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地Fとしては、最終回です。
最初に敗北したのは第一ノ神、Clown=Lord は時を越えて彼女に会いに行った、しかし、そこに居たのは似て非なる者だった。
パラレルワールド、同じ枝分かれと実を付けた別の枝に落ちて移っていただけであった。
次に敗北したのは第二ノ神、Clown=Lord は空間を固定して世界を選択した。
過去の世界に自分の肉体を構成するものが無いと知り、二の足を踏まされる。
だが、種は植えた。
でも、それだけでは足りない。
不幸の種は、種火でしかない。
核を移す苗床を肥やす為のきっかけでしかない。
彼女と生活していく為の、時間を、空間を、世界の流れに逆らえる強固な肉体が要る。
魔王の死体が目に入る。
成功した。
しかし、戦いで傷付いた肉体は時を戻るにつれて小さく弱くなって行き、大気圏へと突入した小隕石の様に、耐えられずに、灰になってしまった。
これでは駄目だ。
持ち込めても、これでは駄目だ。
だから、創る事にした。
そして、待ちに待ったこの時が来た。
神々に契約を結ばせ邪魔をできないようにしたかいがあった。
邪魔ものは居ない。
『 今いくよ 』
*
Clown=Lord により感情を煽られて、冷静さを失っている霧曇 蓮華は気が付かない。
白彦の結界により別界させられた、霧曇 蓮華により空間をも歪められた、怒りと負の感情そして膨大な魔力に満ち満ちた空間に Clown=Lord が降臨した。
渡した杖を鍵にして、別界された空間へと侵入したのだ。
霧曇 蓮華は屍霊形種だ、肉体と魂は別物である。
一瞬の出来事。
計画されてたが故に、一瞬であった。
霧曇 蓮華は肉体を乗っ取られる。
移った先は己が遺灰。
元の肉体の成れの果て、霧曇 蓮華の魂は容易にその遺灰に乗り移ってしまう。
魔物達の遺灰との相性も良く、離れることが出来ない。
灰は入り込み易く、固まり易い。
霞が晴れ、声の限り叫んだ。
「 Clown=Lord !!! 貴様ぁッ!!!!!!!!! 」
「 アハハハハハハッ!!!!! 」
別界された結界内に次元の扉が開く。
霧曇 蓮華は遺灰を糧に肉体を再構築し、Clown=Lord に殴り掛かる。
肉体差により叩き落とされる。
敗北した神の元代理者、アット、コニャニャコ、コトゥーの三名が Clown=Lord に襲い掛かる。
白彦の結界を超えられるとは、流石は魔物、と言ったところだが、もう遅いのだ。
Clown=Lord は時を越えて会いに行った。
「クソがぁぁぁッ!!!!!」コニャニャコが声を荒げて叫ぶ。
「やられちゃいましたね… 」コトゥーは表情硬く声を強張らせる。
「魔王だな?」アットは冷静に状況の把握に努める。
「そうだ」アットの問い掛けに禍々しき二本の捻じれ上がった角を額に讃える巨躯の男が答える。
彼が、魔王だ。
彼が、魔王 霧曇 蓮華なのだ。
「このままでは、我々の神の御身の眠るこの世界が無くなってしまうッ!!!!!」
「世界の死が近づいてきていますね… 」
「どうすれば?」
「こうする他無い」
元代理者三名の首が飛ぶ。
「 !? 」
「死んで力が吸い取られて行く… 」
「神の代理者としてのこの身で、神と共に眠りたい、蘇らせてはくれるなよ」
死までの時を引き延ばしているのだろう。
首だけで喋っていても、魔物だから、と魔王に驚きは無い。
「後は任せたぞ、魔王蓮華よ………… 」
「 その名で呼ぶな 」
魔王は白彦とアンリ達の居る方角に手をかざした。
「【 金剛魔弾 】」
*
この世界の夜は長い。
だから、この街には多くの人々が集まっている。
炎と製鉄の街【 ボリュート 】、この街は夜も明るく温かい。
ドーナツ状に大地に築き上げられた鉄の防壁は正しく鉄壁、その円周100㎞にも及ぶ鉄壁そのものがこの街に住む人々の住まいでもある。
否、ここにしか住めないと言った方が正確である。
何故なら、ドーナツの穴に当たる部分はとても人が住める様な環境ではないからだ。
灼熱、溶けだした大地が対流し全てを溶かす。
82年前から続く謎多き自然現象として護り継がれているこの街の恵み。
製鉄や発電に要する燃料代が要らない為、この街で作られる物はみな安く重宝されている。
この大地の恵みに皆感謝し街を護り継いでいる。
幾多もの侵略に耐え抜いたこの鉄壁を誇りに思っている。
今日、その鉄壁が突破された。
「あああああああ!!!!!」
「私達の街が!!!!!」
「ひぃぃぃぃッ!!!!!」
