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無知を埋めるために未知を行く

挿絵的なものを描いたので貼ってあります。苦手だという方は、お気を付けて。

挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



 とある昼下がり


「休みが取りたいとは思っていたけど、本当に取れるとは驚いたなぁー。嬉しいけど、これだけ長いと何していいか分からないなぁー」

 5766は今迄の悩みとは真逆の、贅沢な悩みをボヤキながら、椅子に体を預け両手両足をほっぽりだして大きく伸びをしていた。

(体がほぐれて気持ちが良い)この快感は、機械の身体では味わえなかった事の一つだ。

「この体は良いね」(機械では味わえなかった事を味わえるからなぁ)ただ、問題もある。その一つが「頭の中で考えているつもりが、言葉に出ている時があるんだよなぁ… あ、(今のもだ… 練習しなくちゃ)」

 5766はこの時、この体になって、 純機械生命体スイガネから生まれ変わって2ヶ月が経っていたが今だに慣れない事が多かった。

(情報補助機能・保管機能・収集機能・計算機能とかが色々と弱いんだよなぁ、脳ミソって。

 一応、この体はエルフをベースに色々な種族の細胞とかの情報で造られたホムンクルス体だから、この世界の先住民の平均からすると性能良いはずなんだけどなぁ。

 Lv.100をカンスト出来ない種族だから仕方ないかぁ。例え、この体のレベルをMAXまで上げたとしても、スイガネ時の13分の1にも満たないし。

 そんな機能が落ちている中ですぐに慣れれるほど私は器用じゃないからなぁ。仕方ない事だし、練習をするしかないんだよなぁ)


「まあ、取敢えず。今ある問題を解決しよう」(小さなことからコツコツと)


 その言葉を区切りにと姿勢と椅子を正し。机、ではなくカウンターへと向き直った。

 そして、そこに置かれた一枚の魔用紙へと目をやる。

 それはミル文字と言う、今居る国の公用語で書かれた履歴書兼、専門学校への入学志願書だ。

「私の名前、何にしようかなぁ」5766は新しい自分の新しい名前を考えていた。

「エルフのお嬢ちゃん、それってもしかしてウォーカーの所に出す志願書かい?」少し酒焼けしたひょうきんな声でカウンター越しに話しかけてきたのは、私が現在進行形で食事を取っている大衆食堂兼BAR『サマチョチョ』のオーナーであり、バーテンダーであり、料理人であるサマチョチョさんだ。

 自分の名前を店名にしているくらい自分と腕前に自信がある魚人のオジサンだ。かっこいいのかどうかは私には判断しかねるが、その自信も頷けるほどに料理は美味しいと断言できる。

 おかげで、ここ4日連続で通っている。

「ええ、そうです。面白そうだなぁと思って」

「なるほどねー。 ん、エルフのお嬢ちゃん、紙にソース落としてるよ」そう言ってナプキンを手渡してくれた、気が利くオジサンだ。

「ありがとうございます」頭も軽く下げておいた、お辞儀と言うらしいが、スイガネの時には無かった習慣だ。こういうのは、少し面白い。

「別にいいよー、お嬢ちゃんは、お客様だからね!」でもありがとうと、おちょぼ口の口角を上げて笑顔を私に向けて来た。良い笑顔のオジサンだ。

(魚柄?人柄?の良いオジサンだなぁ。店が繁盛しているのも頷けるなぁ。

 ここは一つ、相談してみるか。一人で悩んでいても仕方がないしなぁ)

「実は今、私の名前を考えていて悩んでいるんですよ」我乍ら変な質問だと思った。

「??」元々丸かった目がより丸くなった様に感じる。

「あ、いやぇ!あ、あ、あその…ん!」てんぱってしまった。

(だ、駄目だぁ!この体嫌いだぁ!!)「思考能力が低下しているし突発的な行動が増えてしまっている は!」(また口に出てたぁ!恥ずかしい… )

