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とんでもない事を言ってしまったのかもしれないけどリオネル様は帰れないのだから仕方ないじゃない。
そう仕方ないの。
困っている婚約者を家に泊めても何もおかしくない。
橋が復旧するまでどれくらいかかるのかしら?
それまで一緒?
「俺が帰れないのがそんなに嬉しい?」
表情に出ていた様でリオネル様が私の頬を撫でる。
「ごめんなさい。不謹慎でした」
「いや、急いで帰る用事も無いし、俺も堂々と側に居られて嬉しいよ」
えへへ。
リオネル様の胸にぎゅっと抱きつくと優しく抱き締め返してくれた。
夜も更けてくると流石にエマから注意が入った。
「リオネル様、そろそろお部屋にお戻り下さい」
「そうだね、そろそろ戻るとするか。レティシアお休み」
リオネル様が額にキスをして私から離れようとしたので思わず手を握ってしまった。
「リオネル様、甘やかしてはいけません」
エマがいつになく厳しい……。
「レティシア、明日また一緒に過ごそうね」
私の頭をポンポンと撫でてリオネル様は部屋から出て行ってしまった。
もっと一緒に居たかったのに…。
ベッドに入っても何だかソワソワして寝付けない……。
リオネル様、もう寝ちゃったかな…?
ペンダントを握ろうとして手を止める。
もし眠っているのを起こしてしまっては申し訳ない…。
私はベッドから出ると音をたてないように、ゆっくりドアを開けて足音に気を付けながら足早にリオネル様が使用している客間へ向かった。
眠っていたら引き返せば良い。
眠っていたら気付かないくらい小さな音でノックをすると、ゆっくりドアが開いた。
「リオネル様…」
ぎゅっと抱きつくとリオネル様は困惑しながら部屋に入れてくれた。
「どうしたの?」
「もう少しだけ一緒に居たいです」
リオネル様の、ため息が聞こえてくる。
「エマに怒られるよ?」
「その時は、一緒に怒られて下さいませ」
リオネル様は、もう一度ため息をつくと頭を撫でてくれた。
「俺が断れないの分かっててしてるでしょ?」
「そんな事、無いです」
「君は本当に困った子だね…」
リオネル様は私を抱き上げてベッドに運んでくれた。
「怒られる時は一緒だからね…?」
「もちろんです」
リオネル様の腕の中は温かくて寝付けなかったのが嘘みたいにウトウトしてきた。
「早朝、部屋に戻るんだよ?」
「分かってます……」
エマに見つかる前に部屋に帰れば問題無し…。
「お休みレティシア」
リオネル様が額に口付けをすると私は眠りの世界に落ちていった……。
「レティシア、起きて」
んー?
もう少し寝てたい……。
「レティシア…?」
リオネル様の声がする。
ゆっくり目蓋を開けるとリオネル様と視線が重なる。
「そろそろ部屋に戻らないと…」
リオネル様の声を聞きながら夢と現実の間を行ったり来たりしていると部屋をノックする音が…。
リオネル様は私の頭の上までシーツをかけるとドアへ向かった。
もう少しだけ眠りたい…。
突然、勢いよくシーツを捲られると…エマの声がした。
「レティシア様、ここで何をなさっているのですか?」
さっきまで起きれなくてもぞもぞしていたのが嘘のように一気に目が覚めた。
ニコニコしているけどエマから殺気を感じる……。
怖い…。
「ね、寝ぼけてベッドを間違えたのかな……?」
えへへっと笑って誤魔化そうとするけど……。
「レティシア様…?」
「ご、ごめんなさい」
「リオネル様も甘やかしてはいけませんと言いましたでしょう?」
朝から二人でエマに怒られてしまいました。
「さぁ、他の使用人に見つかる前に部屋に戻りますよ」
エマに引きずられるように部屋に戻ると朝食の時間まで延々と説教されました。
エマ怖い……。