蟻の子を散らす様に逃げ惑う人々の横を煌びやかな輝きに身を包んだ100万を裕に超える屍の軍勢が通過する。
屍の軍勢が目指すは街の中央であり繁栄の中枢、魔物の眠る地。
「何だあれは」
鉄壁をいとも容易く突破した屍の軍勢の中央に生態系の頂点を見る。
ユニコーンの様な勇ましき角を生やした六本足の雄々しく禍々しき黒馬、体高だけでも3m近いサイズのその黒馬に跨った角と尾を生やした巨漢。
それは魔王。
街の管理者は己の愚かさを悔いる。
金剛石の軍勢が向かってきているのを知って、『金剛石とは、豊作じゃないか』と驕ってしまったことを悔いた。
『門を開けなければ突破する』
その言葉を嗤い、『攻撃するきっかけが出来たわい』と要望を嗤いのけた己の愚かさに嗤ってしまう。
100万の軍勢が通る道は広く、街人の受けた心の傷は深く、街の受けた損害は大きい。
「何故に、我々を殺すのですか???」
縋る様に大地に手をつき遠く離れた魔王に問い掛ける。
「俺が殺せば後で復活してやれる」
何の話か分からなかった。
ただ、自分の死がそこにある事は理解出来た。
「全てを燃やし尽くせるというその力、死して俺に献上せよ」
【 トライ 】
それはある世界に咲いていた花の名。
挑戦者の夢を叶えるという力を持ったその花は、未知を求める冒険者の願いに応え新大陸を生み出し、強さを求めた武人に核ミサイル攻撃にも耐えうる強固な肉体を与えた。
そして、次第に世界は荒れて行った。
花を求めるという願いを叶える為に力を使った花ばかりが見つかるようになり、人々は『己の求めるものは何か』を真に考える様になり、平和が訪れた。
しかし、平和は悪党に考える時間と準備をする余裕を与える行為でもある。
悲劇が起きた。
小さな村で幸せに、平和に暮らしていた家族の傍に【 トライ 】が咲いたのだ。
それを奪いに来た悪党からその花を護る為、雪降り積もる中幼き少年が妹の手を引き山へと逃げた。
親から言い聞かされた最後の言葉は、『逃げて、そして生きて』。
妹を連れ山へと逃げ籠った少年は冷えて行く妹の手を握りながら太陽が昇るのを待った。
「お日様が出れば、悪い奴らも居なくなって温かくなるから、もう少しの辛抱だ」
しかし、暖かな日が昇る前に少年の額に冷たい銃口が突き付けられた。
生きなきゃ
【 トライ 】はそんな願いを、自分より遥かに大きな武器を持った男に立ち向かおうとした少年の挑戦を叶えた。
冷たくなって行く妹を温めてあげたいという願いも含めて。
お日様が出れば、そんな少年らしい考えを汲んで、【 トライ 】は少年の願いを叶えたのだ。
生きる太陽
妹を己の手で殺してしまった、己の世界を壊してしまった、その罪の意識に押し潰されそうな少年。
誰も彼に近づけず、慰めで叩かれる事も、手を添えられる事も、誰かの温もりを感じる事も無かった彼の背中に手が当てられた。
少年はようやく眠りにつく事が出来た。
「眠れよ、少年」
最後に聞いたその声は優しく、とても優しく、温もりが有った。
そして何故だか、とても悲しい声にも聞こえた。
「これで軍を増やせるな… 」
この世界に真実など無い。
話し合いによる和解合併など解釈の歪め合いの果ての結合でしかない。
解釈の違いが生きる世界の違いだ。
一つの事象にも幾重ものルートと視点が存在する。
「己の真実を抱いて死ねれば、幸せなのかもしれないな」
最初から、最後まで、全てが、総じて、嘘であるかもしれない中で、魔王は旅を続ける。
独りで。
幸せを探しながら、幸せに殺せる方法を探りながら、独りで旅を続ける。
屍の軍勢を駒として、記される事無き旅路を歩む。
だから、誰も彼の事を知る者は居無い。
「 Clown=Lord を殺してやり直す、取り戻す」
ただ、それだけの為に、彼は産まれたのだから、そうするのだ。
それが魔王の解釈、世界から攻撃されようとも彼はその歩みを止めない。
もし、彼が、解釈を変えれば違う道が有ったかもしれないが、そうしてしまえば彼は彼ではなくなってしまうから、彼は魔王なのだから、これが彼の歩む道なのだ。
「001元帥様、奴が魔王です」
「5766大佐の情報とは随分と見た目が変わっているな。 奇妙な馬になったりと忙しい奴の様だな」
「攻撃を開始します」
「ああ、そうしてくれ」
当人不在の戦争など無い。
戦争とは社会が起こすものだ、そして社会とは人々によって築かれるものである。
その事を意識することが、美しき解釈論を見出すことが重要なのだ。
「死ね、魔王」
そして再び日が昇る。
ここまでお読みいただけた方には感謝を、お読みいただきありがとうございました。




