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生きるという事

挿絵があります。苦手な方はすみません。

 彼の、霧曇うつろび 蓮華れんげの冒険譚、その記念すべき1ページ目は、白紙のまま終わろうとしていた。


 彼は、目覚めたら森の中に居た。此処が何処なのか、何故此処に居るのか、何も分からなかったが。

 そんな事は、どうでもよかった。

「ヤバい、動けない」ようやく喋れるようになって発した一言がこれだ。彼は生まれ変わっていきなりピンチに陥っていた。


 魂を違う体へ定着させたことで起きる拒絶反応、それを Clown=Lord が無理矢理に抑え込んで彼を造り上げたのだ。その魂の痛みは想像を絶する。

 今は、見知らぬ森へと飛ばされているが、産まれた直後はあの暴風の中に居たのだ。その肉体の痛みは死をも絶する。

 形が残っているのは、彼の皮が特殊強化個体の純機械生命体スイガネの外殻を素材として造ってあるという事と、彼の中身が100万人を超える人間の灰を圧縮して造ってあったがために成しえた超現象であり。生きているのは、彼が生まれ変わる際に取得したスキルがあったからこそ繋ぐことが出来たものだ。

 奇跡と言ってもいいだろう。


 ただしそれは、Clown=Lord が関わっていなかった場合で、だ。

 Clown=Lord が関わっていた場合、それは意図的にそうなった必然である。

 つまり、彼がこうなっているのは、意図的な必然なのだ。

 苦しんでいるのも含めて。


 彼は現在、屍霊形種の【 Clown=Lord の怪物 】と言うものになっている。これは、アンデットに近い種族だ。

 故に目を覚ました彼が最初に感じたのは、呼吸ができないという圧迫感だった。

 今の彼は呼吸を必要としない、だから、肉体的は呼吸ができないという事への苦痛はない。

 だが、魂は違う。

 人間としての生きるという意思が、思い込みや固定概念が、彼を圧迫し首を絞めた。

 肉体的に締め付けられているわけではないが故に、もがいてももがいても楽にはならない。溶けることないオブラートで包まれた苦汁が、喉を抜けることなく、だがそれでいて全身を犯し蝕んだ。

 彼は、亡者が呻きのたうち回っている理由を理解する事ができた。

 だがこの時の彼は、呻きのたうち回る、それすらも発する事が出来なかった。

 息が出来ないという意識があったが故に、肺から空気を吐き出し声を出すと言う行為が前提にあったが故に、声を出す事が出来ていなかった。

 だがどうにか、もがき苦しむ中で声を発する糸口を掴む事が出来た。

 魂の発露を肉体に求めた事で、肉体の苦痛が魂に届いた事で、肉体と魂が完全に結びついた事で、己を理解する事ができた。

 呼吸の必要が無いと理解した。

 そして彼は、声を出す事が出来るようになった。


「ヤバい、動けない」何故、動けないのか分からなかった。


「ん?」身体に違和感を覚えた。魂と肉体は完全に結び付いたので、違和感など感じるはずがないのに、違和感を感じた。


 ただそれは、その違和感が痛みであると理解できていなかっただけだ。


「ぐあぁあああああああああああああああああああっあああああああああああああっがぁあああああああああああああああああ」それが痛みであると分かった事で、彼は壊れた。息継ぎの必要がない彼は叫び続けた。魂が擦り切れるまで叫び続けた。


『フフフッ』どこかで聞いた覚えのある含み笑いが聞こえた。それを聞いた瞬間、彼の中の痛みは小さなものへと変わった。何故なら、痛み以上のものが出現したから。

 そして、押し出されるように痛みは消えた。その代わり、意識も失った。

 彼の、霧曇 蓮華の冒険譚、その記念すべき1ページ目は、こうして筆を休める事となった。




『お昼なのに寝ちゃうなんて、可愛いですね。せっかく馬を連れて来たのに… 次は飛ばされないように、ここに繋いでおきましょう』



   *



 彼、霧曇 蓮華が目を覚まし、そして意識を失った、その日の日が傾き出した時の事。

 彼が倒れている場所から北へ2㎞程進んだ所に在る小さな街で、街の役員と長老が集まり緊急会議をしていた。


「なんだ!昼間のあの、けたたましい呻き声は!!原因は、まだ分からんのか!?」唾を撒き散らかしながら、中年の男は禿げた頭を掻いた。

「魔獣が出たに違いないです。きっとそうなのです」こちらは、初老の女性だ。落ち着いている様に見えるが、手の震えから彼女の心境を察する事が出来る。

「魔物やもしれんぞ」髭を蓄えた筋骨隆々の男。その肉体と額に刻まれた傷が、背にある業物であろう大剣が、彼がただ者ではない事を示していた。

「魔物があんな知性のない呻き声をあげるのかね?」乾燥した根菜類。いや、干からび萎びた様な見た目のご老人だ。彼は杖を持っているが、その杖に刻まれた魔法文字が身体を支える為の物ではない事を主張していた。

