32.side リオネル
ペンダントの光に気づいてすぐにレティシアへ呼び掛けたけど返事がない。
それでも彼女がペンダントを握りしめているのは間違いないようで淡い光を放ち続けている。
レティシア…?
すぐ彼女の元へ転移すると、真っ青な顔をして床に倒れていた。
「レティシア!!」
レティシアの胸元に黒い靄が見える。
これは…黒い呪い…?
すぐにレティシアを抱き上げると彼女の目蓋がゆっくり開いた。
「もう大丈夫だよ」
レティシアをベッドへ寝かせてペンダントを握り魔力を流し込む。
まさか呪いをかけてくるとは思わなかった。術者には何十倍にもして丁寧に送り返した。レティシアが受けた痛みを味わわせてやる。
俺の大切な婚約者に手を出したのだからそれぐらいの覚悟はあるだろう。
「レティシア?」
顔色は良くなってきたけど、まだ息が上がっている。
「もう…大丈夫…です」
俺を安心させるように彼女は微かに微笑んだ。しばらくして呼吸が整ったレティシアが身体を起こすとすぐに抱き締めた。
「他に痛い所はない?」
「もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
「迷惑なんかじゃないよ。また何かあったらすぐに呼ぶんだよ」
「分かりました」
レティシアのペンダントに黒い呪いを跳ね返すだけの魔力を流し込んだ。
「リオネル様、もう少し一緒に居て下さいますか?」
不安げな彼女の瞳に胸が苦しくなる。
レティシアが狙われたのは俺にも責任がある。
「レティシアが安心するまで側に居るよ」
俺の胸にしがみついた華奢な肩を優しく抱き締めた。
「何があっても必ず俺が守るから」
思わず抱き締める腕に力が入る。
「リオネル様…あの胸の痛みは何だったのでしょうか?」
レティシアが不安なのも分かるが呪いをかけられているなんて言われたらきっと彼女は動揺する。何とか誤魔化せないかと言葉を濁すとレティシアは教えてほしいとお願いしてきた。
正直に呪いの事を話すとレティシアは震え出した。強く抱き締めて冷たい彼女の身体を何度も擦る。
「私、恨まれる様な事をしてしまっていたのですね…」
「呪いをかけた相手には見当がついてる。レティシアに非はない。ただの逆恨みだよ」
術者に見当はついている。
黒い呪いなどそう簡単にかけられるものではない。
泣き出したレティシアを抱き締めながら絶対に許さないと誓った。