「と、取敢えず落ち着いて。僕で良ければ相談に乗るからさ」良い笑顔で引き受けてくれた。




「んー」サマチョチョは暫しの間を置き、理解の声を出す「あ~! そうか、そうか」そして先程とは違う笑みを浮かべて話し始めた。その笑顔は少年の様だった「お嬢ちゃん、精霊種のエルフだったんだね!少し普通のエルフとは違うなっとは思ってはいたんだけどね!」

 興奮しているのか、呼吸が荒くなって口がパクパク言っている。

 陸に上がった魚の様だ …魚人だから実際にそうなのだが。

(まあ、何か勘違いしている様だが。このまま話を聞いて都合が良いようなら、そのまま話を進めよう)

「最初は、密入国してしまって困っているのかなっとも考えたんだけど」

(おお、正解です)

「グラデーションのかかったその髪色や魔力の量、そして何よりもお嬢ちゃんの世間知らずさが、昔会った妖精種のエルフに似ているなって思ってね」

(せ、世間知らず?? 私何かやらかしていたの??)

「ハハハ、でも、妖精族のエルフなんて久しぶりに見たよ。120年ぶりくらいかな、驚いた」こっちが驚いた。オジサンじゃなくて、滅茶苦茶オジイチャンだった。

(魚人の見た目って分からないな、知らず知らずのうちに失礼があるかもしれないから、気を付けよう)

「前に会ったその精霊種のエルフも名前を持っていなくてね『私は私だ』なんて言ってたよ。他のエルフ達は名前を持っていてそれを誇りにしていたんだけど、お嬢ちゃん達はそうじゃないんだよね?」なるほどなぁ、と思った。

「ええ、そうですよね」このまま話しを進めようと思った。

「普通のエルフとお嬢ちゃん達妖精種のエルフは生い立ちから違うんだったね。エルフのお嬢ちゃんなんて呼んでいてごめんね」

「いいえ、いいえ。お気になさらないでください」何の事かは分からなかったが、取敢えず練習していた笑顔をしながら手を振って返した。(謝らせてしまった。罪悪感が凄いなぁ)

「でも、お嬢ちゃんも先に言ってくれたらよかったのに。人が悪いなー」そう言いつつもはにかんだ笑顔だ。

(人が良いオジイチャンで良かった)


「そういえば、お嬢ちゃんお嬢ちゃんって呼んでいたけど。お嬢ちゃんも凄い歳だったりするのかい?」女性に対してするには少々失礼な質問だが、妖精種を含めエルフはこの手の質問を気にしないどころか『私はこれだけ生きているんだぞ!』と自慢してくるくらいなので、質問していいだろうとサマチョチョは思っていた。

 が、5766は肉体のベースは確かにエルフだが、中身までエルフに変わっているわけではない。


「………」


 この質問は、彼女がスイガネ時によくされていた質問に似ていた。

 階級上キツメの言葉遣いをしていた為に年上に見られる事が多々あったのだが、その度に正していた。


「いえ、17歳です!」


(これは、譲れないなぁ。私は若いのだぁ!)彼女達スイガネにとって、若いという事は性能がいいという事なので老けて見られるのは、凄くプライドが傷つく事なのだ。

 ただ、今の彼女はスイガネではない。


「そうかそうか、それは良かった。歳を取ってから生活を変えるのは疲れるからね。若くても疲れるけど、年取ると余計にね。

 だから、若いうちに街で暮らしたり、世界を見て回るのは良い事だと思うよ。ウォーカーなんてピッタリだね」サマチョチョは5766を妖精種のエルフと思って話しているので、5766の気持ちに気付くことなく話を続けた。

 それが、5766の罪悪感と恥ずかしさを高めることに繋がった。

(こういう質問に反射的に答えてしまう自分が恥ずかしい。サマチョチョさんの質問の意図はそういう事じゃないって、考えれば分かるのに… 恥ずかしい。気を付けなければいけないなぁ)

