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「支えているから怖くないよ。目を開けてごらん」
そう言われても怖くて目を開けられない。
リオネル様にしがみつく手にさらに力を入れてしまう。
リオネル様が案内したい場所は馬車では行けない所らしくて馬に乗っています。
馬に乗るのは初めてだから怖くてたまらない。
リオネル様がしっかり支えてくれているのだけど私は、しがみついて目を固く閉じている。
「レティシア、着いたよ」
リオネル様にしがみついたまま、ゆっくり目を開けるとリオネル様と視線が重なる。
「俺じゃなくて景色を見ないと」
リオネル様が笑う。
ゆっくり辺りを見渡すと…。
「え…?」
「この時季になると咲くんだよ」
これは…桜の木?
辺りは一面、ピンク色の世界だった。
まさか桜の木があるなんて…。
気付くと視界が滲んでいて涙がポロポロと零れ落ちていた。
リオネル様が慌てて私の涙をハンカチで拭う。
「レティシア?」
「嬉しくて……」
桜の木が見られた事も、この場所にリオネル様が私を連れて来たいと思っていた事も全てが嬉しい。
私の涙が止まるとリオネル様は馬から下ろしてくれた。
本当に見事な桜の木。
風に舞う花びらが美しくてまた涙が零れ落ちそうになる。
「レティシア…」
リオネル様に後ろから抱き締められ、振り返ると心配そうに私を見ている。
リオネル様を安心させたくて微笑むとさらに強く抱き締められた。
突然、泣き出したからリオネル様を不安にさせてしまったのかも…。
リオネル様が用意してくれていたシートに並んで座り桜を眺める。
リオネル様が少し眠そうなのが可愛い。
私の膝をポンポンと叩いて膝枕を勧めるとリオネル様は素直に頭を乗せた。
リオネル様の頭を撫でていると小さく寝息が聞こえてきた。
リオネル様に舞い落ちる桜の花びらを、そっと払いのけているとリオネル様がフフフッと笑いだした。
「くすぐったい」
「ごめんなさい。起こしてしまいましたね」
「構わないよ。夢の中にもレティシアが出て来て夢か現実か分からなくなってたよ」
私の夢?
「どんな夢を見ていたのですか?」
「とても美しい夢だったよ。レティシアが真っ白いドレスを着てピンクの花びらが辺り一面舞っていて…」
白いドレスって……。
自分の頬が赤くなるのが分かる。
「世界で一番キレイな花嫁だった」
起き上がったリオネル様が私の頬を優しく撫でる。
「正夢にしてくれますか?」
「もちろんだよ」
リオネル様が私を強く抱き締めた。
誤字報告ありがとうございました。




