歪みにより正される
投稿が遅くなりました。
挿絵があります、苦手な方はお気を付けを。
勇者死亡の報が王の耳に届いたのは勇者死亡当日、日が沈み長い夜の訪れを迎える支度をしていた時のこと。
その報を持ち帰ったのは愛娘である、勇者と行動を共にしていたアリスレー姫であった。
「お父様、勇者様が… 勇者様が… 」泣きじゃくる娘を三人の女子が肩を貸し手を添え王城まで連れ帰ったのは3時間ほど前の事。
「そうか… そうか… それは辛かったなぁ… 」娘は既に16歳の成人だが、子供の様に瞼を腫らしている。
九つの時に王妃が亡くなって以来、悲しませないようにと甘やかして育てたせいかもしれない。
私は、私の膝に顔を埋めローブを濡らす娘の頭を撫でてやる事しかできない。
しわだらけの硬く乾燥した手で頭を撫でても慰めにならないかもしれないが。
「勇者が死ぬとはな」王妃を殺した者達の居る外の世界を怖がり自分の世界、部屋に閉じこもり気味だった娘を外に連れ出してくれた勇者には感謝している。
『俺も外が怖くて一歩を踏み出せなかったから、姫、アンタの気持ちは分かるぜ。 でもー… 』最初は無遠慮な若者だ、とも思ったが亡くなってみると空しいものがある。
「まだ夜は長く冷え込みますので、お休みになられるが良いかと」王である私に面通り無く意見を言える者は少ない。この部屋でそれが出来る者は私の護衛に就き、私が唯一背中を任せている男、王国聖騎士長 アキラただ一人である。
「娘よ、一人で立てるかい?」私の衰えた足腰ではこの華奢な愛娘の支えになる事さえも出来ない。
「はい… お父様… 」恋した者を亡くしたばかりにも関わらず、私に気を使い、一国の姫であるにもかかわらず、床に手をつき椅子を支えに立ち上がる娘の姿を見る事になるとは、我乍ら情けない。
優しく育った娘を嬉しくも寂しく思い、見つめ、想う。
「勇者の死について、私が、このアリスター国王が、詳しく調べよう」これが私の出来る唯一の慰めなのかもしれない。
メイドを連れて自室へと向かう娘の背中を美しくも重々しい扉が遮り閉ざした。
「姫君とそのお仲間方は勇者が亡くなられたショックで記憶が混濁しており、詳しい事を知る者は蟲人を殲滅し、姫君達を助けたという彼らだけです」力を持った勇者が目の前で、死体も残らぬ程の… 相手が蟲人だという事を考えれば、おそらくは喰われたのだろう。それを見たのなら、記憶が混濁してしまう程に気を保っていられなくなったのも頷ける。
「あの4人組、1人はドライアードの苗木であったな、つまりは実質3人で勇者を喰らう程の蟲人の軍勢を殲滅したという事か」にわかには信じがたい。
「ええ、森の壊滅状態から、彼らの言う様に殲滅したことは確かなようです」
「しかし、飛び散った体液は有るものも、死骸は無いのであろう」あの4人組の証言に矛盾は無いように思えるのだが、信用するにはあと一歩及ばない霞の様な不信感を抱いてしまう。
「種族特性なのかもしれません」
「あの角の生えた美しい面立ちの漆黒のフェザーローブを着た白髪長身の女か、他は妖精種のエルフと巨体の獣人にドライアードの苗木、あの女の種族は何だ?」娘を救ってくれた者達に対して無礼な言動かもしれんが、異種族4人で構成されたあのパーティーには私にそのような言動をとらせるだけの不審な点が多く有る。
「種族は私には分かりかねますが、レベルは30から35と出ております」レベルはミル族だと聖騎士クラスであるが、種族が異なればそれも変わってくる。「獣人はLv.45から50、妖精種のエルフはLv.35から40と出ていましたので、あの女もそれに似合うだけの強さを持っているという事、おそらくは中位から上位下位にあたる種族かと思われます。これらの事をふまえたうえで種族については、現在、王都内の学者達が調査中です」
「そうか、うむ。 強さは本物だとして、どこまで信用できるか」難しいところだ。
私に相手の心を読むスキルが有ればよかったのだが、私に有るのは疑心してしまう一国の王としてはあまりにも弱きこの心だけだ。
「強者が王都に野放しになっているのは問題であると思いますので、勇者の時と同様に王の御前試合を行い、王都民の目を監視の目に変えるが良いかと私は愚考いたします」
「ふっ、その考えが愚かであるなら、そのような案さえも考え至らない私は愚か者だな。 その試合の件はアキラ、お主に一任しよう」娘には『私が』と言っておきながら情けのないことだ。
「必ずやご希望にお応えして見せます」王の前でこれだけの事を言えるこの男は実に頼もしい。
「これをきっかけにして多くの情報が集まると良いのだがな」
