37.side クリス
一目惚れだった。
でも彼女の隣には、もう婚約者が居た。
リオネル・ルグラン
ただ魔力量が多いだけの頼りない男、俺のライバルですら無い男、そう思ってた…。
でも学園で再会した時、圧倒的な力の差を感じた。魔力暴走を頻繁に起こす頼りない男の姿は何処にも無かった。
「はい、クリスの分だよ」
殿下は俺の手にマフィンを握らせた。
「レティシア嬢の手作りなんて二度と食べられないかもよ?」
レティシア嬢の手作りのお菓子…。
思わずじっと見つめてしまう。
殿下は俺の気持ちに気付いているのだろうか…?
「夜会で見た時も美しかったけど太陽の下で見るとより美しいね彼女は」
思わず同意してしまいそうなるのをぐっとこらえた。
「リオネルの婚約者じゃなければなぁ」
殿下がポツリと独り言の様に呟く。
リオネル・ルグランの婚約者じゃなければ……それは何度も思った事だった。
きっと殿下も思っているのだろう、彼女と先に出逢っていればと…。
リオネル・ルグランより先に彼女と出逢っていれば、あの華奢な肩を抱き締めていたのは自分だったのかもしれない。
「クククッあの時リオネル絶対に起きてたよね」
あの時と言われて顔が強張る。
レティシア嬢が寝ているルグランに口づけをしているのを殿下と目撃していたのだ。
彼女の細い指先に頬をなでられルグランは少し赤くなっていた。
彼女の心は既にリオネル・ルグランの物なのだと思い知った。
「殿下が望めばレティシア嬢と婚約できるのではありませんか?」
俺にはムリでも殿下なら簡単に彼女をリオネル・ルグランから奪える。
「そうだねぇ、でもリオネルに恨まれたくないし…レティシア嬢も心を開いてはくれないだろうしね…」
殿下は「ふぅー」っと溜め息をついた。
殿下と別れて一人になるとレティシア嬢の作ったマフィンを取り出した。
一口食べると、優しい味がした。
彼女の微笑みのような優しい味…。
誤字報告ありがとうございます。




