生きた証
日が沈んだ街を、満天の星空と大小二つの月、そして大剣を包む神秘的な光が照らし出していた。
その神秘的な光に包まれた大剣を縦横無尽に、それでいて型通り捌いているのは、豊かな髭が特徴的な筋骨隆々の男。彼の名は、ロイ・ホワイト。
彼は、濁流の様に街へと流れ込む死霊達を手に持ったその大剣で斬り飛ばし浄化していた。
死霊達を浄化できるのは、彼が持つその大剣に神聖属性の魔法が施されているからに他ならない。
「しかしこりゃあ、飛び出して良かったのう」この世界に留まっている死霊は基本的に生者を恨み弄ぶ存在だ、それ故により強い生命力を持つ者に惹かれる。彼が飛び出した事で、街への被害は少なくすんでいた。
個体名:ロイ・ホワイト 人属:ミル族 種族強度【 Lv.38 】 クラス【 戦士:☆ 】 肉体強度【 246 】 生命力【 869 】
見た目も文化も地球の人間に近く、この世界で最も繁栄している人属であるミル族。その繁栄は、この世界屈指のパワフルな生命力があってこそ成しえた事だ。
故に彼らミル族の歴史を語る際、死霊との戦いは外せないものであり。彼、ロイ・ホワイトの人生においても死霊との戦いは外せないものだった。
ロイ・ホワイトは死霊種を怨んでいる。だが、皮肉な事にその恨みが彼を強くし、彼の人生を豊かにしていた。
ロイ・ホワイトの種族強度は、大台である30を超え40にまで迫ろうかという程に鍛え上げられていた。彼の肉体は、クラスが戦士でしかも星持ちという事もあり鋼の様であった。これは比喩ではない。
彼、ロイ・ホワイトは歴戦の戦士なのだ。
だから、ロイ・ホワイトは大剣を捌きながらこの事態を冷静に見ていた。見ることが出来た。
最初は冷静さを欠き、死霊種に対する過去の私怨から部屋を飛び出してしまったのだが。戦いに長く身を置いて来たが故、剣を振るう度にいつもの冷静さを取り戻していった。
そして彼は、死霊を引き連れつつ、街から離れる様に徐々に戦線を移していった。
街の守りは、信頼する仲間達と先輩に任せ。彼は、餌になる事を選んだ。
「先日のあの暴風に巻き込まれ、死んでいった者達やもしれんなぁ」
彼が歴戦の戦士であるが故、死を目前にした事で、そんな事を考える余裕が出ていた。
「じゃが、じゃからと言って容赦はせん! 潔く浄化しやがれ阿呆共がぁ!!」
餌になる事を選んだ彼だが、勿論、ただで喰われてやる気など無かった。
「せ、精霊の森が… 」
街から少し離れた事で見えたそれは、あまりにも信じられない光景だった。信じたくない光景だった。
暗くても分かった。
その匂いで分かった。
「腐っとるのか。精霊の森が、腐っとるのか?」ロイ・ホワイトは、その見た目には似合わない弱々しい声で呟いた。
無理もない。
精霊達の加護を受けている森が、この街に豊かな薬草資源を与えてくれていた森が、昼間はあんなにも青々としていた森が、今はもうその影を見る事が出来ない程に、腐っていたのだ。
無理もない。
「死霊を退けたって、これじゃあ… 」大剣を握る両手の力が強くなって行くのを止められなかった。
自分の死が無駄になると思ったから、ではない。
彼は、そんな男ではない。
そう、彼は…「 どうしろって… どうしろっていうんじゃあ!!糞死霊どもがぁぁぁぁぁ!!何がしたいんじゃあ!!」
彼の中で、何かが壊れてしまった。
「妹を!娘を!家族を!返しやがれ!! 糞死霊どもがぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」
彼は、冷静さを欠いてしまった。
それが、致命的なミスとなる。
彼は、もっと慎重であるべきだった。
昼間のけたたましい呻き声の正体について、もっと考えるべきであった。
その呻き声の捜索へ向かった者達を、探すべきであった。
突如として現れた無数の死霊について、調べるべきであった。
精霊の加護を受けた森を腐らせる程の存在に、もっと恐怖するべきであった。
そして、私怨に身を焼くべきではなかった。
*
好物を、先に食べる者と後から食べる者が居るだろう。
霧曇 蓮華は後者であった。
それだけだ。
でも。
もっと付け加えるならば、睡眠関連摂食障害。
要は、夢遊病だ。
彼は、夢遊病持ちだった。
屍霊形種なので、睡眠をとる事も必要も無いのだが。
色々あって、彼は意識を失っていた。
それは、屍霊形にとっての睡眠と言えるものだった。
だから、彼は寝ながらに食事を取っていた。
それだけだ。
*
ロイ・ホワイトは一つ、正しい事を言っていたのに、勿体ない事をしてしまっていた。
『いや、巻き込まれる事だってあるじゃろう。それに腹が減ったとかで食われるやもしれんぞ』
彼は、自分の言ったこの言葉を見直し、よく考え、この街から離れるべきであった。
生き残った者が優れている。が、この世界での常識なのだから。
この時ばかりは、命を、人生を、大切にするべきではなかったのかもしれない。
負け犬の遠吠えは、尊重し記される事などないのだから。
恥さらしや腰抜けと罵られようとも、彼は逃げるべきであった。
ミル族にとって、彼、ロイ・ホワイトは此処で死ぬべき人ではなかった。
でも、死んでしまったらそれまでだ。
それだけだ。
それだけに、なってしまうのだ。
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