アクリル絵の具が? 溶け? え?
失敗をリカバリーするためには……原因の究明が必要……です。
多分……このトップコート、古めで……。
古くなったトップコートはうすめ液を足して濃度を調整します。
私は、薄く塗りたいのもあって、うすめ液……足しすぎ……てて……。
……「トップコート」ではなく「リムーバー」になっているのでは?
やり直そう。
もう一つ、古くなって濃くなったトップコートがあって。
これを混ぜて、濃度を調整する。
(フラグ)
下地全部が溶けているわけではないし。
(油断)
10、銀メタリック7:黒メタリック3をぽんぽんと。
(気を取り直して再々スタート)
11~13、同じ手順でトップコートを塗る。
(フラグ回収の準備が終わる)
15、やっぱり、塗り直した塗膜が溶ける。
(フラグ回収)
……ああ、うん、なるほど。
一度失敗した計画に固執した私が愚かだったと……いうことか……。
(中ボスの死に様のようなセリフを吐いて当初の塗装計画を破棄する)
16~、残ってる塗料でなんかいい感じに頑張る。
(記憶が曖昧。多分だいたい同じ手順)
20? 30?、水性ニス(クリア)を塗る。
(補強しつつツヤ出し)
無事に塗り終わった。
経過写真、何枚かあるんですけど。
塗膜が取れたあたりから、塗り重ねた回数に対して、枚数が明らかに少ないので、途中で写真による記録を諦めたらしい。
……どれを何回塗ったのかは、思い出せない。
ただ、次からは、似た風合いと強度を、半分以下の手順で実現できると思う。
マスキングテープを剥がす緊張の一瞬。
粘土を盛ったり塗装する間、文字盤はずっとマスキングされていたので、頭の中で完成図を想像しながら作業するしかなくて、『答え合わせ』はドキドキする。
風防は無事で、ほっと一息。
ぺりぺりと剥がして、綺麗なのが出てくるのは楽しい。
仕上げに、一緒に塗っていたつまようじの芯を、スティックのりで蝶番に通して固定します。
・完成!
お疲れ様でした。
しみじみとした気持ちをじっくり噛み締めたり、完成した品を眺めてにやにやしたりしましょう。
私の場合、野外ロケして、写真を整理して、製作記をまとめると終わりです。
これだけの経験が、たった200円! 低予算クラフトは楽しいですね♪
……高い……とても高い授業料を払った……。
今の私は、そんな気持ちでいっぱいです……。
だいたい毎回こういう流れなんですけど。
苦労したことは覚えている……はず……なんですけど。
……ああ、でも、創作は楽しい……ですね。
振り返れば過去は全部楽しかったと言う人もいますが、私は、まったくそんなことはなくて。
辛かったことは、時間の流れで鮮明さが薄れてもなお、辛かったことで。
それは、創作も同じはずなんですけど。
自分一人が無限の責任を負う頭おかしいクソ設計も、辛かった工程も、見当違いだった素材も、ひどいミスも……それら全てを、同じ形では繰り返さないために、記憶に刻みつけるように、こうやって記録してなお。
『完成させた経験』を手にした時、全部をまとめて形容する言葉は、「楽しい」以外には、思いつかないのです。
精神汚染や、心の防衛反応という説もある。
まあ、それはそれとして。
これをここまで読んでくれたあなたが、どこか遠い世界で、姉妹の絆を繋ぐ切っ掛けになったお揃いの、けれど鎖がなくなって、錆が浮いて、針も止まった片割れの懐中時計に、ほんの少し思いを馳せてくれれば、嬉しいです。
――次回からは通常通りで、2章となります。
また、前回のあとがきで「2章では決着まで行く予定です。」と書いたのですが、正式に3章が追加されました。
この『仕様変更』にどういう理由があったのかは……この製作記を読んでくれた方の、ご想像にお任せしたいと思います。
・作品紹介コーナー:「病毒の王」
「病毒の王」は、前作であり、完結済みの長編小説です。(約170万文字)
主人公のマスター(イラスト右のローブさん)と、ヒロインのリズ(イラスト左のメイドさん)の二人が、人類と魔族が絶滅戦争を繰り広げる異世界で、魔王軍最高幹部"病毒の王"とその副官として、だんだんと距離を縮めながら、いちゃあまな日常を目指しつつ戦い抜くお話です。
ざっくりまとめると、ちょっと重めな世界観のファンタジー百合。
感想やレビューによると、シリアス3割:ほのぼの7割。
一応[R15]と[残酷な描写あり]ですが、「妹大好き悪役令嬢は断頭台を目指す」が合った方なら、こちらもオススメです。
もちろん(?)ハッピーエンドなので、どうぞよろしくお願いします。