5 『まだかなあ、まだかなあ。でも待ってるのって楽しいな』
部活がない日だったので、僕は家に直帰して調べ物をしていた。
学校では検索できない。
なぜなら、万が一スマホの画面をのぞかれて、何を調べているのかバレたらとっても恥ずかしいからだ。
『男性』『手紙』
このワードで検索してみると、見事に女性が男性にラブレターを送る記事しか出てこない。
【手紙でオトす!】【男心をつかむワザ!】【男がグッとくる手紙はこう書け!】等々。
違うんだよ……。
『大人の男性』『手紙』
このワードで検索しても、やっぱり年上男性を手紙で落とすための女性向けの極意ばかりがヒットする。
【告白を成功させるラブレターの書き方】【大人のラブレターの書き方】等々。
だから違うんだって……。
やっぱり男が女に手紙を書くなんて、普通じゃないのかもしれない。
ダメ元で『女性に手紙を書く』と検索してみた。
するとやはりラブレターの書き方しか出てこない。
【狙った女をオトす】とかなんとか。
だーかーらー! 違うんだって!
しかも恐ろしいことに【失敗すると超重い】【一歩間違うと超重い】【ドン引き】の文字が続く。
「違うんだって! もっと軽いんだって! もっとライトでマイルドでソフトなやつがいいんだって!」
僕は思わず頭を抱えながら声をあげてしまう。
読み漁ったネット情報では、少なくとも男性から女性への手紙は大失敗する確率が高い。というかほぼ失敗する。僕は情報を吸収すればするほど怖くなってきた。
いや、まあそれは僕が【爆笑&ドン引き。彼からもらったラブレター】とかいう記事を読んでしまったせいなんだけど……。
ちゃんとした便せんを用意すると重いとか、文章が長いと重いとか。ポエムやオリジナルの歌なんかは絶対に送ることなんかないと思うけど、かわいそうなくらいダメだしされていて、僕はなんだか悲しくなってきた。
逆にノートの切れっ端やルーズリーフに書くと、今度は気持ちがこもってないと言われてしまう。もう、どうしろというのだろう。
もう男は手紙を書くなと言われているような気分になってきた。いや、書いてはいけないのかもしれない。ここから先は立ち入り禁止だ。自殺行為だ。早まるな、まだ間に合う。引き返すんだ。
もう自分でも何をどう検索キーワード入力したのか分からなくなってきたころ、ようやく僕が求めている情報にたどりついた。
・・・・・・・
ちょっとした感謝の気持ちを、ブロック付箋にひとことメモ。
お菓子などのプチギフトにつけて渡すと遊び心があってGood。
・・・・・・・
参考例のイラストを見て僕は確信した。
「これだ!」
僕は自分の部屋の中で一人、歓声を上げた。ガッツポーズもしたかもしれない。
ひとこと書くくらいならハードルが低い。そして重くならない。
そしてちづる画伯が好きそうな感じのデザインの付箋を選んでおけば、僕の文章が多少薄くても喜んでもらえそうな気がする。
さっそく僕は付箋を探しに本屋へでかけた。
近所の小さな本屋には、細長い付箋しか売ってなかったので、僕は普段行かない大型店まで足を運んでみた。
「あれ。偶然!」
店に入ってすぐ、まさかのちづる画伯と遭遇してしまった。絶体絶命の大ピンチだ。
「――っな! なんでいるんだよ!」
「画材、見にきたの。美術部ですから。
……そんな嫌そうな顔しなくったって、もう帰ります……」
画伯が本当に悲しそうな顔をしたので、僕は大あわてで弁解した。
「違うって! 嫌とかじゃなくて! 急に知り合いがいて驚いただけだって!」
僕の本気の弁解が通じたのか画伯は笑ってくれた。
「万年筆、見にきたの? ここ、種類いっぱいあるんだよ。インク見る? こっちこっち」
付箋を買いに来たことは内緒にしたかったので、僕は画伯に案内されながら、普段近づいたことのない万年筆のコーナーへ足を踏み入れた。それだけでちょっと自分が大人になったような気がした。
画伯は普段の5倍くらい話をしてくれた。軸のこととか、インクのこととか。
僕にはほとんどチンプンカンプンで、画伯の話している内容は頭にほとんど入っていなかった。
でも、君が顔をキラキラさせて一生懸命話している表情は、今でも鮮明に思い出せる。
インクボトルを見ると、僕はいつもこの日の君のことを思い出すんだ。