「なるほど、たしかに… そうですよねぇ」どうにか表面的には、平然を取り繕った。

「ハハハ、既に苦労しているみたいだね。文化が違うから色々不憫だと思うけど、無理し過ぎない程度に頑張りな。僕も昔は大変な思いをしたものだよ、懐かしいなぁ」サマチョチョはしみじみと頷きながら、どこか遠くを見ていた。

 それから、体験談と言う名の昔話を交えつつ、色々な事を教えてくれた。

(良いお店に、良い人に出会えて良かったなぁ)

 スイニーンは自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていた。それを見たサマチョチョが同じ様に笑みを浮かべた事は、言うまでもない。




「よし!んじゃぁ、私の名前はスイニーンにしよう!」

 書き上げた履歴書兼入学志願書を高々と掲げた。

「後はこれを提出するだけだなぁ、サマチョチョさんありがとう!」5766、改めスイニーンは頭を下げた。

 因みに、このスイニーンという名前のニュアンスを日本人に分かるように例えて説明するならば大和撫子、のようなものだ。

 他のスイガネに会うことはないと思っていたのと、休みが取れて浮かれていてついつい遊び心で付けてしまったスイニーンと言う名前。後に両親から「らしくないねぇー」と弄られる事になるのだが、それはまた別の機会に。


「お疲れ様。でも、そんな薬みたいな名前でいいのかい? アタリダリとかマルニャニャの方が可愛いと思うけど」スイニーンは(そっちのほうが変だよなぁ)と思ったが口には出さなかった。出し掛けたが、堪えることに成功した。

「ん? スイニーンって薬があるんですか?」スイニーンと言う名前で行こうと決めたが、同じ名前の薬が在るっていうのは少し気になった。

「スイニーって言う錠剤の薬があってね、スイニーンだとそれと似ているかなって」

「聞いた事が無いですね」思ったことを口にした、これは意図的に。

「まあ、最近見つかったからね」

「見つかった? 調合の比率とかを見つけたって意味ですか?」

「いや、言葉通りの意味で。最近見つかったんだよ」言っている意味が分からなかった。

「薬が完成した状態で見つかったんですか?」

「うん、遺跡から見つかったんだよ」

「??」

「たまに、遺跡から薬とかが見つかるんだよ。知らなかったかい? まあ、森の中に居たんじゃ無理もないか」

(妖精種のエルフは森の中に居るのかぁ…  いや、まて、今はそんな事を考えている場合ではない)

「薬が遺跡から見つかったんですか? 本当ですか?」私をからかっているわけではないと、分かってはいたが信じられなかった。

「うん、本当だよ。この遺跡からだよ」そう言いながらサマチョチョは、手の平程の大きさがある薄紫色の六角柱を取り出し、その面の一つを指でなぞった。

 すると空中に映像が浮かんだ。ホログラフィックの様だとスイニーンは思った。

「魔晶石ですか?」映像よりも先に、サマチョチョの手の中にあるその六角柱が気になった。スイニーンは、この体になってから目移りが多くなっていた。

「ああ、そうだよ。ニョニョニョ社の水中対応の情報受信型魔水晶だよ」そう言い、指でなぞった面の反対側を見せてくれた。

 そこには、ミル文字ではない何かが彫られていた。ニョニョニョ社とでも彫られているのだろうが、生身となった事でサーバーとの繋がりが無くなったスイニーンには、それが読めなかった。

(魔法文字とかの関係で、共通文字はないんだったよなぁ。こういうところは生身って面倒だなぁ)まぁ勉強すればいいだけだかぁ、と頭を切り替えてサマチョチョが映し出した映像を見た。


「これは…」思わず口に出してしまった。その映像に映し出されたものとほぼ同じものを見たことがあったから。

「スイニーって言う薬はこの遺跡で見つかったんだよ」

(本当に言葉通りの意味だったんだなぁ… )スイニーンはサマチョチョが言っていることを信じることにした。

 そして、それと同時に深く悩んだ。


(これは、人間の街だ。だが、街は人間ごと滅ぼしたはずだ。いや、確実に滅ぼした)その証拠に、Clown=Lord から殲滅成功の言葉がスイガネ全員に届けられていた。

