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10 拝啓 僕の敬愛する画伯さま

 木々の緑が目に染みる今日このごろ、画伯はいかがお過ごしでしょうか。


 なんて書くと、君は堅苦しいってお説教しそうだね。


 大学の中庭がさ、いまちょうど、君が初めてくれた絵手紙みたいに緑があふれててさ。

 それをちょっとかっこよく手紙で書きたかっただけなんだ。


 ……ダメだったかな? 背伸びしすぎたかな?


 まあ、いいや。本題、本題。


 君がくれた万年筆、調子いいよ。

 この手紙も、もちろんこれで書いてる。


 もらったインクボトル、せっかくだからいろいろ使ってみたくて、けっこう良い値段のする万年筆を買ったんだ。カートリッジとボトルインクの兼用タイプなんだぜ? すごいだろ。


 だけどさ、けっこう管理が大変なんだよね。

 さっそく僕の手入れが悪くて、使えなくなっちゃったんだ。インクもれってやつ? 今修理中だよ。超ヘコんでる。


 やっぱり君が選んでくれたやつが一番使いやすい。

 初心者用だもんね。どうせ僕はまだ初心者だよ。


 そうそう、ボトルインクの万年筆を買うために始めたバイトがさ、家庭教師なんだけど、そこで教えてる子が、僕の万年筆に興味を持ってくれてね。なんかすごく嬉しかったんだ。


 君も、僕がなんのペン使ってるかって聞いたとき、すっごい嬉しそうだったね。


 それとも、もしかして君の方こそ、僕とのおそろいがしたかっただけだったりして。




 ありがとう。

 いろいろ教えてくれて。


 ありがとう。

 いつもきれいな言葉をくれて。


 ありがとう。

 あったかい文字を届けてくれて。








 ここまでは感謝。


 あとは文句を書くから、ちゃんと最後まで読むように。


 手紙、たたむなよ。
























 ちづる。


 僕はきれいごとを書いた手紙なんかより、ちづるの口から本当の言葉が聞きたかったよ。


 病気のこと、どうして言ってくれなかったんだよ。


 つらいとか、苦しいとか、怖いとか、どうして僕に言ってくれなかったんだよ。


 僕じゃ君の支えにならなかったってこと?



 それともきれいな言葉を吐いて生きるっていう宣言を守りたかっただけ?


 くだらないよ、そんなの。

 すごく、くだらない。




 君が僕にくれたきれいな言葉は、本当の自分を隠すためのものだった?


 いいじゃないか、弱音を吐いたって。

 いいじゃないか、余裕がなくて人に当たったって。

 泣いたって。

 怯えたって。

 死ぬのが怖くたって。

 そんなの当たり前じゃないか。


 ちづるは人間なんだから。



 本当はもっとたくさん文句があるけど、僕は手紙でなんか気持ちは全部伝わらないって思ってるから、必ず君に直接文句を言いに行くよ。


 今度はきれいごとじゃなくて、本音で話し合おうよ。


 だから、僕がそっちに行くまで逃げるなよ。


 そう、僕は怒ってるんだ。


 


 だから君のところにこの手紙が届くころには、ちょっと冷めて、36.6℃くらいの適温の文字になってるんじゃないかな。


 大事なとこだからもう一回書くけど、僕は怒ってるんだからな。



 だから敬具なんかで結んでやるもんか。





































PS ごめん。ちづるに怒ってるんじゃない。

書いててだんだん分かってきた。


僕は、臆病な自分に腹がたってて。


君が本当のことを隠そうとしてくれるくらい、自分が弱い人間だったことが悔しくて。


もし僕がそっちに行くころには、きっと、ちゃんとした大人の男になってるはずだから。


どうかちづるの本当の気持ちを教えて下さい。




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