「余裕が無くなったから呻いているんじゃろう」男は髭を撫でながら答えた。

「魔物なら、私達先住民を不用意に襲う事はないですよね? 心配し過ぎることもないですよね?」初老の女性は震えた声で髭の男に投げかけた。

「いや、巻き込まれる事だってあるじゃろう。それに腹が減ったとかで食われるやもしれんぞ」髭の男は、顔色を変えずに答えた。

「そんな」初老の女性は消え入る様な声を出し、肩を落とした。涙を流さなかったのは、彼女自身も彼と同意見であり、心の何処かで身構える事が出来ていたからだ。質問をしたのは、気を紛らわせる為の現実逃避に過ぎない。

「先日から発生している暴風も、魔物のしたことであろう。あんなのが近くで起きたら、こんな街ひとたまりもないわい」中年の男の頭は先程よりも薄くなっていた。

「その点は、住民達も心配しています」落ち着きを取り戻したのか、初老の女性は長老としての仕事を果たそうとしていた。

「警備兵団やウォーカーへの探索依頼は出したのかね?」杖を持った老人は、この街の長老に問いかけた。

「ええ、すでに手配しています」初老の女性は、完全に気を持ち直したようだ。

「そうか、そうか、それはなによりですな」

「では、調査の報が来るまでに。魔物だった場合と魔獣だった場合、それから、それら以外の害を及ぼしかねない者だった場合の3パターンで対策を練りましょう。他に何かありますか?」

 長老である初老の女性の問いかけに他の者達が、答えようとした。


 その時だった。


「た、大変です!南の方より無数の死霊が迫って来ています!!」息を乱した青年が会議室に駆け込んできた。

「何じゃと!?」会議中も冷静だった髭の男が、初めて声を荒らげた。

「捜索へ向かった者達と連絡がとれません!!」青年は続けた「それに、精霊の森が、森がっ」青年は続けようとしたが言葉が詰まってしまった。

「落ち着くのです」長老である初老の女性は青年に声を掛けた。青年が慌てているために言葉が詰まったのだと思って。


「おボェぁぁァぁッ」青年の口から大量の血が流れ出した。

 静寂と沈黙。

 部屋に静寂が満ちた後、少年の口から流れ落ちる血が床を叩く〈ビチャッビチャッ〉という音と、肺から上がってきた空気が血の泡を作りそれが口の中で弾ける〈コポッコポッ〉という音が響いた。

〈ドサッ〉青年が崩れる様に倒れた。その音が沈黙に終わりを告げた。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」長老は肺の中の空気を絞り出すように叫んだ、叫んだがために意識を失い倒れ込んでしまった。


「うおおおおおおおおっ!!!!」叫び声、否、雄叫びだ。髭の男が雄叫びを上げた。

 青年の立っていた位置にいる死霊と向き合う為に、髭の男は雄叫びを上げたのだ。


挿絵(By みてみん)


 髭の男、ロイ・ホワイトは歴戦の戦士だ。

 若かれし頃は、ブラッディーロイと言う二つ名を持つ程のウォーカーだった。

 そんな彼は、苦する事なく目の前の死霊の首を撥ね浄化した。

 彼の持つ愛剣、大剣〈 ジャッチャー 〉。その刀身には〈 中位・纏う光=神聖属性 〉と言う意味の〈ギギ・イセーテ=ニャルボニ〉と発音するこの世界の魔法文字が刻まれていた。、

「此処にはこれだけか。ワシは見回りに行がよぉ。アンタらは此処か、より安全な場所に移っとれぃ。バン爺さん、後は任せたぞ!」そう言い髭の男、ロイは部屋を後にした。

 その直後。

「〈グググ・シーテ=ニャルボニ〉」杖を持った老人、バン爺さんことバンレリーチェは、魔法の盾を展開した。

 長老が倒れているために下した判断だ。

 バンレリーチェが魔法を展開している間に長老の元へと向かった禿げた中年の男は、長老を必死に起こしていた。

 長老を起こすのに時間がかかるとふんでいたバンレリーチェは、神聖属性の上位の盾魔法を発動していた。

(これでひとまずは… )バンレリーチェは、そう思っていた。


 が、その考えも、盾も、塵紙同然に破かれた。


「」


 部屋に残った三人は声を出す間もなく魂を刈り取られた。





『腹が減った』




お読みいただきありがとうございます。

アドバイス等、ございましたらよろしくお願いいたします。

よろしければ、次話もよろしくお願いします。

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