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4 『知りたいってすてき。知らない世界のトビラがひらく』

「おまたせしました。こちらが先日の答え合わせでございます」


 君はそう言って、僕に小さくて細長いラッピングを渡してきた。


「え? もしかしてこれ……僕にくれたりする?」


 生まれて初めて……は、言い過ぎか。

 思春期以降初めて、僕は家族以外の女性からプレゼントをもらったと思う。


「……ラッピングまでしといて、あげませーんとか言う人、かなり人として意地悪な部類だと思いますけど。

 もしかして私のこと、そういう認識だったりするんです?」


 君はふくれて僕を睨む。でも僕は、君が本当に怒ってないことがなんとなく分かる。

 一緒に帰りながら話をしているうちに、少しずつ僕は君のことが分かるようになっていた。そう思っていた。


「いえ! 滅相もございません! 恐れ多くも偉大なる画伯(がはく)からの(たまわ)りものがあるなんて! いただいてもよろしいですか!」


「うむ。受け取るが良い」


 わざとこういう、ふざけたやり取りをするのを、君はとても喜んだ。

 なんとなく僕たちには少女マンガみたいな甘ったるい展開は似合わない気がした。


 僕たちは、少しずつ仲良くなって言ったけれど、でもつきあったり、彼氏彼女になるような雰囲気はまだなかった。


 たぶん、ならないようにしていたのかもしれない。




 僕たちは公園のベンチに座った。お互いのあいだを、人が一人余裕で座れるくらいの間隔をあけて。


 そこでプレゼントを開封する。


 シックなメタリックブルーの、ちょっと高級感のある太めのペンが入ったケースを見て、僕は言葉が出なかった。


 すごく大人っぽくて、クールで、ドキドキした。


「私は藤色の、持ってるんだ」


 ちづるがぽつんとつぶやいた。

 つまり、色違いのおそろいだ。


 僕がケースからペンを取り出すと、小さな付属品が一緒に落ちてきた。


「それ、インクカートリッジ。付属のインクは普通の黒だけど、最初はそれ使って書くの練習してみて。別売りのインクカートリッジには、もっと素敵な色があるの。

 私がいつも家で使ってるのはボトルインクの方なんだけど、初心者のうちはカートリッジの方が絶対におすすめだから……」


 僕に知識がなかったせいで、君がなにを言っているのかよく分からなかった。

 僕の顔を見て、君は「まだ分からない?」と笑った。


「万年筆。本物みるの、初めて?」


「万年筆? それってすごく高いんだよね? 一万円以上するから万年筆って言うんだよね? も、もらえないよ!」


 驚いて万年筆をケースにしまおうとする僕をみて、君は珍しく声を上げて笑った。


「あはは! なにその由来、初めて聞いた! 大丈夫、初心者用のだから、全然高くないよ。油絵の画材よりずっと安いやつだから気にしないで。

 それによく見てよ。名前が入ってるでしょ。だからもう返品には応じられませーん」


「え?」


 驚いて万年筆を見てみると、筆記体で僕の名前が刻印してあった。


 すごくかっこいい。なんだか急に大人の男になってしまったような気がした。


「すごい……超かっこいい。マジ絶対明日からこれ使う」


「じゃあ、次の金曜日までにそれで私に手紙書いてください。お礼はそれで許してあげます」


「え? なにそれ無理! 僕、字が下手だからそれは勘弁!」


 でも君はすました顔で、まったく取り合ってくれない。


「万年筆は使わないとインクが詰まりやすいし、書き慣れていかないと上手に書けないのです。大事なのは1に練習、2に練習。3,4も練習、5に練習です!」


「え? ちょっと待って! なにその万年筆道的なやつは! そんなにスポ根なの?」



 そのあと君は僕にたくさんの注意事項を教えてくれた。


 繊細な万年筆の、正しい使い方を。


「好きな女の子と同じくらい優しく取り扱ってくださいね」


 君はそう言って笑った。


 それは、どういう意味なんだろう。


 僕は君の言葉の裏を探ろうとしたけれど、もしかしたら、深い意味なんてなかったのかも。


 たしかに万年筆はボールペンと違って手入れが大変だった。




 今でも僕は、万年筆の手入れをするときに、君のことを考えるよ。


 え? 違うよ。君だったらどんな感じで手入れをするのかなって、そういう意味でだよ。


 残念だった?





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