(だとすると、これはいったい)


「これはいつ発見された遺跡なのですか?いつ頃からあったものなんですか?」自分の情報収集能力の低さを恥じたが、それで立ち止まってしまう程スイニーンは愚かではない。

「見つかったのは…」サマチョチョは、そう言いながら映し出された映像をスクロールさせていった。

「あったあった、3ヶ月くらい前だね。あの光る暴風が発生した時と同じぐらいだね」それから、と再び画面をスクロールさせた。

「かなり昔から在ったみたいだね… んー、でも、あの辺りは山しかないと思っていたけどな… 」この時のサマチョチョは神妙な面持ちだった。ここ4日通っていて初めて見た顔だった。

「そうなんですね… 」120歳を優に超えているであろう彼が、かなり昔と言ったので、相当に古い遺跡なんだろうなと思った。が、そんな遺跡に未だに使える薬があるのは変だとも思った。

 そして、その遺跡があまりにも人間の造っていた街並みにそっくりだった為、スイニーンは(これは、人間が居た世界の物に違いないなぁ。もしかすると、敗北が決定したらその瞬間にこの世界に吸収されるのかもしれないなぁ)と考えた。

 人間が遺跡を参考に街を造った可能性もあったのだが、直感的にこの遺跡は人間が造ったものだと思った。


「最近見つかった遺跡って他にも在ったりするんですか?」スイニーンは質問を続けた。

(私の考えが正しいなら、これで今いくつの代理者が殲滅されたのかが分かるかもしれないなぁ)

「最近だとこれだけだと思うよ、僕が生まれてからだと確か23個くらいかな」

「教えてくれてありがとうございます」スイニーンは深く頭をさげた。

(早々うまくは行かないか)

「いやいや、気にしないでいいよ。人から聞いた曖昧なものだし」サマチョチョは照れくさそうに頭を掻きながら、照れ隠しで話を続けた「スイニーンちゃんがウォーカーの資格を取って国境を越えられるようになったら、遺跡に行くのもいいかもしれないね」と「ウォーカーだったら遺跡とかにも入れるクラスがあるから」と「もし行ったら、その時は話を聞かせてよ」と。

「確かに、良いかもしれませんね」スイニーンは笑顔で答えた。

(国境を越える為に取ろうと思っただけだけど、遺跡巡りもいいかもなぁ。他の代理者達の事を知れるかもしれないしなぁ)

 スイニーンのウォーカーの資格を取るモチベーションが上がった。

(いやぁ、私って運が良いなぁ)スイニーンはいつになく上機嫌になった。

「フフフッ、鼻歌を歌っているなんて上機嫌ですね」

「え!」どうやら、鼻歌を歌っていた様だ。

(恥ずかし… )

 スイニーンは恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠した。


 その時だった。


 <ギィィ>と、錆びた金属同士が擦れる様な音がした。繁盛店とはいえ昼過ぎであった為に客は少なく、その音は大きく聞こえた。

 だから、その音がした方向を見るのは自然な流れだろう。

 元スイガネの5766ことスイニーンも両手で顔を隠したまま自然とその方向に顔を向け、指の隙間からその音の発生源を見た。




「え、何アレ???」両手で顔を隠したままだが、またしても思わず口に出してしまった。

 そして、それがその音の発信源に聞かれてしまった。

「ん、俺が聞きたいくらいだ。てか、アンタも変だと思うぞ。その帽子とかが特に」

「 …喋った! しかも流暢に喋った?!」スイニーンは、この日初めて共通言語が適応されている謎の生物?に出会った。

読んでいただきありがとうございます。

アドバイス等、ございましたらよろしくお願いします。

もしよろしければ、次話もよろしくお願いいたします。

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