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夕飯の後、リオネル様と一緒に部屋へ帰ろうとしていると…とても元気な女の子がやって来た。
「リオネル様っっ!!」
女の子は、リオネル様に勢い良く抱きつこうとしたけど直前で避けられ、目標を見失い壁に激突した。
「きゃぁぁぁ」
い、痛そう……。
床に倒れている女の子にリオネル様は涼しげに声をかけた。
「やぁメアリー、来なくて良いと言っているのに今回も来たんだね」
「リオネル様、酷いです!!」
女の子は鼻の辺りを摩りながらリオネル様に手を貸して貰うのを待っている様だった…。
誰、この子?
リオネル様は気にせず私の手を引いて歩き出す。
え?放っておいて良いの?
思わず振り返ると…女の子はリオネル様を睨み付けていた。
え…?
部屋へ戻っても、あの子の事が気になって仕方ない。
聞いても良いのかな?
「彼女は使用人頭の娘で、子供の頃に遊び相手として紹介されてから勝手に遊びに来る様になったんだよ」
子どもの頃から?
「そんな顔しなくても彼女とは何も無いよ」
リオネル様が私を抱き寄せると隣に座らせた。
「嫌々、来ている相手に好意を抱く訳無いだろう?」
「え…?」
「初めて逢った時の嫌そうな顔、まだ覚えてるよ」
リオネル様は可笑しそうに笑いだした。
「レティシアが凄く可愛かったのも覚えているよ。初めて手を繋いだ時の事も…」
リオネル様が私の指に自分の指を絡ませる。
「俺は君の可愛い笑顔に一目で恋に落ちたんだよ」
恥ずかしくてリオネル様の胸に顔を埋めると頭を優しく撫でてくれた。
「明日は早いから、もう寝ようか?」
小さく頷くとリオネル様に抱き上げられてベッドに運ばれた。
リオネル様の腕の中は温かくてすぐに、うとうとしてくる。
ーコンコンー
ぼんやりする頭でノックの音を聞いているとリオネル様がベッドから出ていった。
こんな時間に何かしら?
「レティシア様が、お部屋にいらっしゃいません」
私…?
「彼女なら、此所に居るよ」
こんな時間に私の部屋を訪れると言う事は急ぎの連絡?もしかしてランベール家に何かあった?
慌てて上着を羽織るとリオネル様の元へ急いだ。
「私に何か用でしょうか?」
リオネル様の横から顔を出した私を見て使用人は驚いた顔をしてしどろもどろに答えた。
「あ、いえ…特には……」
特にはって…用も無くこんな時間に私の部屋に行ったの?
ルグラン家の使用人だけど…不信感を抱いてしまう…。
リオネル様も同じ事を思っていたのか「用がないなら」とドアを閉めた。
「レティシアは何も心配しなくて良いよ」
再びリオネル様の腕の中で眠りに就いた頃には時計の針は深夜を指していた。
翌朝、私に好意的だった使用人達が何だかよそよそしい気がした。
私の気のせい?
優しかったメイドも何だか素っ気ない。
私、何かしたかしら?