こうして国王は夜を迎えた。
*
「まさか、向こうから挨拶をしてくるとは、な」魔王にアポ無しの訪問者が一名、その無礼者に対してアンリが何かと文句をたてているが、その文句は私と白彦にしか聞こえないのでやめてほしい。
「何か強いのが居るねぇ」
「双葉ちゃん、俺の後ろに隠れてな」
「敵意はあまり感じないから、様子見できたのかな?」私は宿屋、旅館と言った方がいいかもしれないが、その借りた部屋の扉を開けた。
勝手に茶を飲み足を崩した土足の男前が居た。
余裕を見せつつ気を許さない、そんな感じだろう。
「確か、王国聖騎士長さんでしたよね?」勇者男の愉快な仲間達を、4人の女の子を近くの街に、ここ、小国【 バッジールーニャ 】の王都へと一緒に連れて来たのだが、その連れて来た女の子達の中にこの国のお姫様が居て面倒事になった。
そして、その時にこの男前が現れたのだ。
アーロンさんとスイニーンさんには、アンリのカルマ値を隠しつつ白彦が騒ぎにならないように、と言い伝えていたが、私の身元を隠す為に白彦の人馬一体のスキルでこの姿になっていてよかった。
見た目は魔王のクラススキルである独裁政権により書き換えた。
だから、見た目の怪しさは無いはずなのでそこは問題ないはずだ。
なので、この男前がここに居るという事は、私の内面的な事を感じ取っての事だろう。
「単刀直入に聞く、貴様は何者だ」
「私は、魔王だ」
「なるほど、魔物ではないか。 では、質問を変えよう。 何故、勇者を殺した?それは、魔王としての勤め故にか?」
「勝手に質問をするな。 私は貴様の問いに答えてやったつもりはない、たんなる自己紹介だ。 普通は貴様が先に名乗るものであろう?」私の最初の質問を無視して話しを進めるとは、なかなかだな。
「ふっ」
「命が惜しくないというのであれば、私は貴様の不用意な言動と無礼な態度を止めはせんぞ」
「 …、ふぅ~んー… 。 俺の名は、アキラだ。姓は無いが、称名と役職は貴様の言う通り、王国聖騎士長だ」
「そうか、私の名は霧曇 蓮華だ。呼ぶときは魔王で構わんぞ」白彦とアンリの影響か、口調が硬くなりすぎている気がする。
「魔王よ、俺を殺しに来たのか?」
「貴様次第だ。 貴様は神を殺せるか?」
「神にも死があるんだろう、なら、殺せるんじゃないのか」
「 …貴様は、この代理戦争に興味が無いようだな」
「無いな、何の得も無いからな」
厄介な。
「私が魔王である事を随分と素直に受け入れたようだが、今から私が話す事も同様に素直に受け入れよ」
「その話し次第だな」
私は、Clown=Lord と大いなる神についての事の次第と、それに対して私達のとっている対応を口頭で説明した。
金剛魔像達による包囲網に引っかからなかった小物に全ては話さない。
「はははははっ!!! 神っていうのが、とんでもない愚か者って事がよぉく分かったぞ」
「私の話を聞いていたのか?」
「己を超えて殺す存在を制御するべく生まれた魔王がこの程度ならば、大いなる神とやらもとるに足らんようだな」
「・・・・・」
「そうだ、貴様も俺の愛人にしてやろう」
何を言っているのだコイツは?
「勇者野郎を泳がせておいて正解だったな、おかげで良い情報が手に入った」
「私に協力するのか、しないのか、それだけははっきりさせてくれよ」こいつの話を聞くのは苦痛だ。
アンリだけではなく白彦までもが怒りを露にしている。
その怒りの声は、私にしか聞こえないけどね。
「ピエロの王なんぞ取るに足らんだろう」弾避けくらいにはなってくれそうだ。
はぁ…、 頭が痛い。
「そいつが攻めて来るその時までは、お前を可愛がって暇を潰すとしよう」
< むにゅっぅ >
フェザーローブに包み隠され弾けんばかりに熟れ膨らんだ柔らかな、とても柔らかな、一点の紅を色付けた純白の果実が二つ。
その果実を手にした者は極楽浄土へと昇るであろう。
その果実の持ち主の怒りをかわなければの話だが。
もし、怒りをかえばその者は煉獄のその先まで吹き飛ばされる事だろう。
憤慨
自分よりも怒れる者を目にした者は一瞬の冷静さを得るという話がある。
霧曇 蓮華のその怒気と負のオーラに当てられた白彦とアンリは冷静さを取り戻すきっかけを得た。
白彦は人馬一体を解除し、霧曇 蓮華といけ好かない男前を自身の持つ中で最上位の防御結界で別界した。
アンリはサモンした菌手でスイニーンとアーロンを掴み、二つの実手で双葉を抱きかかえると音に勝る速度で旅館を貫け王都最外壁下へと移動した。
アキラは超速計算処理のスキルで状況を理解し迷宮制作のスキルを使用し、霧曇 蓮華を迷宮最下層へと閉じ込めて、物理的に遠ざけた。
