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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛系 作品いろいろ

婚約破棄から始まる破滅

作者: 四季

 フェミーアの王女である私——ミルネア・フェミーアには、まだ小さい頃に決められた婚約者がいる。


 その婚約者とは、隣国の王子の一人である。


 名はカルビ。

 少々個性的な名前ではあるけれど、正真正銘その国の王の子だ。


 私と彼は齢十にも満たない頃から将来結婚することになっていた。そして、そのことがあるからと、何度か顔を合わせる機会があった。


 カルビは若干頼りない雰囲気だが、性格には特に問題はない。まったりした笑顔が印象的な、穏やかで害のない人物であった。


 私たちは友だちのように交流を重ねてきた。


 彼と過ごす時間はそれなりに楽しい。不快感はない。互いの情報を交換したり、ゆっくりお茶を飲んだり、そこそこ良い関係を築けている——つもりでいた。


 でも、それは私の勝手な思い込みだったのかもしれない。


 ◆


「ミルネア、婚約を解消してほしいんだ」


 ある日突然彼からそう告げられた。


 最初は何が何だか分からなくて、ただ愕然とすることしかできなかった。

 だって、直前まで、彼の様子はおかしくなかったのだ。これまでと何ら変わりなかったのだ。それなのにいきなりこんなことを言われるなんて。そんなものは、到底理解できる話ではない。


「そんな……どうしていきなり……?」


 仲良しだった。

 心を通い合わせることができていると、迷いなく信じていた。


「実は、その、僕には恋人がいるんだ」

「恋人……?」

「そうなんだ。彼女はとても優しくて美しい。僕は彼女が好きなんだ」


 あぁ、そうか。

 彼は私のことなんて見てはいなかったのか。


 共に過ごす時間が長くても、好意が芽生えると決まったわけではない。私たちの間の絆は、最初から育ってなんかいなかった。私たち二人は特別ではなかった。


「本当の恋に目覚めたら、もう戻ることはできない。やっと気づいたよ。僕は君と生きる道は選ばない——悪いけど、もう決めたんだ」


 カルビには優しさがあった。でも嬉しいものではない。こんな時に優しさを見せられても、残酷さとしか捉えられない。優しいな、なんて、どう頑張っても思えないのだ。


「そう……」

「分かってくれるかい?」

「……寂しいわ」

「ごめん。本当に」


 謝らないで。

 こんな時に謝られても、こちらが惨めになるだけ。


「いえ、いいの。貴方は貴方の人生を行けばいい。でも、婚約はどうするつもり? 国同士の契約よ」


 私は王女、彼は王子、そしてこの婚約は国と国の契約。

 一般市民の婚約とはまったくもって別の類の話だ。


 少しばかり話し合って婚約を解消すれば済む、という簡単な話ではない。


 無論、一般市民同士の婚約だってそんな簡単なものではないだろうけど。


「一歩間違えれば揉めるわ」

「そうだね。何とか考えるよ、平和的に解決する方法を」

「……その方がいいわ」


 彼には彼の人生がある。

 彼が愛する人は彼が決めればそれでいい。


 ただ、この婚約を解消するということは、私たち二人だけの問題ではなくなるということでもある。


 きっとこれは嵐の幕開けとなる——そんな気がした。


 ◆


 私とカルビの婚約が解消されて半年。

 フェミーアと隣国の関係は最悪なものへと変化していた。


 私は生まれた国へ帰って王女として暮らしている。色々なことを勉強したり慈善活動のようなものに参加したり、経験を増やしているところだ。


 隣国との国境は閉ざされた。

 今は国内で様々なものに触れ学ぶしかない。


 ◆


 婚約破棄からちょうど一年が経った日、フェミーアと隣国の戦争は幕開けた。


 かつては友好国だった。行き来も盛んで、それぞれの文化を尊重しつつも親しく交流を続けていた。けれども今は違う。両国の関係はすっかり様変わりしてしまった。


 悲しく思うことはある。

 良き友のような国であったのに、こんな風になってしまったことを。


 それでも運命には抗えない。定めを変えることもできない。一度進み出してしまったら、もう止めることなどできやしないのだ。


 無力感を覚えつつも、ただひたすらに生きる。


 私にできることはそれしかない。


 幸せだった日々はもう戻らないけれど、今は今の幸せがある。今この手のうちにある幸せを失わずに済むように努力する——それだけが今できることだ。


 過去に執着しても意味がない。


 想うなら、未来を。


 ◆


 数年が経ち、戦争は終わった。


 失ったものは少なくない。が、フェミーアは負けなかった。すべてを失うという最悪のパターンだけは避けることができた。


 だがカルビは落命したそうだ。

 戦火に包まれた城内で静かに息を引き取ったらしい。


 亡くなる時、カルビは妻と共に城の自室にこもっていたそうだ。


 ちなみに、その妻というのは、あの時言っていた恋人のことである。彼女は王の血を引くカルビを差し出すことで死から逃れたらしい。


 だが、調査が進むにつれて、闇が露わになってきた。


 カルビの妻となった彼女は、かつて、カルビに大きなお金を貸していたことが発覚した。また、それをいつも脅しの種として使っていたらしい。私との婚約を破棄するよう迫った際にも、それを持ち出していたとか。


 ちなみに。


 彼女は、カルビの死後彼が所持していた金庫から大量のお金を盗み出したという罪で、身柄を拘束されてしまったそうだ。


 現在は罪を償っているところだろうか。

 彼女に関しての情報は少ないけれど、きっと、それなりには苦労していることだろう。


◆終わり◆

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