66. side リアム
少し遅れて練習場へ行くと皆がソワソワしていて落ち着きが無かった。
「何かあったのか?」
「リアム、可愛い女の子が見学席に居るんだよ!!」
見学席へ目をやるとちょうど帰る所だったみたいで立ち上がりこちらに背を向けていた。
ストロベリーブロンドの後ろ姿が、あの子と重なる。
母上に連れていかれた孤児院に居たお転婆な女の子。
いつも俺の後を付いてきて少し泣き虫な所が可愛かった。
あれは……。
ストロベリーブロンドの彼女を素行があまり良くない後輩数人が取り囲んでおり、すぐに駆け付けると彼女は小さな肩を震えさせていた。
「怯えているではないか!!お前達はもう一度、騎士道を学び直せ!!」
彼女の前に立つと奴らは苦虫を噛み潰したような顔をして去っていった。
「リアム様…」
「ダイアナ…?」
振り返ると孤児院で俺と一緒に走り回っていたお転婆で泣き虫なあのダイアナが美しく成長して目の前に立っていた。
言葉に詰まっているとダイアナは大きな瞳を潤ませてポロポロと涙を溢した。
「ダ、ダイアナ…怖かったな…申し訳ない、あいつらにはちゃんと言っておくからな…」
昔のように抱き上げる訳にもいかず困っているとダイアナは泣き止んで笑いだした。
「ふふふ」
「ダイアナ?」
「リアム様、失礼致しました。もう大丈夫です」
「貴族に引き取られたと聞いていたけど見違えたな…」
ダイアナは、立ち振舞いも所作も洗練された立派な貴族令嬢に成長していた。
昔の癖でダイアナの頭を撫でると頬を赤らめて見つめてきた。
さっきまで泣いていたダイアナの瞳は涙で潤んでいて思わず目を逸らしてしまった。
「ダイアナは何か用があってここに来たのか?」
「あの……」
ダイアナは困ったように眉を下げた。
俺には言いにくい理由があるのかもしれない。
「おいで出口まで送るよ」
ダイアナの手を引いて練習場を後にした。
出口までと言ったのにダイアナの手を離したくなくて彼女の馬車まで連れていった。
「ダイアナ、騎士科にはあまり来てはいけないよ」
騎士科は男子生徒しか居ない為ダイアナにはあまり近づいて欲しくない。
さっきのように素行が良くない生徒も少なくはない。
ダイアナを送り届けるとすぐに背中を向けてしまった為この時、彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた事に気付くことが出来なかった。




