つどいし冒険者たち
自動販売機の前には、お人形さんがいた。
お人形さん……のようにちっこくてかわいい山岸誓子は私の姿を認めると、ぴょんこぴょんこと嬉しそうに小ジャンプした。
「剣子さん、いいところに来ましたね! おサイフ忘れたのでおごってください! クケーケケケ! 大人しく有り金置いて行くなら金と体だけで勘弁してやるぜェ~~~!! じゅるりっ!!」
ハハハ、(喋らなければ)かわいいやつめ。
かわいいのでブレインクローした。
「いたいいたいいたい! 動物虐待反対!」
私なりに全力を込めてはいるが、手が大きくないし握力もないのでそんなに痛くないと思う。そしてこの女、自分を畜生扱いすることにためらいが無さ過ぎる。
「べろべろー」
うわ、こいつ腕を舐めようとしてきやがった! ばっちぃ!
パッと手を離すと、誓子は乱れた前髪を直しながら、上目使いで私に抗議の視線を投げかけた。
「ちぃぃっ、剣子さんは美少女にジュースをおごってあげたいという人としての気持ちが欠けている餓鬼畜生のようですね?」
「え、なんで私、自分を畜生扱いしている追いはぎにジュースをおごるのを拒否しただけで、舌打ちされた上に餓鬼畜生呼ばわりされたの? 貸すならいいけど」
「じゃあお金貸してください、利息は美少女の笑顔で」
お金は貸してあげた。誓子はにっこり微笑んだ。
そして、自称美少女をパーティに迎え、私たちは約束の場所……美術準備室へと向かった。
※
美術準備室には先客がいた。
その女……景山朔子は私たちが来ることを予期していたかのように、こちらを向いて、悠然と椅子に腰かけていた。
そして、室内への侵入者の姿を認めると、よどみない動作で足を組み替えて、言い放つ。
「ふふふ、約束通り1人で来たようね」
「くっ……人質は無事なんだろうな!?」
「もぐもぐ」
乗っかってみたけど、約束していたんだから予期していたのは当然だったし、来たのは1人じゃなかったし、人質はメロンパンを食べていた。
「いや、1人じゃないですし」
「あら居たの、山岸さん。お茶汲み人形かと思ったわ」
「こいつをただのお茶汲み人形だと思うと痛い目を見るぜ」
「お茶は汲むより汲まれたい! 愛するよりも愛されたい!!」
言ってることはよくわからないけど、誓子の発言にはいちいち強い信念を感じる。
「もぐ……こんにちは、剣子さん、誓子さん」
軽いロールプレイのジャブの応酬をしている間に、人質……安瀬りかはメロンパンを小さな口の中に納めていた。
かわいい。
お人形のように可愛いという形容は、お茶汲み人形ではなく、安瀬りかにこそ相応しい。
下手に触れて壊れでもしたら大変だからブレインクローなんてできない。
その可愛さのあまり、私なんかは常日頃からりかちゃんにジュースをおごってあげたいと思っているくらいだ。
「剣子さん、剣子さん、今何か私に対して間接的に失礼なことを考えていませんでしたか?」
「うるせえぞ、茶ぁでも汲んでろよお茶汲み人形」
「汲むより汲まれたい!」
「後は夏木さんとハワードさんね。2人とも同じクラスだから、一緒に来そうだけれども」
朔子が頬に人差し指を当てながらそう言うと、廊下の方から足音が聞こえてきた。
それに気づいた朔子は、悠然と足を組み、扉に向き直る。
私と誓子は朔子の両隣に立って腕を組んだ。
「あれ、ワタシたちが最後デスか」
「フフフ、約束通り1人で来たようね!!」
「いや、1人じゃねえし……」
教室に入ってきたのはアッシュブロンドの髪をツーテールに束ねた美少女と、黒っぽい眼鏡女だった。
黒っぽい眼鏡女……夏木甘夏は大してずれていない眼鏡の位置を直す動作をしながらツッコミを入れてくれた。
「おうおう! 約束のブツは持ってきましたか!?」
「そうだそうだ!」
誓子の三下RPが冴えわたる。私は適当に便乗する。
「忘れちゃいねえゼ……こいつがテメエラへのプレゼントだ!! バラタタタタタ!! ヒーハハハハ!!」
「ウワー! 死にましたー!」
「弁慶の仁王立ち!」
ツーテールの美少女……メイ・ハワードが通学かばんをマシンガンに見立てて斉射してきたので誓子と私は死んだ。
「死ぬときに『うわー死にましたー』って言う奴はいないだろ」
甘夏が誓子に突っ込んでいる。やさしい眼鏡だ。
「ねえねえ、私も『そんな奴はいねえ』って突っ込んでほしいんだけど」
「弁慶はするだろ、死ぬときに仁王立ち」
確かに。
パンッ パンッ
乾いた銃声ではなく、手を叩き合わせる音がして、全員の注目が朔子に集まる。
「茶番はこれくらいにして、みんな集まったからはじめましょうか。今日のセッションを!」