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3 『ひとりで見るより二人で見たほうがいろんなことに気づけるね』

 最初の絵手紙から数えて、5通目をもらった。


 いつも文の最後に『ちづる』とサインがあるので、僕は油断するとつい、ちづると名前で呼んでしまうことがあった。


 でも正直、僕は彼女でもない女子を下の名前で呼ぶのは抵抗があって嫌だったので、意識的に『画伯(がはく)』と呼ぶように心がけていた。


 思わずちづると呼んでしまっても、あとに画伯を接続することによって、『女子の下の名前呼び(ざい)』のようなものが相殺されると僕は信じていた。


「ねえ画伯、このペンってどこのやつ使ってるの?」


 絵手紙の文字を見ながら尋ねた僕に、ちづる画伯はニヤリと笑った。すごく嬉しそうだ。どうやら僕に訊かれるのをずっと待っていたらしい。


「ふふふ、さあ問題です。私が使っているペンはどんなペンでしょうか?」


「え? 普通に売ってるゲルインクのボールペンじゃないの?

 もしかして美術部ルートじゃないと手に入らない系だったり? あちこちで探してるんだけどさ、どこに売ってる? Amasan? 爆天?」


「んふふ~。ブブー! 違いまーす」

 画伯はとても楽しそうだ。


「そうですか〜。私とおんなじペンが欲しいんですね~。おそろいにしたいんですか~。それで探してるんですか~」


 画伯は手を後ろに組みながら、僕を見上げた。どこか勝ち誇った顔をしているように見えるのは僕の気のせいだろうか。


 おそろい。


 そんな言葉を突きつけられ、僕は急に恥ずかしくなった。


「違うって! おそろいとかじゃなくて! 書きやすそうだから気になっただけだよ。

 インクの色も……普通の黒とちょっと違って……そう! なんかクールな感じだから! 他にもどんな色があるか気になるっていうか……っ」


 女子とおそろいの文房具だなんて、そんなリア充イベントが僕の人生に起きるわけがない。もしそんなことしたら天罰が下るに決まっている。


「でも、それでもし気に入って買ったんなら、おそろいになりますよね! 違いますか?」


 ちづる画伯は犯人を追い詰める名探偵のような風体(ふうてい)で僕を指さした。


 くそ! 僕は犯人じゃないぞ!


 僕は『女子とおそろいにしちゃった(ざい)』でも『おそろいリア充を想像しちゃった(ざい)』なんかでも捕まるつもりはない!


 純粋に書き味のよいペンを探しているだけで、やましい気持ちなんかひとかけらもない! これは濡れ衣だ!


 うっかり「色違いだね」なんて盛り上がる気持ちなんて1ミリも……ない……はず。

 ないけど……。でも……なんだよ! 考えたっていいじゃないか!

 なんだよ! リア充を想像するくらいいいだろ! 誰にも迷惑かけてないじゃないか!


 僕は勝手に自分にキレていた。そして画伯にはあっさり降伏する。


「……いや、まあそれはそうだけどさ。そんなことより降参! 参りました! どこで売ってるペンなのか教えて下さい!」


「え? もう降参? 早すぎです。もっといっぱい考えてください。

 では宿題にします! 次の金曜日まで!」


 結局、君はそのあと僕がどんなに質問しても答えてくれなかった。




 君の口は本当に固い。


 いま思えば、君はあのころからずっと、僕に隠しごとをし続けるつもりだったのかな。


 君はいつから……。


 いや、もうそんなことはいいんだ。気づけなかった僕が悪いんだから。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 『気づけなかった僕』 気になるじゃないですか!
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