これまで気に入らない奴らを閉じ込め消してきた様に、拉致して監禁している女子供達の様に、出口無き迷宮に閉じ込めた。
霧曇 蓮華は人に触られるのが嫌いだ、絶世の美女であるスイニーンに触られることでさえも心に靄がかかってしまう程に人に触られるのが嫌いだ。
ましてやこの様な羽虫に触られる事など、憤慨ものであった。
そして、霧曇 蓮華は魔王である。
魔王とは、神殺しの愚像を制御する為に生み出された存在である。
制御は殺す事よりも難しい、死への恐怖が制御の為に利用される程に難しいものである。
今回、霧曇 蓮華が Clown=Lord を殺す事に決めた理由はたんに、今の自分がレベラダウンしているからにすぎない。
言うなれば、霧曇 蓮華は大いなる神の代理者、大いなる神の魔物であり、王、魔王である。
自分が死んだ後の世界が幸せな世であるように、繰り返すように、自分の生が繰り返さないように、大いなる神は第三十ノ神を生んだのだが、その神の創り出した魔物達の持つ輪廻という環境に魔王が入ってしまったのは必然であった。
そう、偶然ではなく、奇跡でもなく、必然であった。
なぜなら、Clown=Lord もそれを望んだからだ。
『制御しやすくなるまで衰えさせれえばいい、使い物になるまで育てればいい』
紫色の魔力は空間魔法を示している。
『日輪、やっとだ、やっと会いに行けるよ… もうすぐそこなんだ、待っていてね日輪… 』
霧曇 蓮華が Clown=Lord より受け取った杖、その時溢れ出たる魔力の色は、紫。
暴嵐の中で、Clown=Lord により無理やり時の流れの止まった世界で、何故、霧曇 蓮華は意識を正常に保てたのか、そして何故、何故あの時、Clown=Lord が男なのか女なのかの判別さえも出来なかったのか、体の感覚が無い事に気が付いたのが名乗った後だった事の意味は?
何故、大いなる神は魔王に名前を授けていなかったのか?
何故、魔王の魂は霧曇 蓮華という名を気に入り受け入れてしまったのか?
何故、女になっているのか?
何故、Clown=Lord に似ているのか?
何故、灰なのか?
何故、杖を持ち始めてから紫色の魔力が薄れていたのか?
何故?
何故なのか?
もう分っているだろう?
魔王が迷宮の奥底に封印されているのは、定石。
だが、うまくいっている事に目を躍らせてはいけない。
怒りに身を任せた魔王が相手だという事を忘れてはいけない。
何故なら、盤上の石を相手にしているのではないのだから。
「 え 」
ルールを、法則を無視して盤を、常識をひっくり返す魔物達。
しかし、Clown=Lord という存在のしいたルールに従う魔物達。
自分達がこの亡き神の懐たる世界の生態系の頂点に居ない事を知った魔物が此処に一人増える事となった。
「 あはははは… 」
笑うしかなかった。
己の愚かさを、神をも超えれていると勘違いをした事を、うまくやれていると思っていた己の矮小さを、笑うしかなかった。
己こそが盤上の石だと知った。
アンリが復活した日の会話の一言、『王の存在を留めるにはこの器では小さすぎるのでは?』、まさにその通りである。
【 金剛粉鎧 】
霧曇 蓮華は、憤慨し、粉鎧した。
その巨体故に無数の煌めきを纏いて、怒りでその身を膨張させた魔王然とした魔王 霧曇 蓮華の君臨である。
大地から上半身を起き上がらせ、頭に乗った建築物と土砂を溢しながら立ち上がるその姿は傍目から見ればシュールさがある。
しかし、梺で見ている者達からすれば恐怖でしかない。
その恐怖が、負の感情が、霧曇 蓮華に更なる力を与える。
まさに魔王。
霧曇 蓮華が魔王たりうることの証明である。
アンリが王都外まで逃げた理由は魔王の身体に呑み込まれないようにする為である。
白彦が結界を張り別界したのは世界が歪むのを阻止する為である。
神亡き世界では魔王の力は強すぎるから。
お
前
を
殺
す
目ざわりで耳五月蠅い羽虫に向けられたこの一言で、王都民は絶命した。
娘を想う王も、最愛の人を失った悲しみに打ちひしがれる少女達も、魔物を除く全ての者達が今の一言で魂を捕食されてしまったのだ。
だがそれは、不幸中の幸い。
生き残った者は、魔物はこれより地獄を見る。
落ちた時には、後悔してももう遅いのだ。
「俺は、何であんなことをしてしまったのだろう」
『アハハハハハハッ!!! いよいよだ!!!』
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。




