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リオネル様が帰った後も胸の痛みは消えなかった…。
リオネル様には心配させたくないから黙っていよう。
もし何かあったらすぐにペンダントを握れば良い…そう思っていたら……。
眠りにつく時、今まで以上の痛みが胸に突き刺さった。
身体が動かない……。
胸の痛みはどんどん激しくなる。
あまりの激痛に私は助けを呼ぶ事もできずに意識を手放した。
何だか頭がはっきりしない。
靄がかかっている様で気持ち悪い。
食欲も無くて朝食をほとんど残してしまった。
「レティシア、体調が悪いのかい?」
お父様が心配そうに私の方を見ている。
「いえ、ただ少し食欲が無くて…」
お父様は少しホッとした顔をして後で書斎に来るようにと私に言った。
お父様が私に用があるなんて珍しい。
お父様のお気に入りはお姉様なのに…。
そう言えば、お姉様は朝食に出て来なかったけどどうしたのかしら?
「お父様、レティシアでございます」
ドアをノックするとお父様から入室の許可が降りた。
お父様と向き合ってソファに座る。
お父様は何か言いたげに私を見てくるだけで何も言わない。
「あの…何の用でしょうか?」
「実は…アレクシアが病気になったんだ」
お姉様が病気に?
嘘でしょ?殺しても死なない様な、あのお姉様が?
「それで、お前にリオネル殿の婚約者になってもらいたい」
リオネル様の婚約者……。
「お姉様は何て…?」
声が震えるのを必死で隠す。
「病気の自分よりお前の方が相応しいと……」
お父様の瞳に涙が光る。
お父様から見たらお姉様はさぞ素晴らしい方でしょうね。
家の為に婚約者を妹に譲る姉。
ただ本当に病気ならね。
「分かりました。私がリオネル様と婚約致します」
お父様の書斎を出るとすぐにアレクシアお姉様の部屋に向かった。
「何なの?ノックもしないで、いくら双子の姉妹でも失礼よ」
「申し訳ありません、お姉様。病気だと伺ったので心配で…でもお元気そうですね」
「さっきまでは体調が悪かったのよ?」
本当に大嫌い。
お姉様は、いつだって私の欲しいものを持っていく。
そしてすぐにいらなくなる。
いらないんだったら私が貰う。
絶対に返さない!!
「お姉様の代わりにリオネル様と婚約する事になりました」
「あら、そうなの?ごめんなさいね?」
「謝らないで下さい。家同士の繋がりは大事ですもの。ましてや公爵家から望まれての婚約ですものね…」
自分から婚約解消できないお姉様が考えた苦肉の策が病気になって婚約者を私に変更する事。
あんなに大事にされてたのに…。
「今日は何だか強気ね?」
お姉様が不機嫌な顔になる。
「お姉様、病気が治ってもリオネル様は返しませんから!!」
「いらないわよ。あんな男」
私は、私と同じ顔をしたこの女が世界で一番大嫌い。
誤字報告ありがとうございます。




